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vol 1 「Tumor dormancy therapyの現況」

医療ガバナンス学会 (2006年1月10日 06:26)


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2006年1月10日発行

-継続性と個人差重視の抗癌剤治療-
金沢大学がん研究所腫瘍外科 助教授
高橋 豊

● その概念と歴史
私は癌の発育速度、転移、血管新生などの生物学の研究から、現在の抗癌剤治療に関する問題点を提起し、抗癌剤治療の憲法とも言える「縮小なくして延命無し」は間違いで、「縮小がなくても延命する」ことを理論的に示してきた(JNCI 1995)。

以前から、Folkman博士は血管新生の抑制により、微小転移を小さくすることは難しいが、大きくならないようにできることから、tumor dormancyと表現していたが、私はこれを

1.微小だけではなくすべての腫瘍、
2.血管新生の抑制だけではなくすべての治療

の2点で拡大解釈し、1995年頃よりそういった治療戦略をtumor dormancy therapy(邦名:がん休眠療法)と総称し、この戦略に合致した治療を開発すべきであることを提唱してきた(後年、Folkman博士からは、この概念、名称、定義につき賛同を得た)。
同じ頃、固形癌の初めての分子標的治療である、乳癌のHer 2遺伝子を抑制するherceptinの開発治験がなされていたが、そこで、従来の縮小率だけではなく、増殖抑制期間(TTP: time to progression)が評価するようになり、1998年頃よりこれが瞬く間に他の分子標的治療剤ばかりでなく、通常の抗癌剤治療の臨床試験の効果判定、さらには米国FDAによる薬剤の認可にも使われるようになった。
私の概念とTTPはほぼ一致していたため、tumor dormancy therapyとは縮小からではなく、TTPの延長から延命を得る治療であると定義した。これは、つまりは従来無効とされていた効果判定のNC(不変)を評価することに他ならない。

実際、臨床試験を解析すると、3ヶ月以上続くNCの症例は、有効例(半分以下に縮小)の生存期間に匹敵することが判明した(IJO 2000)。現在では、NCは種々の形で評価されるようにまでなり、tumor dormancy therapyはこの10年間で、概念としては認められたものと思われる。
このように概念としては認められたものの、方法論、つまりNCでも良いと判定する抗癌剤治療に関しては、まったく理解されていないのが現状である。この理由として、現在の抗癌剤治療には、癌を少しでも小さくするため、少しでも大量を投与するという治療しか存在しないためである。つまり、NCは評価するが、それはあくまでも現在の方法による結果としてということである。

ここが、従来の抗癌剤治療との争点である。

私がtumor dormancy therapyの中で強調してきたのは、もちろんNCが縮小よりも良いということでなく、治癒どころか半分程度にしかならない治療においては、「継続性」によって延命を得ることが重要だということである。。つまり、継続性を第一に考えた抗癌剤治療ということになり、これでもNC以上なら高率に得られそうだということである。
● 唯一無二のMTD治療とその問題点
抗癌剤治療の方法論は、薬の種類を何にするかという点に隠れがちであるが、実は用量設定法にある。現在の用量設定法は、第一相試験として有名な最大耐用量(maximum tolerated dose:MTD)であり、これが唯一無二の方法である。

通常、MTDは安全と思われる濃度から、種々の条件をクリアーした3人ずつの患者で、用量を上げてゆき、最も危険と思われる毒性が半数出た濃度として決定する。第二相試験からの推奨用量は、このMTDか一つ前の濃度が採用される。

この方法で私は2つの問題点を指摘したい。

一つ目は、この方法では最低9人、多くても15人程度で推奨用量が決定されるということである。

多くの薬剤は、代謝酵素によって分解、不活化するが、この分解酵素に個人差が存在し、それが遺伝子多型によることが知られている。つまりは、同じ量が投与されても、活性成分の量は個々で異なり、それは5倍から50倍異なるとされている。アルコールを例にとるまでもなく当然の事実である。この状況で、僅か10人程度で量を決定することに問題があることは言うまでもない。実際、同じ抗癌
剤を使った第一相試験において、試験毎でMTDが異なることは稀ではない。

二つ目は、MTD、つまりヒトの限界を基本にするという点である。

ここに、一つ目の個人差が加わるため、強い毒性はもちろん、危険性が高いことは言うまでもない。初めてアルコールを飲む若者に、もっとも強い人の限界量を飲ませるようなものである。重要なのは、危険性だけではなく、私が強調してきた、抗癌剤治療で延命を得るために不可欠な「継続性」はまったく損なわれることになることであある。
● MTDを改善した、iMRD法

以上が、MTD治療の問題点である。

そこで、この「個人差」と「継続性」の2点を改善した、MTDとは別の方法を開発すべきと考えた。つまり、MTDは「more is better」の概念から誕生し、実際白血病などの血液癌で成功を収め、小細胞性肺癌などでも一定の成功を獲得した。

その勢いで他の肺癌、大腸癌、胃癌などに向かっているところであり、多くの専門家はここでも成功を収めることができると信じていると思われる。この状況下では、MTDと異なる別の方法を開発し、それがMTD法に勝ることを臨床試験で証明するしかないことをようやく認識した次第である。
MTDは、安全性のため、ヒトの限界を最高量にするという発想である。そこで、私は継続できる最高の量(最大継続可能量、maximum repeatable dose: MRD)に変更した。

これをどのように求めるかであるが、

1.継続できるかどうかは毒性で決まる、
2.抗癌剤における毒性と効果は表裏一体、
3.MTDも毒性で決まる

という3点から、「継続できる最大の毒性」を指標にする方法を考案した。

具体的に言えば、MTDは概ねグレード3か4で決まるが、継続できる最大の毒性は、過去の症例の検討からグレード1か2であることが判明した。

そこで、ここに個別化の概念を含め、患者個々のグレード1か2が出る量を、individualized MRDとした。そしてこのiMRDの具体的な求め方として、MTDを最高値、最小有効濃度を最低値として、その間を5段階程度に分割し、中央あたりからスタートし、例えばグレード1となる量を目指すとすると、毒性がグレード2以上なら一段階減量、0なら一段階増量、1ならそのままという量の調節を毎回行
うという方法を開発した。これにより、個々でグレード1となる量が決定されることになる。
まず、この方法を膵癌におけるgemcitabineの毎週一回投与に応用した(パイロットスタディ)。その結果、毒性は全体では100%であるが、グレード3以上は18人中1人のみで、しかもこの患者においても1回のみであった。縮小率や生存期間も、従来の報告に比べ劣ることなく、特に生存期間はかなり良好であった。つまり、効果を少なくとも落とすことなく、毒性をかなり軽減することに成功した。さらに、iMRDが高い症例と低い症例で効果に差がないという成績が得られた。このことは、iMRDが単に毒性に対処する方法ではなく、個々の適量であることを強く示唆するものとして注目された(Pancreas 2005)。
同様なパイロットスタディとして、胃癌におけるpaclitaxelの毎週一回投与を行ったがほぼ同様な成績が得られた。このiMRDのように、量を個別化する、いわゆるtailored dose chemotherapyの報告例は、乳癌の補助化学療法として一つのみなされているが(Lancet 2001)、この中でも同様に、延命効果と毒性の軽減ばかりでなく、最終的な投与量が多い症例と低い症例のあいだに効果や毒性に差
がないことが示されている。
薬理学的に見ると、一定量の抗癌剤が投与されると、個々の分解酵素の多寡に従って、薬剤の濃度に差が出る事になり、これが毒性さらには効果につながると考えられる。

そこで、胃癌のpaclitaxelの試験の中で、個々のiMRDと、個々のスターティングドーズである60mg/m2での薬剤濃度(AUC)との関係を検討すると、AUCが低くなる症例では、iMRDが高く、高い症例ではiMRDが低いという逆相関が認められた。

このように、iMRDは薬理学的もその妥当性が示された。現在、酵素量とiMRDとの関係についても検討を加える予定である。国立がんセンターでも、paclitaxelのAUCの個人差は3倍異なると報告しているが、通常の抗癌剤治療では2剤を併用するため、相互作用からみると、AUCの個人差を見る事には意義がないと述べている。
つまり、抗癌剤の個々の適量の指標としては、理論的には遺伝子多型、分解酵素、薬剤濃度、そして毒性、効果の5つが候補になる。この内、効果については、率が小さい、感受性の問題などより、もともと難しい。さらに、2剤併用においては、それらの相互作用もあって、1剤の遺伝子多型、分解酵素、薬剤濃度は意義をみる意義が少ないとの意見もある。

そうなると、相互作用を含めた作用としての毒性を指標にするのが最も論理的になると思われる。
● iMRDの臨床試験

iMRDの意義を示すには、臨床試験をするしか他ない。

そこでまず、がん集学治療研究財団の臨床試験として、胃癌におけるCPT-11にこれを応用した。今回は、TS-1との併用投与である。詳細は省くが、北海道大学グループでなされたphase I/II試験では、CPT-11(2週に1度)の推奨用量が125mg/m2であった。一方、これまでの報告から最低有効濃度は25mg/m2と考えられた。そこで、25, 50, 75, 100, 125 mg/m2の5段階に分類し、phase I/II試験
でグレード4の毒性が認められなかった75 mg/m2からスタートし、毒性がグレード2ならそのまま、0、1なら一段階増量、3,4なら一段階減量を1クール(4週)とした(JJCO 2004)。26例の3クール目の投与量の分布は、推奨用量の125mg/m2に達したのが3例、一つ下の100 mg/m2も4例のみで、合計7人で全体の30%にも達しなかった。以下、75 mg/m2が9人、50 mg/m2が5人、25 mg/m2が3人となった。また毒性は、この時点でグレード4は認めなかった。

正式な成績、効果については2006年度以降に発表される予定であるが、少なとも毒性グレード2を指標としたCPT-11の個人差が5倍あることが判明すると同時に、125 mg/m2ではなく、75 mg/m2からスタートしたため、かなり危険性を回避できたと同時に、50 mg/m2以下という低い量が投与できたものと思われる。

つまり、前述したように、この方法は単に毒性に対処する方法ではなく、個々の適量を求める方法と考えられる。そしてそのことは、こういった低い濃度においても、有効例が認められるかどうかで判明するものと考えられる。
その他、乳癌、膵癌、悪性黒色種、子宮体癌、卵巣癌などでも臨床試験が進められている。

今後、これらのphase IIで良好な成績が得られれば、いよいよMTD vs iMRDのphase III試験を行う予定となっている。iMRDは、安全性、低い毒性、長い継続性、低い医療費(G-CSFなどの支持療法が激減し、入院が不必要)などの面で優れているため、生存期間が同等以上であれば、iMRDが勝つことになる。

それは、単にこれまでのレジメが変更することではなく、抗癌剤治療のコンセプトが、「より多く」から「より長く」へと大きく変更することを意味する。またこの変更は、患者にとっては、より優しく、スローな治療になり、癌とより長く共存することが治療の目的になるものと思われる。
● 分子標的治療との関係

最後に分子標的剤との関係についてであるが、数多くの分子標的剤が開発されているが、ここしばらくは抗癌剤治療と併用することが不可欠と考えられる。

私は、分子標的治療こそ癌の生物学に基づいた治療と考えており、抗癌剤治療を分子標的剤に合わせることが重要と考えている(現在は逆であるが)。分子標的剤の特徴は、長期間継続できるが、癌を縮小させる力は小さいということであり、著者のtumor dormancy therapyに合致したものである(癌の生物学から導いた概念であるため、合致するのは当然であるが)。つまり、分子標的剤を中心に考えると、抗癌剤治療はNCでも良いから継続できる治療、すなわちiMRDになる。換言すれば、分子標的剤に併用する抗癌剤治療は、MTDとiMRDとどちらが適しているかという問題につながり、将来臨床試験で明らかにすべきものと考えている。
● 最後に

以上、tumor dormancy therapyとは、癌の生物学を基本に癌の本質から導かれた治療戦略である。今回、この戦略に合致した戦術であるiMRDも完成し、すでに臨床試験として検討が進められている。

今後、分子標的剤が次々と開発されてゆくが、それらと抗癌剤治療との併用時においても、iMRDは適した方法になるものと期待される。
著者略歴
1981年 金沢大学医学部卒業
1981-85年  金沢大学がん研究所腫瘍外科(大学院)
1985-90年  同 助手
1991-93年  同 講師
1993-94年  同 助教授
1994-96年  テキサス大学MDアンダーソン癌研究所、Cancer Biology
1996年-    金沢大学がん研究所腫瘍外科 助教授

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