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Vol.22019 震災後は南相馬市の大腸がん検診参加率が減少。コロナ禍にも通じる数年に及んだ震災の影響

医療ガバナンス学会 (2022年1月31日 06:00)


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この原稿はWeb医療タイムス(2021年12月23日配信)からの転載です。

仙台厚生病院消化器内科
齋藤 宏章

2022年1月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は消化器内科として仙台厚生病院で勤務しながら、2017年より福島県立医科大学放射線健康管理学講座で社会人大学院生として研究を行なっている。今回、12月16日に公開された被災地域でのがん検診の状況に関する調査結果を紹介したい。

日本ではがんの早期発見治療を目的に、いくつかの種類のがんを対象としたがん検診が自治体から市民に受診の機会が提供されている。中でも、大腸がん検診は国際的にも有効性が確立した重要な検診である。便潜血法といって、2日間採取した便の中に血液の成分が含まれているかどうかを見る検査で、陽性となる場合は大腸がんや、大腸ポリープがある可能性が考えられるため、大腸カメラの検査が勧められる。大腸がん検診の有効性=対象となる集団の大腸がん死亡数を減らすこと、を高めるためには、より多くの人が検診に参加することが重要であることが知られている。参加者が少なくなると当然、早期に見つけられる大腸がんの数も少なくなるためである。

今回私は福島県南相馬市での震災前後10年の大腸がん検診参加率の推移を調査した。南相馬市は2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた地域の一つである。東日本大震災では地震と津波の後に起きた福島第一原子炉の爆発によって、周囲の多くの住民が避難を強いられた。今回の原子力災害事故による放射線被曝自体の健康への影響はほとんどないということがこれまでの調査によって明らかになっているが、一方で、避難やそれに伴う環境の変化などによって起きる生活習慣病の悪化や、精神面への影響などがあることがその後の調査で判明している。本来、症状が出る前に病気を早く見つける、というがん検診においても、震災後は影響が出ているのではないかという仮説のもと、大腸がん検診への参加率の推移を調査した。

震災前の参加率(2009年12.3%, 2010年11.7%)と比較して震災年の2011年は3.4%と大幅に減少していた。参加率は2012年も低下し(6.1%)、2013年に震災以前とほぼ同等の水準まで回復していた(10.2%)。65歳未満の年齢であること、独居、避難の状態であることが検診に参加しないことと関連していた。

この調査の結果は2点において重要である。1点目は影響が長期に及んでいたことが判明したことである。複数年に及んで参加率が低下していたということはやはり震災の影響の大きさと継続性を表している。2点目は独居や避難の状態など孤立しがちな状況が検診不参加と関連していたことである。震災後に、医療機関とのつながりを失うこと、周囲との繋がりを失うことが検診などの予防的な医療活動への参加を妨げている可能性がある。

実は今のコロナ禍の状況は、震災後と共通点がある。医療機関へのアクセスが制限され、在宅で籠りがち、周囲との繋がりも希薄になり、かつ状況が長期化している点などだ。特に最近になり、コロナ禍の受診控えの影響ががんの診断にも影響を与えていることが警鐘されている。

私はこの調査に関わる中で、普段接する患者さんや周りの友人、家族にも検診を受けているかどうか呼びかけるようになった。孤立しがちな今だからこそ、最近どう?という声かけや思いやりが大事になっていると感じている。

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