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Vol.182 非常時における地域医療の制度設計を

医療ガバナンス学会 (2021年9月22日 06:00)


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永井雅巳

2021年9月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

“機能分担と集約化”、効率性を重んじ、医療費を抑え込むために霞が関が考えた地域医療構想を解りやすく説くとこういう言葉で集約できるだろうか。超急性期と呼ばれる病院をヒエラルヒーの頂点とし、在宅医療・介護に繋がる構想で(逆の視点からの三角図は見たことがないが・・)、その頂点は、高い診療報酬がつき、様々な補助金が集まり、豊富な人的資源と物的資源を有することになる。

平時の医療では、このヒエラルヒーが機能するのであろうが、今回のコロナ禍のような事態では果たして機能しないことが明らかとなった。大規模病院から受け入れを拒まれた患者は、資源の乏しい中小規模の病院、療養施設にあふれ落ちることとなり、クラスターを発生し、崩壊に至る。MRIC176 ( http://medg.jp/mt/?p=10509 )で某保健所長さんが論じているように“早期発見・早期治療”が重要であることは、この病の診療に関わったことのある医師は誰もが感じていることで、予後不良であった患者さんの多くは2-3日のうちに急激に酸素化が悪化する。この分岐点の前で治療を開始できれば、入院期間も短くてすみ、長期間病床を塞ぐこともない。ただ、現在の方針は逆行している。千葉県では、各地区において保健所が入院判断をすることが困難となり、現在は県の調整本部で行っているようだが、今までの入院判断基準であった
SpO293以下からSpO289以下とならなければ入院できなくなった。どのような人達が本部員なのか知るところではないが、患者の中でウィルスが十分増えてこなければ入院できないというのはおかしくはないか。基準を厳しくするより必要な病床数の拡大をすべきである。資源の乏しい中小病院では、nasal-high-flow すら市場から消えており、分岐点を超えた患者を支えきれない。

さて、地域医療を支える病院としての認証に、地域医療支援病院がある。各二次医療圏単位で設置され、因みに私の住む千葉県には19の地域医療支援病院がある。多くは大学病院あるいはその地域の公立・公的病院である。この認証を得た場合、かつて私の所属した病院では診療報酬上年間7000万円程度の収益増となった覚えがある。勿論、コロナ禍においても重要な平時の医療がある。その平時の医療を恙なく行っていくことも重要な事であるが、果たして今回の状況で、地域医療支援病院に求められたモノは何だったのであろうか?

緊急事態宣言が国民に向け、何度か発せられた(回数を忘れるくらいだ)。ある意味、この宣言は、国民に発せられたと同時に、私には地域医療を守る使命を与えられた地域医療支援病院に向けられたメッセージと感じられた。人的・物的資源の豊富な地域医療支援病院がこの緊急事態に応じてスピーディにシフトチェンジを行えば、医療がこれほど逼迫しただろうか?地域医療支援病院をはじめ、地域医療を守る使命を与えられた(あるいは掲げた)大病院は、速やかに平時の医療からシフトを変えるべきではないか。それができる人がリーダーとして望まれる。千葉県のCovid19入院患者数は8月最後の週に1000人を超え最大となった。単純計算で恐縮だが、地域医療支援病院が先頭となって、各50床創ってくれれば、概ね受け入れられる見当だ(勿論、それ以外の地域医療機関も体制に応じた協力が必要なのは言うまでもない)。

Covid19に対して、行政の責任として表に立って動いてきたのは保健所だ。しかし、疫学調査だけでなく、実際の医療の現場の差配を、彼らに任せるのは酷である。彼らには医療人を動かせる権限も資源も持たない。地域医療支援病院の長にはその権限も資源もある。メディアでは、大学病院や国公立医療機関の感染症の専門家が種々論じているが、不思議な事にその病院のハンドルを握り、シフトチェンジを図れるリーダーの強い発言を聞いたことはない(逆行した意見はA医大にあったようだが・・)。JCHO関連医療機関の多くが確かに地域医療支援病院の認証を受けているが、使命と責任はJCHO関連病院だけにあるわけではない。

井上清成先生がMRIC177 ( http://medg.jp/mt/?p=10511 )で、「5類に下げずに司令塔を保健所から医療者に交替する法的テクニック」を発表されている。確かに今回のような事態では、行政と一体となって司令塔に入る医療者が必要である(実戦部隊の指揮官)。知事は二次医療圏に存する地域医療支援病院の長に、その司令塔に入り、地域医療の指揮を執る権限を付与したらどうか(責任は元々ある)。このワク組みの制度設計に法改正の必要な部分があれば、国は速やかに行えばよい。

冒頭の部分に戻るが、私は地域医療構想に異を唱えているわけではない。平時の効率化は、非常時には効率的に動かないことを今回のコロナ禍から学んだ。非常時にも安心な医療システムの制度設計を考え、実行するのが政の責任である。幸い第5波は都市圏ではピークアウトしている。今、この時期に是非、地域における非常時における効率的な医療制度設計を論じてほしい。危機はいつもすぐ其処にあるから。

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