医療ガバナンス学会 (2021年10月25日 06:00)
順天堂大学医学部5年
小嶋智郎
2021年10月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
現在、COVID19の感染対策として、換気が重要とされてきています。今までは、3密を避けましょう、人流を減らしましょう、などが声高に叫ばれていました。感染経路として、会話したときに飛ぶつばなどによる飛沫感染が第1に考えられてきたからです。しかし、ここ最近は感染経路として、エアロゾルによるものが有力視されてきました。エアロゾルは肺から排出された後、空気中に数時間単位で滞空すると言われています。そこで、二酸化炭素計測器を用いて2021年10月14日に訪れた様々な場所の換気状態を測定しました。他にも同じように測定している方がいるのではないかと思い調べたところ、リアルで身近に感じられるデータはあまり見られませんでした。
前提として、温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の解析によると、二酸化炭素の世界の平均濃度は410.5ppmです。また、厚生労働省より良好な換気状態の基準として、二酸化炭素濃度1,000ppm以下が提示されています。
得られた結果として、研究所内では486ppm、研究所で一番換気が良さそうなキッチンでは425ppmでした。キッチンは2方向の窓が開いていたので外気に近い状態でした。研究所内の人数が少なかったことや窓を開けていたこともありますが、換気状態はとても良かったです。このような環境であれば安心して活動することができますね。
5人乗りの乗用車を用いて3人で移動中の車内では、室内換気では1623ppm、室外換気では890ppm、窓を開けて換気しているときは746ppmでした。ここでは、外気と喚起しているかどうかで非常に差がつくことが分かりました。
100人程度が出席する内外情勢調査会が行われた帝国ホテルの孔雀では、436ppmから499ppmまでの値を推移していました。1890年の創業以来、130年間以上日本の迎賓館として先頭を走ってきた帝国ホテルなだけあって、換気状態が非常に良好で、利用客が過ごしやすい環境を常に作り出していることが分かりました。二酸化炭素濃度測定をして、もし悪い結果が出たら営業妨害にもなりかねないなと思っていましたが、そんなことも忘れさせるくらい心地よい環境でした。
都営地下鉄三田線内幸町駅の地上と地下改札を結ぶ階段では421ppm、内幸町駅ホームで509ppmでした。地上と地下改札を結ぶ階段は歩いてみると分かりますが、風が強く吹き込んでいるので良く換気されているのを身をもって感じました。都営地下鉄三田線の車内は立っている人がおらず、シートにも余裕があるような乗車状態で848ppmでした。また、停車時にドアが開いた際は769ppmまで下がりました。ドアが開くことで換気がされていることが分かります。
JR山手線車内では、三田線と同様の混み具合でしたが、928ppmでした。路線によって濃度が変わってくるのかもしれません。JR中央線車内では、17時頃の帰宅時間でもあったため非常に混雑している状態で1297ppmまで上昇しました。乗客が減り、向かい側に座っている乗客同士で目がまばらに合う程度の混み具合では1136ppmでした。乗客の混雑レベルによって換気状態が変わってくることが分かりました。電車内で二酸化炭素濃度を測定している姿は、正直なところとても恥ずかしいですが、精神を鍛えるには滝行よりも簡便な修行だと思い実行しました。私の精神が強靭になったのか、それとも乗客の方々がスマホに夢中になっていたのか分かりませんが、思いのほか不審がられる視線はそこまで感じませんでした。今後どのような場所であっても臆することなく測定することが出来そうです。
今回得られたデータはまだまだ少ないですが、今までは、モアっとしていて空気が悪いな、風が心地よく吹いていて空気が新鮮だな、のように雰囲気で捉えていた換気状態を具体的に数字で表すことで、感覚ではなくファクトとして理解することができます。どのような場所、環境で換気状態が良いのか、どれくらいの数値をキープすればCOVID19に感染するリスクが小さくなるのか、など分からないことが多いですが、測定を進めることで明確化してくるのではないかと思います。
【小嶋智郎 略歴】
1998年東京生まれ。都立西高等学校を卒業後、順天堂大学医学部に入学し現在5年生。名前の由来はtomorrow。幼いころから野球とチェロを習う。思い出の誕生日は音楽の都ウィーンでストリートミュージシャンにHappy Birthdayを名前付きで歌ってもらったこと。