医療ガバナンス学会 (2022年1月25日 06:00)
高瀬武志
桐蔭横浜大学
2022年1月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
コロナ禍が続く中で、筆者は大学剣道部監督という役職上、剣道部に所属する学生部員たちの健康や生活の管理と把握に四苦八苦しています。2022年に入り、オミクロン株なる新たな変異株が急速な勢いで感染拡大しており、学校現場も対応に困惑しています。中高生に比べて大学生は日常の生活における行動範囲が広く、アルバイト等を考慮すると常に感染の脅威と隣り合わせのような生活を送っている。そのような中で、大学に所属する強化クラブとはいえ、このような社会情勢の中でクラブ活動を継続して実施してよいものかどうか、毎日悩み続けています。他のクラブとはいえクラブ内においてクラスターが発生したという状況になれば、我がことのように心配になりますし、明日は我が身かと不安から諦めの気持ちにも似た感情を抱くこともあります。
このような社会情勢において、大学剣道部というクラブの活動を継続するには、感染予防の徹底や学生部員の健康管理と行動管理など様々な面で一定の制限を設けながら活動をするしかありません。また、このような社会情勢の中でも活動を継続するからには、学生部員たちには何かしらの「学び」を得てもらいたいと思っています。筆者が監督を務める桐蔭横浜大学剣道部は4学年の学生部員男女を含めて総勢80名を超える大所帯のクラブです。このようなクラブを統括しクラブの活動を継続するには筆者一人の力では中々、統率をすることは困難な部分があります。そこで、主将をはじめとする男女10人の「幹部」学生がリーダーシップを発揮して所属部員を統率しクラブの目的・目標に向って指揮をとることになります。
本稿では、この幹部学生たちが、長引くコロナ禍にあっても剣道部の活動についてどのような感想を抱き、何を感じ、何を学びながら活動を継続しているのかをご紹介させていただきながら、コロナ禍の中で学生が剣道に精進する意味やそこから学びとっている「学び」についてみていきたいと思います。
学生の得ている学びや気づきのなかには、「当たり前と感じていたことは当たり前ではない」や「このような社会情勢の中でも剣道(の稽古)をさせてもらえることに感謝したい」や「自分のためだけではなく、周囲のためにも感染予防対策を徹底したい」や「部員間の中でソーシャルディスタンスなどの物理的な距離はしっかりとらなければならないが、精神的な距離は常に寄り添っていられるように意志の疎通は徹底したい」や「活動の目的が1つに限定されることがなくなり、生涯武道に代表されるような健康や人間形成の実現のためにクラブ活動に精進したいという気持ちの芽生え」などが幹部学生らのコロナ禍を振り返っての感想から読み取れた。
学生部員たちは、コロナ禍の中で目標としていた公式戦となる大会が延期や中止になっても上述したように今ある現状を見極めながら、大学でのクラブ活動について自分たちなりの解釈や意味づけを行えるようになってきていると感じる。特に筆者の目にとまったのは活動をさせてもらえることへの感謝であり、自分のためだけではなく周囲の人への配慮であり、一回一回の活動や学生間の交流にについて大切にしようとする気持ちや行動である。これは、コロナ禍以前では中々、気づくことも学ぶことも難しかった内容であろうと思います。
大学で開講している授業がオンラインに切り替わったり、クラブ活動の時間が短縮あるいは自粛を余儀なくされたり、公式戦が延期や中止になってしまっても、我々のような大人が考えている以上に学生たちは、自分たちの生きる社会の現状を見極め、今自分たちにできることや為さねばならぬことをよく理解し我慢と実行のバランスを上手にとりながらモチベーションを高く維持しながら懸命に努力をしています。一見すると学生という立場や年齢の人たちは自分勝手な行動が目立つこともありますが、学生にはそういった行動をとる人たちだけではなく、学生という立場を最大限に活用して、コロナ禍においても学びと経験(学習)を得ることを諦めない、止めない学生たちがいます。
コロナ禍のなかで中々、明るいニュースや情報が発信されない、できない社会情勢かもしれませんが、そんな社会情勢の中でも、地道に努力を重ねる学生がいることを我々社会人や監督を含めた指導スタッフや大学に所属する教職員スタッフも含めた全員でしっかりと認識し、そんな学生たちの期待と努力に応えてあげられるように、できる限りの指導とサポートを持って、努力する学生たちの学生生活の充実とコロナ禍のような先行きの見えない不安定な社会情勢だからこそ剣道をする意味をしっかりと再確認することによって、自分の現状への感謝と自分だけでなく周囲の人への配慮や協働といった助け合いをもって、人を活かすことができるような「活人剣」を身につけられるように学生と共に今後も感染予防対策を徹底したうえで頑張っていきたい。