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Vol. 249 新後期高齢者医療保険制度中間報告案の疑問

医療ガバナンス学会 (2010年7月29日 07:00)


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医療制度研究会・済生会宇都宮病院 中澤 堅次
2010年7月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


評判の悪かった後期高齢者医療制度は再編成され、新しい案が中間報告として提示される段階にある。医療現場に働くものとして気になる改革が含まれており、方向性が定まらない民主党政権の新たな火種の一つにならないうちに問題を指摘させてもらう。

今回の案は、75歳以上の後期高齢者が入る保険を、国民健康保険に一体化させて運用することを骨子としており、企業が運営する被用者保険が後期高齢者医療制度から外された形になっている。国保は今までもまた今後も単一の保険では財政上成り立たないハンデを背負っており、後期高齢者医療の費用負担は公費か他の保険からの支援金に頼るしかない。
公表された案は被用者保険が高齢者の支援に原則係わらない構造で、厚労省がこれから国保の支援策を検討することになっているが、高齢者が抱える医療問題から被用者保険を撤退させ、企業を優遇しようとする姿勢には違和感を覚える。

一生のうちに病気のリスクが最も高い時期は、周産期を除けば、75歳前後の十数年であり、それ以外には医療費を使う機会はあまりない。これは医療統計上の事実であり、年齢別国民医療費も全国の入院統計も同じ事実を示している。うまれたときと出産期に健康の危機があり、これを経過すればしばらくは平穏だが、50歳を越える頃から老化による疾患のリスクが増加し、75歳を越えるころから年々死亡数が多くなり、人口も減り100歳を超えると全てが終わる。国の医療費が使われるのも75歳周辺の時期が際立っている。

高齢世代に偏る医療費を負担するために、健康な国民から保険料が徴収され、集金は国民健康保険と企業が運営する被用者保険がやっている。ところが二つの保険加入者はそれぞれ年齢構成が異なり、退職者や今度加入する高齢者が入る国保の年齢は高く、定年で区切られる被用者保険の加入者は若い。被用者保険は収入があっても使わないという特性になり、国保は収入がままならないが支給額だけは高い。国保に自力解決が求められれば資金はすぐに枯渇し、所得の低い人は簡単に排除される。はじめから勝負は見えている。
被用者保険を高齢者から切り離す政策は、保険料の半分を支出する企業にとっても異例の優遇処置になる。もちろん拠出金や支援金で支援が行われるが、救助される側の要求が支援する側の意志を越えることは無く、保険者間の格差は無くなることはありえない。医療は総額が大きいから保険者の負担の差も大きなものになる。

知ってか知らずか、菅内閣は日本の企業税が高過ぎて経済の足かせになっているから、企業税を減税して立て直したいと表明した。しかし、日本の企業が負担する社会保障費は他の先進国に比べて低く、企業の負担率と合算すれば決して高くないということは常識であり、この現象に被用者保険の優遇が関係しているかもしれない。
つまり日本の企業は国際競争において国の社会保障を担わなくて良いというアドバンテージを与えられ、その代わり企業税を取られているといえる。その帰結はトヨタが一兆円という大きな利益を上げても、国全体の豊かさに貢献せず、経済危機にあっては真っ先に派遣労働者を切って逃れる発想になる。質の高い産業を持って得た外資を、国内の社会保障に廻して国を支えている北欧諸国とは正反対の対応である。

強い産業を志向するために企業減税をするのも良い。しかし同時に得た利益を社会に還元するために、企業は健康保険でも対等な貢献をするべきである。それは企業の信頼感につながり、内需型の産業の育成にもなり、将来どの国も遭遇する高齢危機にアドバンテージを持って貢献できる産業の育成につながる可能性をもっている。目指すのは改訂案のようなまやかしの国保への一体化では無く、民主党が政権交代のときに表明した純然たる健康保険の一体化、すなわち国保も健保も高齢者医療保険も一体化する統合である。

国保と健保の統合は、国保加入者の所得が補足できないから無理だという議論が必ず出る。それなら社会保障を目的とした消費税を主な財源とするべきである。若い勤労者に対する搾取ともいえる皆保険では無く、全国民がそれぞれの活動の中で支払う消費税を基本に設計するべきである。国も企業も一体化された社会保障に惜しまず貢献し、軽減された企業税により産業を発展させるべきである。支えを要する高齢者や母親世代がそれにより助けられるならば、若者もいつかは自分にめぐってくる運命の循環で、国民同志の助け合いと民族の継承を実感するに違いない。

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