医療ガバナンス学会 (2021年9月21日 06:00)
東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎
2021年9月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
米国メリーランド州の感染状況情報です。
( https://coronavirus.maryland.gov/ )
基本無料で“どこでも誰でも”PCR検査実施。日々のPCR検査数と(有症)陽性者数、入院者数情報を公開。するとVol.121 ( http://medg.jp/mt/?p=10357 )のような科学的対策が可能です。
検査数は全検査数。有症陽性者数と無症者数が判り、有症者は入院。無症・軽症者は役所の指示で自宅やマスの療養施設隔離です。日本と同様の対応で、クラスター対策も同様に行われます。急変で入院、医療を受けられます。だから全無症・軽症療養者と入院有症者のうちの入院者数割合は当然低く、ここのデータだけでは算出できませんが、厚労大臣が言及したように、多分2%前後なのでしょう。残りは自宅や療養施設です。
そして人口と検査数と無症者の陽性率から、市中滞留無症感染者数も推定できます。ワクチン接種効果が複雑ですので、とりあえずその効果を度外視して試算します。8月下旬のある日の陽性率約1%弱と計算できますので、当然日々新規感染者のうちの有症者数より格段に(約30倍)多いことになります。この市中感染状況情報を誰もが入手でき、感染拡大状況を個人で判断できます。
おまけに、これら情報を解析することで、Vol.121の科学的対策でも述べたような各種仮定を検証できます。ワクチン接種効果を考えない場合、新規感染者中の無症割合6割や感染可能継続日数20日などを推定でき、個々の感染者の医学的追跡調査から求められるそれらデータと比較検討できることになります。
日本では、有症者とクラスター対策での無症者対象の行政・保険適用検査情報だけを公表新規感染者数情報として公開しています。(日々の全PCR検査数と陽性率ではないのです。)非感染者や無症者を対象の民間自費検査の陽性判明者は公的検査を再受診して陽性確定され、公表新規感染者数に算入されます。でもこのメルマガでずっと訴え、Vol.167 ( http://medg.jp/mt/?p=10483 )で批判したように、その公開情報に民間自費検査数やそこでの陽性率などの内訳は見えない化されたままです。
こんな不完全な感染者数情報では、市中感染状況を推定できません。おまけに分科会や報道も、その公表新規感染者数情報中の陽性率を、意味もないのに20%越えだとか騒ぎます。何という無知・間抜けなことでしょうか。
さらに、入院率は入院と療養している全感染者数に対する病院入院者数割合に当たります。日本では、民間自費検査数も分からず、だから無症者の特定が制限されており、結局判明感染者数のうちの有症者割合が高いままなので、無症状で自宅待機などする数より当然入院すべき有症者割合も高く、10%などになってしまうのだと思います。さらに悪いことに、無症者も規定上入院することにしているため、すぐに病床が逼迫し、入院もできない有症者が自宅放置までされてしまっているのです。
米国では、とにかく陽性判明者全員入院か自宅・療養施設隔離です。日本と変わりません。“誰でもどこでも”検査のおかげで無症者特定割合も多く、結果として病院に入院しなければならない有症者割合は低くなり、厚労大臣言及の1-2%程度になるのでしょう。自宅・療養施設の皆さんは、役所と連絡をとります。基本的に、入院できない有症者はいないのです。日本も同様のはずです。でも日本では、保健所機能逼迫で連絡が滞る場合もあり、また病状急変に際しては病床逼迫で入院不可のこともあるのです。
この入院率を調べていて、顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。日本では、25-40%でステージ3、25%以下でステージ4です。高い方がいいとのこと。日本では規定上全陽性判明感染者の病院入院が義務づけられているからです。でも米国では2%くらいだとか。だって、誰でもどこでも検査で無症者特定が効率的で、市中滞留無症者も多く自宅・療養施設隔離され、だから病院への入院率は見かけ上当然下がります。(結局米国では不必要な指標ですね。)
高い入院率は、逆にその無症者特定が進んでいないことを意味するのかもしれません。さらに日本では、無症者も区別無く病院に入院させるため、当然すぐに病床不足になり、入院が必要な有症者すら入院できないことになっています。厚労大臣が、欧米に比べて日本では10%以上だと誇らしく言及したようですが、欧米の記者が取材者の中にいたら、きっと日本のコロナ対策の愚昧さ・残酷さに呆れてしまったことでしょう。理解解釈の違いなどに無頓着なまま、あっち向いた比較だと受け取られてしまいます。
無意味な「入院率」でなく、本来は有症感染者数中の入院者数割合が指標であるべきです。すると米国では当然100%、日本では60%くらいになるのでしょうか。それが病床数不足、医療逼迫度合いの指標になります。決して入院率などではありません。単に無症状でも感染症だから全員入院させるなどというルールは取り払い、例えば福井県の「野戦病院」のように、病院とは別に無症・軽症者用のマスの療養施設を準備すればいいのです。だって、無症状なのに、なぜ治療目的の病院の病床を占有することにしているのか、意味不明です。
専門家・分科会・厚労省などが欧米のコロナ感染症対策情報サイトのまねだけして、でもその原理も論理も理解できず、手前勝手に利用したのだろうと推測できます。そのため解釈も混乱し、まるで逆の意味に使われてしまい、実は日本の状況がひどく悪いことの指標になっていることに気づいていないのではないでしょうか。日本人として、米国在住者と議論していて、恥ずかしくなってしまいました。
私も厚労大臣同様間抜けだったということなのかもしれません。でもこんな日本のやり方は、むしろ単に国民をバカにして煙に巻き、誤魔化して、都合のいいようにちょっとしたことで急な病床逼迫を演出する企み・詐欺といってもいいように思います。政府自治体報道国民は踊らされていたということなのではないでしょうか。そして政府からは、舌先三寸で大枚の病床補助金をせしめることができたのでは、と疑ってしまいます。
この二点だけでも、日本のコロナ感染症対策が全く国民無視のものであることが明白です。公表新規感染者数情報をWebに挙げて、さも感染状況情報の国際標準と同じであることを装っているように見えますが、中身は空洞、使い物にほとんどなりません。そんなデータに税金と人を使い、国民を騙しているのです。(個人的には1月以来、各所に公表新規感染者数情報中で民間自費検査数や陽性率情報が見えない化されていることを訴えましたが、無視され続けています。)
専門家や厚労省担当者が、MRICVol.158 ( http://medg.jp/mt/?p=10458 )で批判した37.5度以上発熱4日以上の検査受診制限を含め、こうした実施対策の制度設計をしたはずです。世界標準の対策の形だけまねをして、実は内容の理解などそっちのけで、穴だらけ矛盾だらけの非科学・無論理・不合理な制度を作ったのでしょう。当然公表情報も穴や矛盾だらけで、国民にとっては迷宮、解析・理解不能です。また彼ら自身が理解納得できないものを、行政の長がその嘘を見破れもせずそのまま国民に説明しても、理解できずに上辺の結果だけを伝えるだけになり、国民も理解不能です。国民はそんな説明に対し、「説明が足りない、説明が下手」と批判するだけです。両者とも哀れ、実は制度設計者たちが裏で舌を出しているのが目に見えるようです。または、むしろ国民いじめの成功に、ほくそ笑んでいるのでしょうか。
一方、米国の実施対策はどうでしょう。単純明快、科学的・論理的・合理的です。国民も理解しやすい。公開情報も十全ではないとしても整合的、一市民が理解でき解析して感染状況を判断できます。それを行政の長が説明する際も、本人自身が矛盾無く理解でき、当然説明も科学的・論理的・合理的に明確にできるはずです。聴いた国民も理解でき、当然協力も惜しみません。この彼我の差はどうしたことでしょう。
今自民党総裁選の真っただ中、こんな状況の日本に対し、彼らはロックダウンの法制化などで有無を言わせぬ強制を国民に課すことを考えるのでしょうか?国民の協力を得るためには、科学的論理的に理解した上で説明して納得して貰うことが第一なのではないでしょうか。
二昔前ほどには、世界に“後進国”も存在していました。政府とそれを取り巻く連中の間で賄賂が横行し、国際援助などの横領が常態化、結局国民が見捨てられて貧困困窮のまま放置されていました。最近は随分改善されています。“後進国”という言葉も使用されません。でも今回日本と米国のコロナ感染症対策の彼我の差を思い知らされ、政府自治体行政と日本の担当者たちとの関係が、まるで昔の“後進国”のそれに重なって見えてしまいます。報道も御用報道で右へならえでした。そして国民もお人好しなのか、従順に騙され続けています。“裸の王様”の裸をしっかり見極めないと、世界の中で日本だけ昔の「後進国」に舞い戻ってしまいそうで、恐ろしくなります。是非論理的・科学的な思考を駆使して、コロナ感染症対策はじめ日本の進路を見通しのいいものにする努力をお願いしたいと思います。