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Vol.223 日本専門医機構に「専門医制度の改善を求める意見書」を提出しました。

医療ガバナンス学会 (2021年11月24日 15:00)


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一般社団法人全国医師連盟代表理事
中島恒夫

2021年11月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

令和3年11月7日に、第14回全国医師連盟集会【次世代のための専門医制度のあるべき姿を考える】~持続可能な医師養成システムを基盤とした医療制度を探る~、を開催しました。今集会の主旨は、「若手医師にとって、よりよい専門医制度とは何か?」を模索することでした。
若手医師にとって、「専門医」はキャリアの指針の「一つ」です。しかし、日本専門医機構(以下、機構)の発足に伴い、「何のための専門医なのか?」という疑問が、ここ数年でさらに膨らみました。

我が国の専門医制度は、1962年の麻酔科学会による麻酔科指導医制度に端を発します。以来、各学会も専門医制度を導入し、約半世紀が経過しました。しかし、医療制度が少しずつ変化している中で、医療現場の劣悪な就労環境と同様に、専門医制度の様々な問題点は改善されずに経過しています。いや、むしろ悪化しています。専門医制度も時代に合わせた改革が必要です。

「専門医」とは、特定診療分野における専門家です。一定以上の質を担保する知識・技術・経験が備わっていることが、「専門医」の条件です。しかし、「専門医に紹介したにもかかわらず、お粗末な返書を受け取った」という話は枚挙がありません。専門医制度が「質の担保」に関与していないことを物語っています。また、医師不足の昨今、専門医が「専門外診療」に迫られる状況の常態化は、実に滑稽です。これは、「二階建て制度」といわれる「サブスペシャリティー専門医」制度の問題です。これらの現状も、専門医制度への疑問を抱かせます。
そもそも、「専門医」という呼称が誤用です。現状の専門医は、その分野の医療について一定以上の水準に達した医師であると「認証」されたにすぎません。であれば、かつて用いられていた「認定医」が相応しい呼称です。

名称が何であれ、過去の様々な反省を踏まえ、現在の専門医制度が「医療の質の担保」を第一義としていることに、異論を挟む人はもはやいないでしょう。しかし、本来の趣旨からはかなりかけ離れている現状が、専門医制度への疑問に繋がっています。現状の専門医制度が、誰のための制度なのか? 何のための制度なのか? そこで、全国医師連盟では「専門医アンケート」を実施しました。その結果を以下のURLで公表しました。御参照下さい。https://questant.jp/s/S575YYH3RBMY9IHC#all
「専門医アンケート」の回答を見ると、専門医制度を通じて技量向上を図ろうという若手医師達の意欲には目を見張るものがあります。
しかし、「旧専門医制度」の頃から指摘されていた様々な問題点が、未だに一向に改善していません。
・提出書類が煩雑で、臨床以外の部分での負担増。
・認証基準を上げたことによるエントリーの断念。
・指導医への負担。
・指導医の恣意による成果判定。
・医師不足や偏在対策として、異動を前提とした制度設計。
・結婚・妊娠・出産といったライフイベントを前提としない制度設計。
専門医制度を刷新するにも関わらず、旧弊が残り、専門医制度の趣旨である「医療の質の担保」を歪曲する取組が目に付きます。これでは、若手の意欲も削がれます。

「専門医制度」を医師の技量の指標としているのは、日本だけではありません。海外でも制度化されています。しかし、日本との差異は、医療制度との親和性です。例えば……先進国では女性医師の割合が高く、「出産や育児などのライフイベントと医師という職業をどのように両立するのか?」という課題は、各国同様です。日本でも女性医師の割合は高まっています。女性医師の視点で、専門医制度はどのように考えられているのでしょうか。今後30年以上は少子高齢化がさらに進む日本社会では、女性の社会進出を抜きに現在の水準を維持することは不可能です。現に、各医学部とも女性入学者の比率が高まっています。しかし、これは日本特有の現象ではありません。他の先進国でも同様です。女性医師のキャリア構築を前提としたカリキュラムは不可欠です。
これからの専門医制度の設計には、日本社会の将来像との親和性が重要です。現状は、その配慮に欠けています。専門医制度には、個人のライフプランを可能とする多様なカリキュラムを用意しなければなりません。当然、出産や育児を経験していない者だけで多様なカリキュラムを策定することは不可能です。

そして、専門医制度の舵を取っている機構が実に頼りないです。機構は様々な問題を解決できていません。「機構は若手医師とのコミュニケーションが不足している」と指摘されていますが、理由はそれだけではありません。大きな理由として、現場で汗をかく職員が全く足りていません。そのために膨大な事務作業をこなせていません。「総作業量」は、「人手」と「作業効率」の掛け合わせと相関します。山積している業務をこなすために人員を増やすべきにも関わらず、「人件費を捻出できないから雇用できない」という理由で思考停止しています。増員できないのであれば、作業効率を上げるための「Ai化」という手法もあります。そのために技術系正規職員を大幅に増やすことを図ってもよいはずです。
職員を大幅に増員できないのであれば、機構はこなせない業務を抱え込む必要がありません。身の丈にあった業務に専念すればよいのです。基本領域のみの業務に、あるいは「総合診療」にのみ徹し、サブスペシャリティ分野の業務を停止すればよいのです。「できないこと」を「できる」と言い張る欺瞞は、大勢に迷惑をかけるだけです。身の丈に合った専門医制度への「選択と集中」は、恥ずかしいことではありません。

現在の専門医制度が内包している様々な問題に対する様々な解決策が、第14回全国医師連盟集会で提案されました。この会での討論を受け、日本専門医機構に「専門医制度の改善を求める意見書」を提出しました(https://zennirenn.com/news/日本専門医機構に「専門医制度の改善を求める意/)。
日本の医療のsustainabilityのためには、専門医制度、日本専門医機構の改善が不可欠です。

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