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Vol.22017 第6波の渦中にあり思うこと

医療ガバナンス学会 (2022年1月27日 06:00)


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都内民間病院長

2022年1月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現在オミクロン株によるCOVID19感染爆発の真只中にある。第5波を大きく超え週に4倍前後の増加速度となり、東京都も1万人を大きく超えている。確かに発熱外来では急激に患者数が増加しており、我々の処理能力を完全に超える勢いで感染増加が起きている。連日夕患者数の速報値と増加率、ベット使用率増加が報道されている。専門家は慎重な言い回しだが、デルタ株と比較し重症化率は低いが感染力は強く注意が必要だと言う。この点は全く同感だ。今回のオミクロン株によるCOVID19感染症は、ほとんど肺炎患者がいないか極軽症の肺炎患者が多い。重症患者の多くは基礎疾患を持つ高齢者とされている。

しかし軽症だからと言っても咽頭痛が強く食事が出来ない、高熱で息苦しく感じる等で救急依頼や直接来院する患者も数多い。当院は民間救急病院であり第5波のピーク昨年秋に東京都知事と厚労大臣の連名による依頼でコロナ病床を増床した。
第5波では呼吸状態の急速な悪化により高次医療機関に転送をお願いするケースが少なからずあり、患者様、ご家族が高次医療を希望しない場合は当院で最後まで診させていただいた。第5波がほぼ終焉した際にコロナ病床返還を考えたが、その最中に南アフリカでのオミクロン株による感染爆発、欧州での感染拡大がニュースとなり、いずれは我が国にもオミクロン株によるCOVID19感染症が広がる恐れもあり閉鎖の判断は出来なかった。

しかしその後も我が国では年末までオミクロン株によるCOVID19感染爆発は起きず、コロナ病床は有熱患者がCOVID19感染症で無い事を確認するまでの一時的な場所として使用していた。有熱患者を数日間隔離するのは、万が一同患者がCOVID19感染症であり大部屋(当院では6人部屋)に入院すれば全員が濃厚接触者となる。実際に第5波では同室者感染による院内クラスターが起きた。また担当看護師も濃厚接触者となり夜勤では多数患者を担当するため、多くの場合は病棟全体を閉鎖せざるを得ない。COVID19感染症は発症前に他者に感染させる可能性がある潜伏期間があるため、デルタ株なら2週間、オミクロン株でも10日間は新規感染者が出る事を想定しなければならずこの対応となる。

発熱を有する若い世代の患者は体力があるためか、日中よりも夜間になり救急依頼をする事が多い。そのため救急病院は夜間に発熱患者受診と入院が多くなる傾向がある。
明らかな原因がわからない発熱患者はコロナ疑似症例と呼ばれる。コロナ病床を多数持つ病院は、真のコロナ患者とこの疑似症例の導線を明確に分けることで受け入れられる。
一方我々のような救急が中心の民間医療機関は、患者診療に使用する以外の余剰スペースは無いため、コロナ病床を増床するには通常診療用の病床を転用するしか無い。年末年始まではこのコロナ病床をワンステップ病棟として疑似症例に使い救急患者を受け入れた。
年末年始までの救急車受け入れ率は80%まで上昇し、多くの救急患者を入院診療出来た。

そしてその後オミクロン株によるCOVID19感染爆発が起きた。

先に述べたようにオミクロン株によるCOVID19感染症の多く、特に若い世代では大多数が肺炎の無い上気道炎が中心だ。在宅や施設での経過観察が望まれるが基礎疾患がある場合や高齢者は入院適応であり、行政からの依頼で空きベットがある限り受け入れている。
当院は脳血管疾患、心臓血管疾患、大腿骨頸部骨折を含む外傷を救急の柱に据えて診療を行ってきた。コロナ蔓延下における診療では、発熱を有するこれら疾病者への緊急治療を中心に地域医療に邁進してきた。しかしコロナ患者受け入れ要請に応えることで年末年始まで行っていたCOVID19感染症のスクリーニング病棟としての機能は失われ、個室が無い限り発熱患者の受け入れは不可能となった。即ち冬期になり増加する脳血管疾患や心臓血管疾患、骨折等の患者でも発熱があれば受け入れ不可となってしまったのだ。
私は毎朝夜間の救急受け入れについて報告を受けている。12月末まではこのワンステップ病棟を使用することで、これらの緊急治療を要する患者を多く受け入れ当院が果たすべき役割を十分に果たしてきた。しかし最近は救急車受け入れ率が30%程度まで低下し、救急病院としての機能を全く果たせずにいる。忸怩たる思いで一杯だ。

なぜこうなってしまったのか?

オミクロン株に変異したCOVID19感染症についての特徴や分析、社会経済との関連には各種の専門家がおりメディアを通じ発言されている。私はこのような方々の様な専門知識は持ち合わせておらず、細かな情報を集積し分析する時間も力も無い。
しかし現場の声を聞かずして理論を展開することに大いなる違和感を持っている。
ウィズコロナの時代と言う発言を聞く。しかし今、発熱外来やコロナ病床を持つ病院のあり方についての発言は決して多くない。
コロナ患者と一般患者診療は導線を分けて行う必要がある。しかし多くの開業医の方々も我々民間の中規模以下の病院も導線を分けることが難しい。
多数のコロナ疑い患者診療(発熱外来)が可能なのは広い面積を有する診療所や病院である。報道では工夫して頑張っていますという医師が良く出演している。頑張っていることは素晴らしいし有り難いことだとは思う。しかし頑張ってやれば誰でも出来ると言う理屈は誤りだ。一般診療の患者も来院する中で一人でもコロナ患者が紛れてしまえば、このオミクロン株によるCOVID19感染症は待合室で急拡大する可能性があるからだ。如何に水際対策をしてもコロナが上陸したように、一般診療の中で完全なる分離など非現実だ。

だからこそ今必要なことは、コロナ診療病院と他の急性期診療病院を明確に分けることではないのか。発熱を有する乃至はコロナが心配な患者は各地域の公的病院特に国立病院及び尾見会長のJOHO等のいわゆる第3セクター病院群を完全なコロナ病院化し、その他の疾病には各種機能を持つセンター病院や大学病院、地域の基幹になる民間病院に急性期患者を集中させ分離する事で、今起きている急性期医療の崩壊は回避できると考える。
国立系病院群は国費で購われており、このような有事に対応するのが本来の使命と思う。しかし現在のの一部は、経営を重視し高度医療を目指して設備投資や人員を集めている。今我々病院群は機能分化すべきであって、お互いに患者獲得や機能を争っている時では無い。第3セクター病院群は国の力で再開は可能だが、民間病院群は経営破綻すればそのまま消滅するだけだ。
COVID19感染症への対策は今後も必要であり、それ以外の新興感染症対策が緊急で必要になるときは常に起こりうる。有事への対策は平時から考慮されるべき問題だろう。

今回のコロナ議論の中で、病床の多くを占める民間がなぜ協力しないのかという論調がしばしば聞かれた。繰り返し言うが民間は医療以外の部分はほぼ切り捨てて、地域医療に専念している。厳しい医療費改定の中、救急診療等で何とか利益を出し設備投資と人員確保を行っている。一方で一部の公的病院も民間もコロナ病床を多数持つことで補助金を得て黒字化しており、実際には患者がおらず幽霊病床と呼ばれていたこともある。この補助金での黒字化は本来の急性期病院の在り方では無いと、心ある民間医療機関なら皆感じている。一日でも早く本来の急性期医療に戻り地域に貢献したいのだ。
オミクロン株は重症者が少なく5類にすれば良いと聞く。インフルエンザが施設で発生、多数の死者が出た事は以前からあり正論かもしれない。しかしそのためには国民の理解が必要だ。ネット社会の中、不安を煽るサイトやワクチン接種に対しても副反応への危惧から反対意見も数多く、ただ5類にするだけでは解決にならないだろう。

COVID19感染症対応には患者の導線を分ける必要があり、医療も棲み分けが必須だ。
都立病院は第5波で多くの病院をほぼコロナに特化して戦ってくださった。
今後は国立ないしは第3セクター病院群をコロナ化し、夜間救急でもコロナ疑いはこれらの病院群で対応し、棲み分けを行うことで医療崩壊は食い止められると考える。
日本ではコロナ専門病院を作ることなど直ぐに出来るわけがない。
今ある病院群の中で国命の元、直ちに方向を転じられるのは経営を考えなくても良い国立や第3セクター病院群だ。一般患者受け入れは民間を含む病院群にお任せいただきたい。
今が本当に大事な時なのだ。是非とも早くご決断願いたい。

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