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臨時 vol 5 マンチェスター通信-1

医療ガバナンス学会 (2004年7月29日 09:30)


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国立病院機構東京医療センター・萬先生のマンチェスター通信を配信していきます。================================================================
Manchester通信-1
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Christie Hospitalは英国中央部(England北西部)のManchester市に
位置しています。Manchesterは放射線治療に携わる人やサッカー愛好家
の間では知らない人はいないでしょう。日本からも過去多くの先生方が
留学されている病院です。私は1999年10月より1年3ヶ月間、clinical
fellowとして家族と共にManchesterに滞在しました。滞在当事に書き溜
めた英国の臨床腫瘍学の医療事情についてお話させていただきます。

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センター化の波
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この10年くらいで英国では医療施設のセンター化が一気に加速された
そうです。年間に少数のがん患者しか治療しない施設と多数の患者を治
療する施設では治療成績に明らかな差が見られたため、国の方針
(National Health Trust: NHS)でセンター化が進められたと聞きます。
手術の上手下手も同じことで、例えば軟部肉腫の手術ができる施設は英
国中で2箇所の病院に集中化されています。
さて、Christieは開設当初からEngland北西部のがんセンターの使命
がありました。英国の放射線治療施設は現在51箇所あるそうです。NHS
においては患者が紹介される治療施設は基本的には地域ごと(catchment
area)に決まっています。これはGP(家庭医)や公立小中高等学校と同
様で、住む場所により限定されるシステムです。Christieは450万人の
住む地域をカバーしており、これは英国でも圧倒的な最大規模です。裕
福なロンドンや英国南部では治療施設も密集しており、catchment area
は複雑にいりくんでいます。ロンドンのRoyal Marsden Hospitalは
catchment areaをはるかに越えた地域からも例外的に患者が集まります。
Christie Hospitalには年間1万人の放射線治療新患登録があります。
(ちなみに他の有名な主要施設では大体年間6千人位。)人口百万人当
りでは治療医(consultant)4.6人、技師10.7人、物理士2.7人ですが、
これは英国の中では少ない方だそうです。LINACは8台ありますが、人口
当りにすると、英国では最低から3番目くらいです。使用年数は3年から
17年で、決して豪華な機械があるわけではありません。(ちなみに英国
で一番長く使われている装置は37年使用されているそうです。)このよ
うな比較ではRoyal Marsdenは圧倒的に恵まれており、相当の地域差が
あります。先日もブレア首相がManchesterにやってきて、南北の財政事
情の格差に対して言い訳をしていました。
結果として治療のwaiting listは相当長くなります。Christieでは当
然最長であり、大体治療を予約してから開始まで2-5週間かかります。
英国では数%の患者は民間保険に加入し、プライベートで病院にかかる
ことができますが、それとて待ち時間は縮められません。但し、これは
センター化の問題点というよりも、Christieが過去から引きずっている
問題であり、英国内の地域差がこれを解決できないままということです。
Christieのhypofractionationは歴史的にこのような台所事情にも関連
しています。
にもかかわらず、Christie が立派な治療成績を出している基盤が貴
重だと思います。しかも、英国人は日常生活から待つことに慣れており、
あまり表立って問題にする患者はいません。確かに患者サービスはとて
も良いと思いますし、患者の満足度も高そうです。専門家がじっくり見
てくれますし、患者を投げ出すことはありません。GPや一般病院の外科
医との連絡も一般的に良好です(日本の病院内関係よりも更に良さそう
です)。例えば、Christie の研究会には多くの外科医がやってきます。
また、外来患者の診察時に他院のCT検査結果の連絡が届いてない場合
(それは他院の責任ですが)、担当医がその場でその病院に電話し、報
告書をファックスで取り寄せて患者に見せながら説明することもありま
す。
英国のがんセンターの中でもずば抜けて忙しいので、ロンドンの病院
に比べて論文は少ないようです。当然、米国の医師からは相当貧弱な施
設だと言われるそうです。しかし、日本の国立の総合病院に勤めていた
放射線科医の目から見ればChristieは大変恵まれた病院であり、日々の
努力もその結果も眩しいばかりです。
1)英国では治療装置が日本におけるほどたくさんの施設に分散してい
る訳ではない と思いますが、患者さんにとっては通院が遠方のためた
いへんな方もおられるかと思いますが、米国のような宿泊施設が病院の
近くにあるのでしょうか。

英国には放射線治療装置を備えた病院が51箇所、リニアックは173台、
コバルト22台(すべてリニアックに置換される予定)あります(1997年)。
ちなみに人口数は日本の半分です。英国南部は恵まれているようですが、
北部すなわち、スコットランドやマンチェスターのある北西部、リーズ
のある北東部は、がんセンターは少ないので、患者さんは通院が大変な
はずです。なかでもChristie Hospitalは450万人の人口を一手に抱えて
います。しかし、院外の宿泊施設はありません。遠方の人はやはり入院
が多くなります。ただ、公共交通機関が整ってない代わりに、道路網と
自家用車の普及が著しく、山が少なく平地が多い土地柄なので、ロンド
ン以外は日本のような渋滞がないため、相当の人が外来で治療を受ける
ことを希望します。車の無い人たちには、ambulance(救急車ではない)
という小型バスのような輸送車があります。これは患者が希望するとGP
(家庭医)が手配します。無料です。
放射線治療期間は、相対的に短期間です。たとえば骨転移なら1回照射、
症状緩和目的の治療は1回から8回、無数にある皮膚がんも小さければ1
回照射、根治照射でも骨盤を除けばほとんどが3週間です。(この辺の
議論は本当に面白いのですが.)治療後のフォローは、医師が地方にで
かけていき見ます(これはアルバイトでなく、義務です。処方はみな家
庭医GPが行います(モルヒネやタモキシフェンなど)。
何よりも地域医療が充実しているのが特徴の一つです。

2)米国のNCIのPDQが、日本でも標準治療の参考資料として引用される
ことが多くなりつつありますが、英国でのがん治療における標準治療と
しての何らかのガイドラインのようなものはあるのでしょうか。

乳がんについては学会(Royal College, Clinical Oncology)が出して
います。テクニックなどの放射線治療は住んでいる地域で異なります。
しかし、日本ほどではないように感じます。例えば、乳がんのI期II期
に対しては、教科書的な治療しか行われていません。専門医会ニュース
でワーキンググループの先生方がまとめていたのとあまり大きな差は有
りません。日本で、あの通り行っている施設はどのくらいあるのでしょ
うか。たとえばフォローにしても、英国では大体あの通りです。(違い
をしいていうと定期的にCXPや採血もしない、目的が明確です)日本で
は北から南まで、都市から地方まで治療方針が相当違いますよね。(特
に補助療法やフォローの仕方がいろいろだと思いますが。)英国はとに
かくエビデンスの好きな国のようです。evidence-based medicineを言
い出した国ですから、それがないと新しいことは行わないので、最低必
要限のことしか行わないし、逆にエビデンスががっちり揃うとそれが全
国規模で統一されて行われます。標準にしたい治療については、全国ト
ライアルが終始行われています。

3)最近、日本では病院での事故が新聞で取り上げられることが多く、
医療訴訟も増加しつつありますが、英国での状況はどうでしょうか。先
生からみられて、興味深い事例がありましたら教えてください。

医療訴訟は明らかに増加しているそうです。また、この半年の間に、殺
人鬼であったGP、腎摘出の左右の間違いといった日本同様の事件も有り
ました。日本と比べ責任が明確な国なので、医師の責任ははっきりして
います。ただ基本が国策医療なので、もとじめのNHS(National Health
Service)も相当責められることがあります。英国は最小限のお金で質の
高い医療を提供していると言うのがとりえです。上手く行かないと、金
のかけ方が悪いと、政治家が責められます。英国のがん治療成績が悪い
のは、放射線治療の待ち時間が長いからで、それは機械と人が足りない
からだとBMJ(British Journal of Medicine)に書かれます。また、新し
い抗がん剤の普及が遅れたせいだとか、患者からも責められます。する
とブレア首相がそれはいけない、他の欧州と同じ位のお金をNHSに回す
計画を立てようと発言します。それでNHSにがん治療のお金がつくこと
になり、いずれ治療装置が少し増えることになるようです。

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物理士physicistの話
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Christie Hospitalの物理士に、一体何人の物理士がいるのかと聞いた
ところ、沢山いて数えられないが、少なくとも50名はいるだろうとの返
事でした。これはChristieに英国北西部の物理士の本部がある上、隣接
するPaterson研究所の人も含めているはずです。確かに治療、診断、核
医学の部門毎に会社のオフィスのような部屋があり、そこに無数の人が
働いています。日本の病院では物理士は滅多にいないと伝えると、とて
も驚き、装置が壊れたらどうするのか聞かれました。日本ならすぐメー
カーに連絡するというとさらに驚かれました。こちらでは機械装置の管
理、修理、改造はすべて自前で行うのだそうです。物理士による機械の
点検は良く見かけますが、フィリップス(こちらの治療装置では主体で
す)の会社の人は見たことがありません。病院内のオンライン化や線量
計算のソフトも皆オリジナルだそうです。私が滞在している間にも着々
と院内のオンライン化が進んでいます。日本と異なり、物理といっても
ある種の専門資格をいろいろな人が獲得し、病院で働く機会が得られや
すいようです。転職(病院間を含め)も少なくないようです。線量測定
もしますし、エンジニアと区別がつかないところもあります。先日、半
年前に導入されたというGMのPETを見学したのです(ちなみに1代目は完
全に手作りの動物専用機ですが、解像度は人間用より遥かに高い)が、
核医学薬品の取り扱い、注射、患者の対応は技術者technicianという職
種の女性が行っていました。彼女たちが核医学の専門家になっており、
基本的な機械の扱い、画像作成までてがけています。放射線技師はその
建物では働いていません。PETの新しい機械に関しては、慣れていない
ので、しばらくの間は、物理士が機械を扱い、技術者に少しずつやり方
を教えていました。PETの画像の読影は、物理士と放射線診断医が別々
に行い、臨床情報を臨床腫瘍医がもちこみ、feed backするのだそうで
す。
ところで、英国では古い建物や家屋が多く、備え付けの電気製品など
の故障は少なくありません。中古製品や中古車が市場に出回り、繰り返
し使われます。車はほとんどがマニュアル式です。車を2年使用して売っ
ても値段は元の半額を下ることはありませんし、それが延々と続くので
す(新車も中古車も日本より高価ですし、廃車直前でも7万円で買い取
られます)。椅子でもTシャツでも何でもリサイクルされます。車や電
気製品は故障も少なくないのですが、とても古い部品でもスペアが手に
入り、何度も壊れ何度も治ります。その代わり、たとえば家の電気製品
の故障の修理を頼んでもすぐ来ることはありません。事態にもよります
が、特に緊急でなければ1週間くらいが目安のように感じます。英国で
はエスカレーターはしばしば故障し、毎週のようにどこかで修理してい
るのを目にします。物理士の話はこんな生活文化とも共通しているのか
もしれません。
日本の若い放射線技師が仕事をしながら大学に通って修士をとること
が少なくありませんが、それがもう少し実用的な資格や給料につながる
と良いのかなとも思います。日本の放射線技師には優秀な人材が沢山埋
もれているのはご存知の通りです。日本医学物理士の敷居は少し高すぎ
る感じがないのでしょうか。
(Manchester通信-2 へ続く)

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