最新記事一覧

Vol.22018 絶対禁忌の薬が難病に使われています

医療ガバナンス学会 (2022年1月28日 06:00)


■ 関連タグ

鹿児島県 井手小児科
井手節雄

2022年1月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1、タダラフィル事件の始まり

1995年にタダラフィルは選択的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤として物質特許を取得しました。しかし、その5年後の2000年にホスホジエステラーゼ11(PDE11)が発見されて、タダラフィルはホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害するばかりでなくホスホジエステラーゼ11(PDE11)も阻害することが判明しました。このことが、イーライ・リリー社の副作用の隠蔽工作の始まりとなりました。
難病患者の生命権を軽視し、厚労省の定めたRMP(医薬品リスク管理計画)を無視し、タダラフィル商品の製造販売承認申請の段階において添付文書にからくりを仕組むなど厚労省さえ愚弄する副作用の隠蔽でした。
薬害事件は、キノホルム事件、サリドマイド事件、薬害エイズ事件、ヤコブ病事件、薬害肝炎事件などいろいろありますがどの薬害事件もタダラフィル事件とは違って、薬品メーカーが意図して副作用を隠蔽した事件ではありませんでした。
タダラフィル事件は難病患者の生命権の無視という人権問題、厚労省のRMP(医薬品リスク管理計画)の無視、商品の製造販売承認申請の段階における添付文書のからくりなど法的な問題さえ絡む、薬品史上例を見ない薬害事件となりました。
添付文書のからくりにより、専門家と言われる医師も薬剤師もタダラフィルの副作用の危険性に気付きませんでした。
2、見逃されてしまっている副作用

選択的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤と言われるタダラフィルが、PDE5のみならず、ホスホジエステラーゼ11(PDE11)も阻害することにより、“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という前代未聞の副作用が起こることになりました。
私は、排尿障害治療薬ザルティア錠5㎎を1年ほど服用したところで起立性低血圧が起こり脳貧血発作を発症して2週間ほど寝込みました。私の通常の血圧は150/90mmHgでしたが、脳貧血発作を発症したときは94/56mmHgという低血圧でした。そして血圧低下(150/90mmHg→110/60mmHg)の後遺症が残り易疲労性、倦怠感などの体調不良に悩まされることになりました。
何故、ザルティアの服用を始めて1年も経ってから起立性低血圧による脳貧血発作が発症したのか、何故、血圧低下の後遺症が残ったのか理由が分かりませんでした。毎日、毎日考えていました。
そうしたある日2017年8月5日のNHK番組チョイスを見ていたら、講師が「寝たきりなどの人は、栄養不良の状態が起こると廃用性萎縮を起こした筋肉はリストラされてしまうことがある」と話していました。
リストラという言葉で私の「血管平滑筋も廃用性萎縮を起こし、リストラされたのではないか」という閃きが湧きました。
(1)何故、脳貧血発作はザルティアの服用を始めて1年も経ってから発症したのかについては、血管平滑筋が時間をかけて廃用性萎縮に陥り、自律神経の緊張によって辛うじてとられていたバランスが崩れて起立性低血圧が発症したと考えると辻褄が合いました。
(2)血圧低下の後遺症については、廃用性萎縮を起こした血管平滑筋が何らかの理由でリストラされたと考えるとこれも辻褄が合いました。
“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”ということの生化学的なメカニズムの解明に取り掛かりました。

ザルティアの添付文書にはどこにもPDE11阻害剤とは記載されていませんが、色々調べるうちに、選択的なホスホジエステラーゼ5阻害剤と言われているタダラフィルは、選択的にホジエステラーゼ5(PDE5)だけを阻害する薬ではなくて、ホスホジエステラーゼ11(PDE11)も阻害する薬であることが分かりました。

タダラフィルにPDE11も阻害するという薬理作用が有るということで、cAMPの分解が阻害されて血管平滑筋細胞内のcAMPが増加し→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAが活性化して→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→Unloadingストレスが発生して血管平滑筋が廃用性萎縮に陥るということが分かりました。
廃用性萎縮が起こるためにはUnloadingストレスが持続的に、間断なく続くことが条件になります。タダラフィルの36時間という長い作用持続時間と反復投与により半減期が23.9時間に延長することが血管平滑筋の廃用性萎縮の原因となりました。

平滑筋の廃用性萎縮
人の体は使わなければ痩せて細くなり衰えてしまいます。こういうことを「廃用性萎縮」と言います。
骨格筋の廃用性萎縮のメカニズムは、長期臥床、ギプス固定、宇宙空間滞在など筋肉への『力学的負荷の低下』(Unloadingストレス)があると、酸化ストレスが発生し、ミトコンドリアが障害され、細胞におけるタンパク質の分解の亢進と合成の低下が起こり筋肉は廃用性萎縮に陥ります。
廃用性萎縮は『力学的負荷の低下』(Unloadingストレス)が長期にわたり続くことによって起こります。
寝たきりにおける骨の廃用性萎縮は有名ですが、廃用性萎縮は骨格筋のみならず、骨にも不随意筋である平滑筋にも起こります。
平滑筋は自律神経によって収縮と弛緩がコントロールされていて、ひと時も休むことなく不随意運動が繰り返されています。
この平滑筋に廃用性萎縮が起こるかということは疑問に思われる方は多いと思いますが、人工透析によって尿の生成が少なくなると膀胱平滑筋にも廃用性萎縮は起こります。
とにかく、骨格筋にしろ、骨にしろ、平滑筋であっても『力学的の負荷の低下』(Unloadingストレス)が起こると廃用性萎縮は起こります。

血管平滑筋のリストラとユビキチンシステム理論
“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という仮説をたてたわけですが、血管平滑筋がどのようなメカニズムでリストラされるかということを解明することはなかなか難しいことでした。
手当たり次第に色んなキーワードを入力してネット検索を続けました。私は学生時代から動的平衡ということに興味を持っていて、青山学院大学の福岡伸一教授の「動的平衡」という本も読んでいました。
「動的平衡とタンパク質の分解」というキーワードで検索してところ、「動的平衡」の著者である福岡伸一教授の記事が目に留まりました。
2004年にノーベル化学賞を受賞したアーロン・チカノーバ教授がノーベル賞受賞記念講演において、動的平衡を始めて実験的に証明したルドルフ・シェーンハイマーについて話をしたことが書かれていました。
このことで「ユビキチンシステム理論」の存在を知ることになりました。ユビキチンシステムに関する論文や本をいろいろ読みました。
“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という選択的ホスホジエステラーゼ5阻害剤タダラフィルによる副作用は、文字通り血管平滑筋が廃用性萎縮に陥りリストラされるという副作用ですが、なぜ、タダラフィルの副作用により廃用性萎縮に陥った血管平滑筋がリストラされるかということを説明します。

ユビキチンシステム理論とは2004年のノーベル化学賞受賞理論であって“生体に於けるタンパク質の品質管理システム”についての理論です。
イスラエル工科大学のアーロン・チェカノーバ教授、アブラハム・ハーシュコ教授、カリフォルニア大学イートン校のアーウィン・ローズ教授が受賞しました。
ユビキチンシステム理論とは「老化して寿命の来たタンパク質や、生成の過程でミスフォールディングの生じたタンパク質、正常なタンパク質でも酸化ストレスによって傷ついたタンパク質は生体に不要なタンパク質としてユビキチンシステムにより分解される」という理論です。
ユビキチンは酵母からヒトまであらゆる真核細胞に存在する76アミノ酸残基からなる小さなタンパク質です。真核細胞とは核膜で囲まれた明確な核をもつ細胞のことで細菌と藍藻以外はすべての細胞が真核細胞ということになります。
ユビキチンの名前の由来は、ラテン語の“ubique=あらゆるところで”という形容詞を基にした英語「ユビキタス(ubiquitous)」から来ています。「至る所に存在する」という意味が有ります。「ユビキチンの介在でタンパク質が分解される仕組みの発見」によりノーベル化学賞を受賞したアーロン・チカノーバ教授と、アブラハム・ハーシュコ教授が名付けました。

ユビキチンはタグ(tag)です
ユビキチンは「老化して寿命の来たタンパク質や、生成の過程でミスフォールディングの生じたタンパク質、正常なタンパク質でも酸化ストレスによって傷ついたタンパク質」など不要なタンパク質に複数個付加(ポリユビキチン化)して「このタンパク質を壊して下さい」という分解シグナルとして働きます。簡単にいうとユビキチンはtagです。
ユビキチンシステムにおいてユビキチンはタグ(tag)、「モノを分類するために付ける小さな札」です。荷札、付箋ということになります。
「このタンパク質は異常なタンパク質ですよ!」「このタンパク質は不要なタンパク質ですよ!」「このタンパク質は老化していますよ!」という情報が記載されたタグ(tag)です。
ユビキチンというタグ(tag)を付けたタンパク質は、蛋白分解酵素複合体であるプロテアソームに認識されATPの力を借りて分解・排除されてしまいます。

「老化して寿命の来たタンパク質や、生成の過程でミスフォールディングの生じたタンパク質、正常なタンパク質でも酸化ストレスなどによって傷ついたタンパク質」は生体に不要なタンパク質としてプロテアソームというシュレッダーで分解・排除されます。
人間の体内では、絶えずタンパク質の分解・合成がなされていますが、新生タンパク質の30%がミスフォールディングの不良品だそうです。
これらの不良品が体内にとどまっていると、体内機構に影響を及ぼし、何らかの疾患を引き起こす可能性が有ります。
異常タンパク質の蓄積が原因で引き起こされると考えられている疾患としては、様々な神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病)などが知られています。

ユビキチンシステムはタンパク質の品質管理システムの理論です
「老化して寿命の来たタンパク質や、生成の過程でミスフォールディングの生じたタンパク質や、正常なタンパク質でも酸化ストレスによって傷ついたタンパク質」は生体に不要なタンパク質としてユビキチンシステムにより処理されてしまいます。
今まで、化学は“合成と働き”という点での研究は盛んでしたが、“分解と死”という視点の研究はあまりありませんでした。そういう点でユビキチンシステム理論は画期的なものでした。
“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”というザルティアの副作用のメカニズムの解明において、酸化ストレスによって傷つき廃用性萎縮を起こした血管平滑筋は「ユビキチンシステムによってリストラされるということが理論的に説明できる」ことに気付きました。
ユビキチンシステム理論の存在を知ったことで、“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という副作用のメカニズムの解明は完成したと思いました。

catch mechanism
人工透析の患者では、自尿の生成が減少するために、膀胱平滑筋に対する『力学的負荷の低下』(Unloadingストレス)が起こり、膀胱平滑筋の廃用性萎縮が起こります。
人工透析における廃用性萎縮膀胱においては腎臓移植により尿が生成されるようになると、膀胱の機能はすぐに回復し、正常な蓄尿が始まります。
人工透析により起こる廃用性萎縮膀胱の場合は、尿量の減少は様々ですが、膀胱の畜尿量は減るものの、畜尿という膀胱としての機能が失われることは有りません。低容量、低コンプライアンスでありながらも膀胱機能は存在します。“catch mechanism”という言葉で説明されているように、廃用性萎縮膀胱は、つねに少ないエネルギー消費ではありますが、外力に対応して、膀胱機能を維持していることになります。
ですから、腎臓移植により尿の生成が活発になった時は、すぐ膀胱機能を回復して、普通に畜尿ができるようになります。このことをcatch mechanismと言います。
しかし、PDE11阻害によるcAMPの増加→リン酸化酵素のプロテインキナーゼAの活性化は→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」をもたらし、血管平滑筋は全く収縮も弛緩も出来なくなり血管平滑筋としての機能は廃絶します。
「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり、「収縮と弛緩という機能が廃絶」して廃用性萎縮に陥った血管平滑筋は「何の機能も無い単なるタンパク質のかたまり」というような状態になり、生体に不要なタンパク質としてユビキチンシステムによりリストラされます。
3、血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ

血管平滑筋の廃用性萎縮は選択的ホスホジエステラーゼ5阻害剤といわれるタダラフィルが実はホスホジエステラーゼ11(PDE11)も阻害することにより、cAMPの分解が阻害され血管平滑筋細胞内のcAMPが増加して→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAの活性化が起こり→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こるために→Unloadingストレスが発生して酸化ストレスが生じてミトコンドリアが傷害されて、タンパク質の合成の低下と分解の亢進が起こり血管平滑筋の廃用性萎縮が起こります。
「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり、「収縮と弛緩」という機能を失い酸化ストレスによって廃用性萎縮に陥った血管平滑筋は「何の機能も無いタンパク質のかたまり」と見なされ生体に不要なタンパク質としてユビキチンシステムによりリストラされてしまいます。
2004年のノーベル化学賞受賞理論である「ユビキチンシステム理論」を知ったことで血管平滑筋のリストラを説明することができました。

動的平衡とは「生体を構成している分子は、全て高速で分解され、食物として摂取された分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこのようにして常に作り替えられていて、更新され続けているのである」という理論のことです。

4、なぜ、タダラフィルの副作用問題が表面化していないか

はじめのうちは添付文書にはタダラフィルは選択的ホスホジエステラーゼ5阻害剤と記載してあるために、タダラフィルがPDE11を阻害する薬であるということが分かりませんでした。
しかし、タダラフィルがPDE11を阻害することが分かったために、cAMPの分解が阻害されて血管平滑筋細胞内のcAMPが増加し→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAが活性化して→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→Unloadingストレスが発生して血管平滑筋が廃用性萎縮に陥るということが分かりました。

そして、タダラフィルの副作用の血管平滑筋の廃用性萎縮の発生には薬の服用開始と副作用発症までの間に1年というような長い時間を要するために、薬の服用開始と副作用発症までの時間的な整合性が説明できないために、タダラフィルによる血圧低下による易疲労性や倦怠感という症状と、タダラフィルの服用が結び付かないと思います。

また、添付文書にはタダラフィルがPDE11を阻害する薬であることは一切記載されていないために「易疲労性とか、倦怠感とかいう患者の症状を診てPDE11が阻害されて発症するタダラフィルの副作用である」と医師が説明できないためと思います。

タダラフィルの副作用の被害者の私自身が医師であったために解明できたタダラフィルの副作用のメカニズムと思います。タダラフィルの副作用のメカニズムの解明を毎日、毎日考えていました。そして、いろんな幸運が重なって、タダラフィルの副作用のメカニズムを解明することができました。

PDE11を阻害することにより血圧低下の副作用をもたらすタダラフィルが、アドシルカという商品名で難病の肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬として用いられています。しかも用量はザルティアの8倍の40mgです。肺動脈性肺高血圧症(PAH)の患者にとって、低血圧の発症は右心不全、突然死を意味します。
絶対禁忌と言える薬が難病に使用されているなど、前代未聞の薬害事件です。イーライ・リリー社は裁判において必死に副作用の隠蔽を図りました。
「角を矯めて牛を殺す」、「難病患者の生命権の軽視」の章で詳しく説明します。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ