医療ガバナンス学会 (2021年12月28日 06:00)
この原稿はAERA dot.(11月3日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2021110100021.html?page=1
ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈
2021年12月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今年も残すところあと2カ月となりました。先月は急に寒くなったかと思えば、半袖で過ごせる日がやってくるなど、気温差が大きかったせいか体調を崩す方が多かった印象でした。
先月から始まったインフルエンザの予防接種は、連日予約がいっぱいです。「なかなか予約が取れなくて困っているんですよ……」とおっしゃるのは、先日乗車した時のタクシーの運転手さん。「昨年のように今年もインフルエンザは流行しないかもしれないけれど、お客様にうつさないようにするには自分がワクチンを打たなくてはいけないと、コロナが流行して痛感したよ」ともおっしゃっていました。
私自身、海外渡航前に必要なワクチンや子宮頸がんワクチン、MMR(麻疹・風疹・おたふく)ワクチン、水痘ワクチンなど、自分にとって必要なワクチンは親の勧めや自分の判断でこれまで接種してきました。正直なところ、新型コロナウイルスが流行するまでワクチンを接種することの重要性を深く考えてはいませんでした。
けれども、実際にコロナのパンデミックを経験し、感染を予防するにはどうすればいいのか世界中が試行錯誤を続ける中で、新型コロナウイルスワクチンが開発され、このワクチンの効果が科学的に証明され、自分自身もコロナワクチン接種業務に従事し、世界中の人々に急ピッチで接種がなされていく過程を目の当たりにし、ワクチン接種の重要性を肌で感じました。
今年の5月頃から本格的に始まったコロナワクチン接種ですが、Our World in Dataによると10月28日時点で少なくとも1回接種した人の日本の割合は77.5%、2回接種を終えた人の割合は71.5%となりました。昨年の12月から接種が開始されていたアメリカやイギリスの接種率をすでに超える水準です。大きく出遅れた時、そして夏に感染が拡大した時にはどうなることかと思いましたが、半年でここまで接種が進み、人口の7割もの人が接種を終えることができたことはひとえに、ワクチン接種が全国の自治体で早急に行われるよう、菅前総理がリーダーシップをとってくださったからだと私は思っています。
菅前総理のおかげでせっかく挽回したにもかかわらず、また世界から出遅れてしまいそうなのが3回目の接種です。
新型コロナウイルスワクチンの感染予防効果は、2回の接種完了からより時間が経過した人ほど弱まっていることがイスラエルのYair博士らから報告されています。イスラエルは2020年12月からワクチン接種が開始された国です。イスラエルでのコロナ感染のほぼ全て(98%超)がデルタ変異株に起因するようになって以降の2021年7月11日から31日の新型コロナウイルス感染率が、ワクチン接種をより早くに済ませた人の方がワクチン接種からより日が浅い人に比べてより高かったと言います。
このように2回目の接種から時間が経つにつれて免疫が低下してしまうので、再び免疫を高めるために3回目の接種が必要になります。ブースター接種ともいいます。すでに、イスラエルフランス、ドイツやシンガポール、イギリスやアメリカ、ブラジルなどではブースター接種が開始されています。
Pfizer/BioNTech製の新型コロナウイルスワクチン(BNT162b2)の3回目の追加接種(ブースター接種)の予防効果が先日発表されました。2回のBNT162b2接種を済ませた16歳以上の1万人超が試験に参加し、先立つ2回の接種と同量のBNT162b2のブースター投与、またはプラセボ投与に1対1の割合で割り振られました。ワクチン投与から7日後以降の新型コロナウイルス感染症の発症数はBNT162b2ブースター投与群では5人、プラセボ群では109人であって、過去に新型コロナウイルス感染の既往歴がない人のBNT162b2ブースター投与後のCOVID-19発症はプラセボに比べて、なんと95.6%少なく済んだと言います。
12月から医療従事者に、年明けには高齢者を対象に3回目の接種を始める方向で検討していると報じられています。しかしその時期では、昨年のように再び新型コロナウイルスが流行しているかもしれません。本来、ワクチン接種は流行する前に接種し、免疫を高めることが大切です。すでに、2回接種していても時間経過とともに免疫が低下することは報告されているのですから、流行が落ち着いている今こそ、まだ1回目や2回目の接種と並行して、早く接種を終えた人から3回目の接種を開始する必要があるのではないでしょうか。