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Vol.214 現場からの医療改革推進協議会第十六回シンポジウム 抄録から(7)

医療ガバナンス学会 (2021年11月16日 06:00)


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( https://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/ )

2021年11月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

11月28日(日)

【Session 07】 医療と社会 II  10:00~10:50(司会:上 昌広)

●医療と社会 ―スポーツ貧血―
武元良整 (医療法人良整会理事長、よしのぶクリニック 院長)

私は大学病院で20年間、「骨髄移植」の診療に従事しておりました。いわば難治性の貧血治療です。なかなか生存率50%を超えない領域でした。
さて10年前、「漢方内科」「血液内科」で開業しました。友人からのアドバイスが「開業して血液疾患を診ることはないだろう。貧血外来としなさい」でした。「健診で貧血指摘」を主訴とする自覚症状に乏しい、血色素6.0以下でも元気な方々が来院。重度の鉄欠乏性貧血例では、鉄分だけでなくビタミンB12と葉酸値も低下しているため、治療には鉄剤とビタミンB12、そして葉酸内服が必要です。治療は奏効します。
ところが数年前から、気が付くと高校生のアスリートが多く受診するようになりました。その多数は血色素値が保たれているため、貧血とは診断できません。多くは「行軍血色素尿症」です。そこで、多数例の解析を東京大学大学院へ依頼しました。その内容は、第83回日本血液学会総会(令和3年9月24日、仙台市)で山本佳奈先生が報告・発表。現在、英文誌へ投稿中です。
共同研究の結果と現場から明らかになった問題点をお話しいたします。
●COVID-19 システム・デザイン
横山禎徳 (社会システムズ・アーキテクト)

今の時点で振り返ってみると、これまでの新型コロナに対する体制と行動は、3.11の福島原発事故の際の体制とやり方に似ている。10年の時間を経ているが、日本政府は「3.11を吟味・消化したうえで危機対応のやり方を学習する」ということをしていないのではないだろうか。例えば、緊急時に指示命令を出す最高責任者が内閣総理大臣であることの是非が3.11の時に問われた。本来は、最高責任者は時々刻々の適切な判断と迅速な行動が出きるよう、その資質と経験を中心に選ばれるべきである。今回のパンデミックも同様である。しかし、医療と公衆衛生の分野における「専門家」集団からは、そういう人物は見つけにくかったように思う。3.11の時に明確になったのは、既存の境界条件を越えることはできないのが「専門家」、すなわち「エキスパート」である、ということであった。そのような「専門家」とは異なり、クライエントは誰なのかを明確に意識し、境界条件を自分で決めることができ、現実的かつ統合的判断のできる「プロフェショナル」という職能の確立が必要だ。
これまでの流行では、日本文化に沿って出来上がった各種の「社会システム」群の連鎖・連携による社会の健全さに助けられたおかげで大事に至らなかった。だが、一般市民にはあまり説得力のない場当たり的な、時には後手に回る施策を連発するのではなく、システム発想ができる職能と能力が訓練されているべきだ。すなわち「社会システム」発想とデザインの訓練ができていれば、全体観を持って前倒しのシステム構築と人材の配置ができたはずである。その際、感染と経済活動は表裏一体なのだから、そのような状況を想定していない既存の行政区画を止め、迅速かつ臨機応変の対策を打つことができる広域行政区画で対応できるようにするのもシステム・デザインの一部だ。
状況は時々刻々変わっていっても基本のシステムは変わらない。従って、具体的な施策は状況が変わればI take it back (前言取り消し)と修正が可能だ。そうでないことによる悪循環がすでに巡っている。ここで立ち止まって良循環を形成するようなシステムをデザインすべきである。
●新型コロナ感染症に有効な手指衛生の消毒剤を科学的に証明する
王宝禮 (大阪歯科大学歯学部 教授)

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、治療薬やワクチンの開発が劇的な速度で進んでいますが、その世界的な流行未だ完全には抑えられていません。更なる感染拡大を防ぐためには、社会全体で実施可能な個々の感染予防策を日常生活に導入することが必要です。SARS-CoV-2感染は、エアロゾルの吸入に加え、手指に付着したウイルスが口・鼻・目の粘膜から侵入することでも成立すると考えられています。
そのため、呼吸器感染防止対策に加えて、より厳格な感染対策の徹底のためには手指衛生も重要となります。手指衛生では、石鹸と流水による手洗いを行い、世界的には消毒用アルコール(EtOH)によるウイルスの消毒が主流となっています。昨年には急速にSARS-CoV-2が感染拡大する中、市場からEtOHが消えました。
このような背景から、私達の研究チームはEtOHの次の候補として実臨床の中で使用されている微酸性電解水(SAEW)及びオゾン水(OW)の3種の消毒剤のSARS-CoV-2不活化活性と、分子生物学的な不活化メカニズムを比較することを目的とました。
その結果、十分な量のSAEW及びOWを用いることで、高濃度の有機物質の存在下でも速やかに効果的なSARS-CoV-2の不活化を達成することができました。さらに、SAEWとOWは、SARS-CoV-2のゲノムとSタンパク質に影響を与えました。一方、同じ反応条件でEtOHを処理した場合には、そのような影響は見られませんでした。
今後さらなる臨床研究が必要でありますが、本研究データからはSAEW及びOWは、適切な洗浄方法、時間、濃度を選択することによって、EtOHと同様に実際の手指衛生のためのSARS-CoV-2消毒剤として有効であると考えます。
●ブースター接種は個人の免疫状態をもとに、迅速に
大澤幸生 (東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 教授)

この抄録を書いているのは、厚生労働省から「ブースター接種は二回目接種の8か月後から」という案が出された9月17日から4日後である。これを伺った危機感から急遽講演をこちらから申し入れたところ、すでに埋まっているタイムテーブルの隙間に7分間を捻出して頂いた。代表の上昌広氏はじめ関係各位のご配慮に感謝申し上げたい。
今回は、「二回目から6~8か月後にブースター接種を行う」方法と、「医師により個人ごとに接種のタイミングを個別判断する」方法を比較した結果に絞り紹介する。筆者のシミュレーションは、ワクチンを接種した場合と自然に生活の中でCOVID-19のデルタ株に感染した場合とでは、同じく抗体を得るといっても体は別の状態になるという考え方に従った新しい予測モデルを用いている。前提として緊急事態宣言を9月末までとし、各回の接種による免疫獲得の効果や接種後の減弱比率については内閣官房のコロナ室による情報や、医学者によるコホート研究からの情報提供等を元に設定した。
その結果、二回目から6~8か月後のブースターでは感染拡大の抑止には遅すぎて、抗体の減弱により新規感染者数と重症者数の波が再発し2022年の春までに相当な高さに達する。一方、医師が個人ごとに免疫の弱まりを確認して接種すると、同様の第六波は見られない。ワクチンパスポートの効果に比較しても、個人ごとに免疫状態から接種のタイミングを判断する効果は大きい。瀧田盛仁医師(ナビタスクリニック)によると、この医師の判断は抗体価を直接見ることなく、病歴や免疫抑制剤の使用といったその場で判断できる情報により可能とのことであった。
筆者の別の論文では国ごと地域ごとにワクチンの接種ペースを揃えることによりワクチンの効果が上がることを示しており、この点はWHOによるブースター抑止案とは別に考慮しながらブースターを取り入れるべきである。いずれにせよブースター接種のタイミングは再検討が至急必要である。

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