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Vol.183 毎朝、自宅で抗原検査

医療ガバナンス学会 (2021年9月24日 06:00)


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東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科救急医学領域長
救急災害医学分野教授
東京医科歯科大学医学部附属病院救命救急センター長

大友康裕

2021年9月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

感染症専門家が、感染対策として開口一番、発するメッセージは、鉄板のように「出歩くな!」ですが、専門家としてそれでいいのか?と毎回思っている。
現在、症状があり検査陽性となった人と濃厚接触者には、厳しい行動制限をかけられている。一方、無症状感染者は、野放し状態で、市中を自由に動いて感染を拡大させている。そもそも、曜日によって新規感染者数が変わるという事自体、真剣に感染者を把握しようとしていないことの査証だ。週末の新規感染者数(月曜日発表)が常に少ないということは、本来されるべき感染確認が、少ない検査数によって後回しにされている結果である。その感染確認の遅れが市中の感染拡大の要因の一つになっているだろう。本気で、今現在感染を拡げている感染者を見つける努力をしていないと非難されても仕方がない。

この無症状感染者を捕まえることが出来ないため、「人流抑制」「飲食店の営業制限」「大規模イベントの人数制限」など、最も原始的な方法しか打ち出せていない。新規陽性患者や病床の逼迫状況などの推移の分析と患者発生予測の算数に明け暮れ、具体的対応は、「出歩くな」「我慢せよ」という個人の努力に頼るしかすべが無い状況について、感染症の専門家は「1年半以上もの時間、何をやっていたのだ」と非難されても致し方ないのではないだろうか。

筆者は、昨年6月18日、本メールマガジンに、「MRIC Vol.128 日本経済復活のために全国もしくは都道府県単位での一斉抗原検査を迅速に実施すべき」http://medg.jp/mt/?p=9703  として、無症状者への抗原定性検査の実施を提案したが、反応は乏しかった。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(分科会の前身)では、「無症状者へのPCR検査は、検査前確率が低すぎて、偽陽性者・偽陰性者が多発して弊害が多い」と主張し、無症状者への検査は顧みられなかった。しかし、それなら何故、オリンピック・パラリンピックでは、無症状な競技選手・関係者への検査を実施したのか? 明らかな矛盾であるし、この網羅的検査が、結果的に感染拡大抑制に寄与した。

この無症状感染者をいかにしてあぶり出すか? であるが、毎朝、自宅で抗原定性キットによる検査の実施を提案する。なぜ抗原検査キットか?最大の理由は、「その場で結果が出る」ことである。PCRでは、検体を回収する・結果を通知するという手順がはさまり、その間、行動が起こせない(起こした場合、感染を拡大させる)というデメリットがある。一方、抗原定性検査キットの問題点として、「検査感度が低い」ことが指摘されている。つまり偽陰性が多く発生するということである。しかし偽陰性となるのは、高Ct値(400コピー以下)被験者であり、他人に感染させる高ウイルス排出量の被験者は、PCRとの一致率が極め高く、偽陰性はほとんど無い。すなわちウイルスをまき散らして、感染を拡大させるリスクの高い人をあぶり出す観点からは有用なのである。
また、その場で結果がわかると言うことは、早期治療に繋がるという事を意味する。現在は、「感染成立→発症→発熱→医療機関受診→PCR陽性」までに1週間はかかっており、ウイルスの増殖を抑制する薬剤による治療のタイムウインドウ内での治療開始の機会を減らしている。自宅で頻回に抗原検査を実施すれば、発症前に感染を確認することが出来、現在開発中の内服治療薬などを自宅で早期から服用することが可能となり、重症化する感染者を大幅に減少させることに繋がる。

この「毎朝、自宅で抗原検査」を実施する上での課題とその対応策を以下に列記する。実現には、時間を要する点も多い。これを半年前に実施できていれば、大幅な死者数削減および医療の逼迫回避が可能であったろう。
現在、ワクチンが広く行き渡りつつある状況で、「ワクチン接種証明・検査陰性証明パッケージ」という流れで進んでいるが、今後、ワクチンが効かない変異株の蔓延や次の別のパンデミックに備えるという観点から参考とするべきと考える。

整理・準備するべき事項
1.対象地域;緊急事態宣言地域で実施する。期間も当然、緊急事態宣言期間中となる。
2.キットの調達;文部科学省は、80万キットを小中学校に配布したが、この目的での配布量は、首都圏だけでも2億キット(週3回2週間使用した場合)が必要となる。発展途上国では1キット5ドルで配給されているとのことであり、キットの単価も十分下げる余地がある。1キット5ドルの場合、2週で1,100億円となる。巨額であるが、すでに膨大な額(兆単位)の各種補助金が投入されていること、並びに長期間の行動制限による巨額な経済損失を勘案すると、感染蔓延の防止効果によって、結果的には大幅な支出削減に繋がると考える。
3.自宅での検査結果を証明する方法; 検査日と検査結果が残るようにキットを改変するまたは記録を残す必要があろう。検査結果をネット上に登録するシステムが開発されれば、さらに良い。現状のCoCoAでは、その後の隔離・初期治療措置に繋がらない。
4.正しい検査実施のための工夫;誤った検体採取や検査手順によるエラーを如何に回避するか、意図的に「陰性」となるように検査を行う者への対応など、対策が必要である。誤操作の少ないキットの開発と、検査を正しく実施する事へのインセンティブ(陽性者への早期治療へのアクセス提供・見舞金の支給など)を提供する必要があるだろう。
5.陽性者の対応;陽性の結果が出た場合、直ちに地域で指定した医療機関を受診して、PCR検査(短時間で結果の出る機種を用いる)を実施する。これによって抗原検査偽陽性者への無用な対応を回避できるとともに、PCR陽性者へはその場で治療介入が開始出来る。

これらは、個人が考えたものであるので、個別の対応に突っ込み処はあるだろう。これらの対策は、まずこれを実施するというコンセンサスの下に、多くの方々の創意工夫を結集して、「どうすれば実行できるのか?」を検討しなければならない。毎日、感染状況の数値を見て一喜一憂することや数理理論で時間を使うよりも、実効性があるのではないか?

この話をすると、「陽性者を完全には捕まえられない。すり抜ける人がいる」と必ず反論がある。無症状感染者を、自由に泳がせておいて、一方で「完全に」を求めるのは、自己矛盾である。もう一つのよく聞く反論は、「そんなに沢山の陽性者を見つけてしまったら、医療がパンクするではないか」という論理である。「????」。この話は、陽性者を全て入院させるという元々の法律に基づくものである。現在のように無症状者は自宅隔離とすれば、医療は逼迫するはずはない。むしろ、感染性を有する人を世に放つ方が、その後の医療逼迫に繋がるではないか。

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