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Vol.22014 医学部地域枠は労働基準法に気を付けて運用すべき

医療ガバナンス学会 (2022年1月24日 06:00)


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井上法律事務所 弁護士
井上清成

2022年1月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.医学部地域枠への労働法適用

医学部地域枠制度は、地域医療構想・医師の働き方改革・医師の偏在是正の三位一体改革の中で、医師の偏在是正のための重要な施策の一つとして位置付けられていて、本格的な運用が始まりつつある。ただ、地域枠は正式な制度として構築する際、法的にはかなり厳格なシステムとして仕組みが作られた。そのため、法的観点からみると、各側面で適法スレスレの限界線上にあるような印象だと言ってよい。
たとえば、地域枠離脱の要件を見てみると、離脱事由は具体的な10項目の限定列挙(国家試験不合格、退学、死亡など)だけしかなく、一般条項(包括条項)で離脱の運用を調節する制度的なゆとりがない。諸事情を考慮した上での「正当な理由」などという、どの法律分野にもある一般条項(包括条項)を認めていないようである。しかし、研修中にセクハラ・パワハラにあったとか、制度の移行期だったので県に説明不足・学生に理解不足があったとかいう場合などは、離脱を認めざるをえないと思う。それにもかかわらず、それに当てはめられそうな離脱事由の定めがないのである。これでは法制度として息苦しい。
さらに、別の大きな問題分野は、労働基準法との関係である。研修中の医師が「労働者」であることは法的に明らかであり、地域枠制度を運営する都道府県が実質的に見て「使用者」と認定されることも多いであろう。そうすると、どうしても「労働基準法」の直接的な規制から逃れることはできないとされそうなのである。
2.労働基準法による規制

労働基準法は、不当な人身拘束の防止のため、各種の規制を設けた。強制労働の禁止(労基法5条)、賠償予定の禁止(労基法16条)、契約期間の制限(労基法14条)がその主なものである。
労基法5条は「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」と定めて、強制労働を禁止した。また、同16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めて、賠償予定を禁止したのである。現代においては、労働者の「経済的足止め策」がそれらの規制に違反しているのではないかとして、係争が絶えない。修学資金の貸与とその返還免除の約束が、県が県内における教育訓練の一環として業務命令で研修をさせ、研修後の労働者(医師)を県内に確保するために一定期間の勤務を約束させる(そしてその違約金を定める)という実質のものであれば、強制労働禁止・賠償予定禁止の違反となりうるからである。地域枠の手法の中には、それらと紙一重の実質のものもあるやも知れない。十分な注意が必要である。
また、契約期間の制限も気を付けるべき点であろう。労基法14条1項は「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、5年)を超える期間について締結してはならない。」と定めて、契約期間を3年または5年に制限した。したがって、高度専門職たる医師であっても、5年が限界である。そうすると、たとえば、県内での就業義務を9年間も課したりしていたとすると、この労基法14条1項の定めに違反することになるやも知れない。やはりここは、9年のところを5年に短縮する方が無難なように思う。
3.労働法を遵守した地域枠の運用に

以上の次第であるから、地域枠制度を運用するに際しては、医療法・医師法・民法のみならず、労働基準法を遵守しているかどうか、慎重な検討が必要である。
今だったら、まだ間に合う。各都道府県は、労働基準法に違反しないよう、自らの都道府県で実施している地域枠制度の運用を厳重にチェックし直すべきである。

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