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Vol. 254 今日も眠れぬ医療系システムエンジニアたち

医療ガバナンス学会 (2010年8月5日 06:00)


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~DPCってなんですか?~

帝京大学ちば総合医療センター
医療情報システム部
木村優子

2010年8月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


今では当たり前に聞こえてくる「DPC(診断群分類包括評価)」という単語を、私が身近に聞いたのは2006年の春だった。当時私は、M社のシステムエンジニア(SE)として帝京大学ちば医療センターで、システムを「導入する側」として働いていた。病院に1部屋用意され常駐していたのである。

病院から「来年にDPCの準備病院として手を挙げるのでシステム的に対応して欲しい」と依頼され、とりあえず「わかりました」と返事はした。しかし「聞いたことはあるけど・・・そもそもDPCってなんですか?準備ってなんの準備?」。それが、私の率直な感想だった。
それからはM社一丸でDPCについての勉強を開始した。ある企業で「病院職員のためのDPC講座」なるものがあり、通信教育で費用は5万円ほどだったがそういったものも受講した(今思うと「思うツボ」だったのかもしれない。ここでいう「ツボ」とは複雑怪奇な制度を作り何故かタイミング良く企業がこのような講座を設けることである)。

それらの勉強を経て、それとなくわかってきた。
・診断群分類と呼ばれる分類がある。14桁のコードで構成される。(ふむ)
・病名や症状をもとに1日当たりの点数が決まっていて医療費を計算する定額払い。入院日数に応じて定められている。手術やリハビリは出来高払い。(ふむふむ)
・準備病院は標準レセプト電算マスターに対応したデータの提出を含め「7月から3月までの退院等患者に係る調査」に適切に参加できること。(へー)
・調整係数というものがある。(ほー)
等々。

ということは、準備のためのデータを一括で入力・管理できる画面が欲しいということだ。皆で途方にくれた。情報を求めて、以前「焼肉部」だった仲間にも「DPC病院の対応やった?」と聞いてみた。皆が口を揃えて「ほんとに勘弁してほしい、大変だよ」と言っていた。

なぜシステム屋がこんなに大変に思うのか。それは「全てにおいてチェックをかける」からである。例えば「医療資源を最も投入した傷病名で3日以内の再入院」があった場合、該当するデータに「★」を出し(形はなんでもよい)一連の入院か否かの判断が出来るようにするのだ。

その他にも、必須項目が入力されていない場合にアラートを出す、特定の疾患の場合はこっちにも入力するよう仕向ける、最終日に全てのデータにチェックを走らせ抜けを洗い出す・・等々、昼も夜もDPCにはまっていた(SEが天井をじっと見て固まっている時は、明日を見ているのではなく、色々な事を想定している時なのである)。

そんな努力の甲斐もあり、2007年4月からDPC準備病院としてスタートすることができた。翌年の2008年も多少の変更があったが乗り切った。そう、その頃は作ることに夢中で何も疑問に思わなかった。「物を作って納品し使ってもらう」、システム会社側のSEとしてはただそれだけで良かったのだから。

2009年4月、帝京大学ちば総合医療センターは「DPC対象病院」となった。2008年11月私は帝京大学の職員に転職し、その時は病院のSEになっていた。2009年の2月に、M社のシステムからF社の電子カルテへ移行した直後の出来事だった。F社のシステムはパッケージ製品なので、DPC機能が標準装備されている。多くの病院に導入されているのだから、ある程度の信頼性もある。後は入力の方法を覚え、運用でカバーすればどうにかなるだろう、いや、どうにかしなければいけないのである。この頃だった、私に疑問が湧いてきたのは、

「このデータってこの先どうなるの?」。

あれから1年が過ぎた。前回(http://medg.jp/mt/2010/07/vol-242.html#more)、「2010年度DPC様式1の変更に振り回された」と書いたが、未だ何も終わっていない。
7月5日変更分に関しては、7月26日にプログラム変更が行われた。いまは「病院SE」なので、それらはF社の仕事である。そして病院側のコーディングが始まる(これは主に医事課の仕事。でも今回の改訂では医師や看護師も入力から逃れられない)。提出期限は9月であるが、7-8月分の提出が必要である。ある病院スタッフのため息交じりの台詞が頭を離れない、「もう直接きて必要なデータ持っていけばいいのに・・・」。

サブタイトルに上げた「DPCってなんですか?」とは仕組みの問題ではなく、これだけの労力を投入し得られた膨大なデータが、いったい何のために使われるのかわからないことだ。企業は何のために対応しているのか。現場SEは何のために眠れないのか。病院スタッフは何のために情報をまとめているのか。厚生労働省が作る膨大なデータベースは何に使われる? そもそも何が知りたい? 何が欲しい? と考えてしまう。これだけの時間と労力をかけて「現場」にフィードバックはあるのだろうか。蓄積するだけならそれはただの「収集」になってしまう。データは使ってこそ意味があり、生きてくるのではないだろうか。生意気なことをつらつらと綴ってしまったが、「自分たちのしていることには意味がある」と、現場が思えるような政策を期待せずにはいられない。

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