医療ガバナンス学会 (2022年1月21日 06:00)
わだ内科クリニック
和田眞紀夫
2022年1月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
例えば今日(1月16日)に報道各社が実際に報じたいくつかの例をみてみよう(配信順)。
「【速報】東京の新たな感染者4172人」(ニッポン放送、1/16(日) 16:46配信)東京都は今日1月16日、新型コロナウイルスの感染者が新たに4172人確認されたと明らかにした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/89757b90adec3229803e6b7d7f469919d455c247
「<新型コロナ・16日>東京都で新たに4172人が感染 病床使用率は19.3%」(東京新聞、1月16日 16時46分)東京都は16日、新型コロナウイルスの新たな感染者4172人を確認したと発表した。・・
https://www.tokyo-np.co.jp/article/154564
「東京で新たに4172人感染」(共同通信、1/16(日) 16:55配信 )東京都は16日、新型コロナの感染者が新たに4172人報告されたと発表した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/baa0a8bb4e4fb6134cee4d7308179d465b94a5f2
「東京都 新型コロナ 4172人感染確認 先週日曜日の3倍以上」(NHK、1月16日 20時52分)東京都内の16日の感染確認は4172人で、3日続けて4000人を超えていて、感染拡大が続いています。・・
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220116/k10013433711000.html
共通して言えることは、表題では「新たに何人感染」、文中では「新たに何人確認(報告)」などと表記していることである。これらの報道のもとになる東京都の発表は以下の通りだ。
「東京都 新型コロナウイルス感染症検査の陽性率・検査人数」
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000010d0000000088
→「新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(第2803報)」
http://expres.umin.jp/mric/mric_22013-1.pdf
→「(情報提供)新型コロナウイルスに関連した患者の発生について【追加情報】」
http://expres.umin.jp/mric/mric_22013-2.pdf
第2803報を見ると、「2患者の発生状況」のところに総数4172と記され、性別や年齢別の内訳などが書かれているが、この総数というのが何の総数を意味するのかはここではわからない。ところがその次の追加情報を見てみると、同じ「2患者の発生状況」の総数4172と記されているところに※1として但し書きが添えられていて、「患者発生の総数は、医療機関等から保健所に発生届が提出され、保健所において確認が済んでいる事案を集計している。」と明記されているのである。
すなわち東京都が総数として発表し、報道各社が「確認された感染者数」として発表している数字は「医療機関等から保健所に発生届が提出された分」のみということがわかる。この医療機関等というのがまた何を意味しているのかが不透明なのだが、「都内の最新感染動向」というサイトのモニタリング項目(4)の注釈には「2020年5月7日以降は(1)東京都健康安全研究センター、(2)PCRセンター(地域外来・検査センター)、(3)医療機関での保険適用検査実績により算出。 」と書かれており、これらの3つが「医療機関等」に相当するとすると思われ、つまり「行政検査として実施されたコロナ検査(PCRと抗原検査を含む)」のことだろうと推察される。
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/monitoring
ところが東京都は実はこの「行政検査」とは別にいくつもの形でコロナ検査を実施しているのである。ここでもう一度、先ほどご紹介した「新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(第2803報)」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/hodo/saishin/corona2803.files/2803.pdf
を見てみよう。「2患者の発生状況」の項目の下の方に。「参考 検査件数」という欄があり、そこには「行政検査」の他に「都の独自検査件数」、「PCR等検査無料化事業検査件数」というのがあることがわかる。「都の独自検査」というのはこの表からもわかるようにスクリーニング検査として実施している高齢者施設、障害者施設等、医療機関での検査と、モニターリング検査として実施している繁華街、事業所、飲食店、駅、空港などにおける検査であり、この「PCR等検査無料化事業検査件数」こそが、最近岸田総理の肝いりで始めた無料PCRのことである。
となると、これら「行政検査」以外で実施されたコロナ検査の陽性者は、東京都が毎日発表する総数にはカウントされていないことになり、正確には報道各社が報じている1日のコロナ感染者数は総数とは言えないし、「確認されたと発表された」と曖昧に表現していてきちんと現状を伝えているとは言い難い。これら「行政検査」以外 を加えて報告すると陽性率にバイアスがかかるということを懸念するならば、そもそも4172件中1297件が濃厚接触者の検査で陽性が判明した(追加情報参照)のであり、モニタリング会議が注目して経過を追っている陽性率も実態をあらわしているものではない。
2.今すぐにでも改善すべき問題点
無料PCR検査で陽性となった方には、「再度医療機関を受診して原則としてもう一度コロナ検査を受けるように指示されている」らしいのだが、厚労省の思惑通りに全員が指示通りに医療機関を受診して検査を受けて下さるとは限らないし、したがって結局は医療機関を通して行政検査での陽性者として報告されるだろうという思惑通りにはいかないだろう。
この検査の流れはほかにもいくつもの大きな問題を含んでいる。PCRというのは通常翌日以降にならないと結果が出ないところにこれを2回繰り返すとなったら、最終的に診断が確定するまでに最短でも4日を費やしてしまう。重症化リスクのある方には5日以内に経口コロナ治療薬を開始しなければならないのに、このようなスケジュールは大きく治療のタイミングを遅らせてしまう。公費を投入して実施している民間無料PCRであるならばその結果を公式に認めるべきだし、公費をさらに使って不必要な再検査を受けさせるほど無駄なことはない。医療機関はただでさえ忙しいところへさらに余計な負担をかけるばかりでなく、感染者であることが明らかな人をさらに出歩かせて病院に来させるというのもあり得ない指示だ。
PCRにせよ抗原検査にせよ、今は精度管理などの細かいことにこだわるようなのんびりした状況ではないし、どうしても精度管理にこだわるならすぐにでもすべての検査キットのチェックを進めてどんどんお墨付きを与えていけばいい。今、必要なことは「早く広くコロナの検査を実施すること」であって、1日でも早く確定診断にこぎつけて、コロナ陽性者に対しては迅速な自主隔離・自宅療養をお願いし、治療が必要な人に対してはいち早く医療の恩恵を受けられるように環境を整えることである。諸外国のように市販の迅速コロナ検査などもどんどん活用していくべきだし、無駄なお役所縛りの政策から早く脱却することを祈るばかりだ。