医療ガバナンス学会 (2021年10月13日 06:00)
この原稿は医療タイムス7月7日配信からの転載です。
医療ガバナンス研究所
上昌広
2021年10月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
使用済みのワクチンのバイアルを用いて、ワクチン接種の準備を練習している。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2021_195.pdf
左から田中君、杉浦君(相馬市内での接種会場にて)
●集団接種会場の片隅で、ZOOM講義を聴講
私たちのグループは、東日本大震災以降、福島県の医療支援を続けている。今回もコロナワクチンの集団接種をお手伝いすることになった。
私が学生たちに「相馬でお手伝いしないか」と誘ってみたところ、彼らは「ぜひに」と返事してきた。私が現地の担当者に連絡したところ、「受け入れ可能」と回答があった。
ここで学生たちから「どうしても出席しないといけない講義の時間だけ、任務から外してほしい」と要望があった。学生たちは、集団接種会場の片隅で、スマホを用いてZOOMで講義を聞くことを考えていたらしい。担当者は「問題ありません」とのことだった。
5月20日、彼らは1週間の予定で相馬市に入った。東京駅から夜行バスで仙台に向かい、そこから常磐線を利用した。杉浦君、田中君にとって福島訪問は初めてだった。
●見事な一体感を目の当たりに
ワクチンの集団接種会場で、彼らに与えられた仕事は接種者の案内や施設の消毒だった。彼らは実務を通じて、相馬市を体感した。2人が口をそろえるのは、立谷秀清市長の強いリーダーシップだ。
5月24日、相馬市役所で開催された「相馬市新型コロナウイルス接種メディカルセンター」設立の会合に参加した2人は、「トップダウンで物事がどんどん決まっていく(杉浦君)」ことを目の当たりにした。
翌朝、集団接種会場には立谷市長が登場し、「接種に訪れた住民と親しげに話し、日本国内でもっとも速いペースでワクチン接種を進めている立谷市長を市民が信頼している」(杉浦君)ことを実感した。
一方、「普通の会社には少なからず存在するであろう、『仕事をあまりやりたくない』という雰囲気を出している市役所職員がいなかった」(田中君)ことも驚きだった。「見事な一体感」を感じたそうだ。
●行動力ある学生には飛躍の機会に
彼らが育った神戶では、日常生活で市役所や市長を意識することはない。市長や市役所が市民生活の一部となっている相馬市は、彼らにとって新鮮な存在だった。
この一体感は一朝一夕でできるものではない。彼らが、立谷市長や相馬市職員と話すと、「何度も東日本大震災の時の苦労について、笑いを交えて語ってくれた」(田中君)そうだ。これこそ、相馬市の強みだ。
かつては仙台藩との熾烈な抗争、近年は東日本大震災・原発事故を経験し、コミュニティーが成熟した。そして、その中心にいたのは相馬家と市役所だ。
この相馬市の深層は、東京にいて講義を受けているだけでは実感することはできない。彼らは6月も相馬市を訪問し、新たな体験を重ねた。コロナが流行し、大学教育は変わる。行動力のある学生にとっては飛躍の機会になる。