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Vol.22022 絶対禁忌の薬が難病に使われています (2)

医療ガバナンス学会 (2022年2月3日 06:00)


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鹿児島県 井手小児科
井手節雄

2022年2月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

5.薬害裁判と誤誘導

1、「アメリカのリリー本社で情報収集中!」

イーライ・リリー社と日本新薬株式会社に副作用の危険性を訴えましたが、「アメリカのリリー本社で情報収集中!」の回答が繰り返され副作用を隠蔽する意図が感じられました。これほど危険な副作用に気付きながら、このまま泣き寝入りすることは、「医師として、人として一生後悔する」と思い2017年12月に大阪地裁に提訴しました。
イーライ・リリー社と日本新薬株式会社は8人の弁護団を揃えて裁判に臨んできました。薬害裁判のような場合、薬品メーカーは会社の学術、法務部、統括責任者、弁護団でチームを結成するそうです。
当方は、内藤由佳弁護士一人での裁判となりました。内藤由佳弁護士は40代半ばの若い弁護士ですが、私の主張をよく理解してくれて素晴らしい準備書面を纏めていただきました。
2017年12月18日に大阪地裁に提訴して裁判は始まりました。裁判を戦って嫌というほど知らされたのは、利益追求のために患者に犠牲を強いる製薬ビジネスの姿でした。
イーライ・リリー社と日本新薬株式会社には一片の倫理も感じられませんでした。誤誘導という手法を講じ、裁判官を愚弄し、法廷も冒涜するものでした。
2、タダラフィルの副作用のメカニズムの解明

タダラフィルはザルティアという商品名で排尿障害治療薬として販売されています。私は、ザルティアを1年ほど服用したところで起立性低血圧による脳貧血発作を発症しました。そして血圧低下の後遺症が残り、倦怠感や易疲労性などの体調不良に悩まされることになりました。
なぜ1年たってから脳貧血発作を発症したのか、なぜ血圧低下の後遺症が残ったのかいろいろ調べてみました。
そこで、タダラフィルがPDE11を阻害することで“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”というとんでもない副作用が起こることに気付きました。
ザルティアの添付文書にはタダラフィルがPDE11を阻害することは記載されていません。
しかし、タダラフィルがPDE11を阻害することによって血管平滑筋細胞内のcAMPが増加して→リン酸化酵素であるプロテインキナーゼAが活性化して→ミオシン軽鎖キナーゼがリン酸化され→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→血管平滑筋の廃用性萎縮が起こることに気付きました。
タダラフィルは選択的ホスホジエステラーゼ5阻害剤として1995年に物質特許を取得していますが、2000年にPDE11が発見されて、タダラフィルはPDE5だけではなくPDE11も阻害することが判明しました。

ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素

ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素はPDE1からPDE11まで11のファミリーから成り立っています。
ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素は、細胞内情報伝達系の酵素であって、細胞外の情報を細胞内に伝達することによって、生体の恒常性を保つために働きます。
生体の恒常性とは、内部や外部の環境因子の変化に関わらず、生体の状態が一定に保たれるという性質のことです。健康は生体の恒常性によって維持されます。
PDE1からPDE11にはそれぞれの独自の働きが有り、PDE1からPDE11はその働きを補ったりすることはありません。
しかし、イーライ・リリー社の裁判手法はPDE3がPDE11の働きを補うという「作り話」をでっち上げ、「タダラフィルがPDE11と同時にPDE3を阻害しなければcAMPが増加することは無い」と裁判官を騙そうとするものでした。
ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素の働きはcAMPやcGMPを分解することで細胞外の情報を細胞内に伝え、生体の恒常性の維持のために働きます。
PDE11が阻害されてcAMPが増加するということは細胞内の情報であり、細胞外の情報ではありません、しかし、イーライ・リリー社は細胞内の情報と細胞外の情報をごっちゃにして、タダラフィルによってPDE11が阻害されて増加したcAMPをPDE3が分解するなどという「作り話」をでっち上げました。

ところで、以前はcAMPとcGMPは対なものと考えられていましたが、その後の研究でcAMPとcGMPの働きは全く違うものであることが分かってきました。
cGMPの分解阻害は平滑筋の弛緩をもたらしますが、cAMPの分解阻害はステロイドの産生と分泌、イオン輸送、糖及び脂質代謝、酵素の誘導、遺伝子調節、細胞の成長及び増殖など生命維持のためのあらゆるシステムに影響を与えます。
研究者の間ではcAMPの分解を阻害することは非常に危険なことであるということは常識になっています。
“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という副作用はタダラフィルがPDE11も阻害するために起こる副作用です。イーライ・リリー社はタダラフィルがPDE11を阻害するために起こる、cAMPの増加を否定するために誤誘導という手段をとって裁判官を愚弄し、裁判をも冒涜しました。
3、誤誘導と誤誘導の破綻

誤誘導という言葉は、マジシャンが観客の注意を別の方向に向かせるためのテクニックであるMisdirectionという言葉に由来しています。
つまり、あることに注意を引き付けて、正しくないことを、正しいと錯覚させるテクニックのことです。
一般的に、情報は「正しい」か「嘘をついているか」で判断されやすいのですが、「正しい情報を織り交ぜることで、ある事を正しいことと錯覚させる」誤誘導という手法があります。
特に、注意しなければならないのが誤誘導サブリミナルと言われています。サブリミナル手法とは「錯覚させた情報を、正しい情報として潜在意識に刷り込ませる技術」のことです。
つまり、誤誘導とは「正しい情報を織り交ぜることで、ある事を正しいことと錯覚させる」手法のことであって、「錯覚させた情報を、正しい情報として潜在意識に刷り込ませる技術」をサブリミナル手法と言います。
サブリミナルとは心理学の言葉であって、subliminalつまり潜在意識という意味です。

『ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカを例にとって誤誘導を説明します』

ウルグアイの元大統領のホセ・ムヒカは大統領官邸での贅沢な生活を辞退して、畑の中の粗末な自宅で暮らし、国会には35年愛用しているフォルクスワーゲンで通勤して、大統領としての給料の大半は国民のために使うようにと寄付していました。世界で一番貧しい大統領と言われていました。
2,012年のリオデジャネイロの国際会議でのホセ・ムヒカの「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、かぎりなく多くを必要としてもっともっとと欲しがることである」という演説は人々の心を打ちました。
このホセ・ムヒカ大統領を例にとって誤誘導を説明します。
「ウルグアイの大統領のホセ・ムヒカは、大統領官邸での生活を拒否して自分の農場に居をかまえて国政を動かした世界で一番贅沢な大統領です。」と誰かが言ったとしたら、
「ホセ・ムヒカは自分の大農場に迎賓館のような豪邸を建てて、みすぼらしい大統領官邸での暮らしを拒否した世界で一番贅沢な大統領」と錯覚するかもしれません。
このように、「大統領官邸での生活を辞退したという事実」と「農場の自宅で生活した」という事実を交えることで、世界で一番貧しい大統領を、世界で一番贅沢な大統領と錯覚させるような手法を誤誘導と言います。
ホセ・ムヒカ大統領が畑の中の粗末な家に住んで、財産といえば35年愛用しているフォルクスワーゲンだけであって、自分の給料はほとんど寄付して質素な生活をしている大統領だということを知らなければ、誤誘導に引っかかってホセ・ムヒカ大統領のことを世界で一番贅沢な大統領と錯覚してしまうかもしれません。
このように、ある事実を交えることで、正しくないことを正しいと思わせるような手法を誤誘導と言います。
イーライ・リリー社が副作用の隠蔽のために誤誘導という手法をとったことに唖然とするとともに、薬品メーカーがこれほど堕落していることに愕然としました。
副作用を隠蔽するために、裁判官を愚弄し、裁判さえ冒涜するイーライ・リリー社と日本新薬株式会社の誤誘導でした。

イーライ・リリー社の誤誘導の実際

イーライ・リリー社は「血管平滑筋にはPDE3がPDE11より多く分布するという事実」ともう一つ、「PDE3の方がPDE11より強いcAMP分解作用を有するという事実」の二つの事実を織り交ぜて誤誘導を仕掛けました。
(血管平滑筋にはPDE3がPDE11よりも多く分布し、かつ、PDE3の方が強いcAMP分解作用を有する以上、PDE11を阻害するだけでは、PDE3の存在によってcAMPの増加が妨げられ、血管平滑筋が全く動けない状態になることは考え難い、)と主張しました。
もちろん、PDE3がPDE11の機能を補完することはありませんから、このような作り話は、ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素について知識があれば、一笑に付されるような話ですが、裁判におけるイーライ・リリー社の誤誘導は、生化学に疎い文系の裁判官を錯覚させるためのものであって、「原告の主張は間違っていると裁判官に錯覚させて」イーライ・リリー社に有利な判決を勝ち取るための手段でした。

ホスホジエステラーゼ(PDE)ファミリーはPDE1からPDE11まで11のファミリーが有りますが、これらの酵素は細胞内情報伝達系の酵素であって、いろんな細胞外の情報を細胞内に伝達する酵素です。
PDE1という酵素にはPDE1としての働きが有り、PDE3にはPDE3の働きが有り、PDE11にはPDE11の働きが有ります。
PDE11が阻害されたからといってPDE3がPDE11の機能を補完してPDE11阻害によって増加したcAMPを分解するということはありません。

ホセ・ムヒカ大統領の例でも述べたように、タダラフィルがPDE11阻害剤であるということとは何の関係もない「平滑筋にはPDE3がPDE11よりも多く分布する」という事実と「PDE3の方がPDE11より強いcAMP分解作用を有する」という事実を交えて裁判官に「PDE11と同時にPDE3を阻害しなければcAMPが増加することは無い」と錯覚させる誤誘導を図りました。
そして、平滑筋にPDE3が多く分布するという論文と、PDE3のほうがPDE11よりcAMPの分解速度が速いという難解な英語論文を提出して「錯覚させたことを、事実として裁判官の潜在意識に刷り込む」ために誤誘導サブリミナルを講じました。
ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素が細胞内伝達系の酵素であるということと、PDE3がPDE11の働きを補完することは無いということを知らない裁判官を錯覚させるための誤誘導でした。
4、自らの嘘が招いた誤誘導の破綻

PDE3がPDE11を機能的に補完するということを裁判官に印象付けるためと思いますが、イーライ・リリー社は第4準備書面において「だから、ホスホジエステラーゼ(PDE)ファミリーはアイソザイムというのである。」という嘘をついていました。
1、ファミリーとは進化上の共通祖先に由来するタンパク質をまとめたグループであり、構造上も機能上もよく似た遺伝子の一群ですがPDE1からPDE11の働きはそれぞれ違います。
2、アイソザイムとは酵素の活性がほぼ同じでありながら、タンパク質分子としては別種のものである(アミノ酸配列が異なる)酵素を言います。

「ファミリーとは遺伝子的な分類に基づく表現であり、アイソザイムとは機能的な酵素活性の相同性に基づく表現」です。
PDE11の機能をPDE3が補完するということを裁判官に強く印象付けるために、ホスホジエステラーゼ(PDE)ファミリーのことを、「アイソザイムである」とわざわざ強調したことがイーライ・リリー社の命取りになりました。
原告としては、ホスホジエステラーゼファミリーはPDE1からPDE11までお互いに機能を補完するということは無いということを裁判官に認識してもらうために、ホスホジエステラーゼ(PDE)は「ファミリーであるか、アイソザイムであるか」鑑定にかけると主張したところ
イーライ・リリー社は、突然、第7準備書面において、「ファミリーとアイソザイムは“機能を補完”するか否かによって区別される用語ではない。「すなわち、PDE1ないしPDE11は、特定のPDEが欠乏・減少した場合や特定の作用効果が減殺された場合に、他のPDEが代替え的に機能を補完するような関係にはない。」と明言しました。
このことは「PDE3はPDE11の機能を補完することは無い」という原告井手の主張と一致しました。
原告もイーライ・リリー社もPDE1からPDE11は機能を補完する関係にはないと認めたことにより、双方による事実の認定がなされ本裁判においては「PDE1からPDE11は機能を補完する関係には無い」ということは事実となりました。
イーライ・リリー社も「PDE1からPDE11は機能を補完する関係には無い」と明言したわけですから、タダラフィルによってPDE11が阻害されることに関してPDE3は機能を補完する関係には無いということがはっきりしました。
タダラフィルによってPDE11が阻害され→cAMPの増加が起こり→プロテインキナーゼAの活性化が起こり→「アクチンとミオシンの滑走阻止」が起こり→血管平滑筋の廃用性萎縮が起こるということと、PDE3は何の関係もないことをイーライ・リリー社は自ら認めることになりました。
5、イーライ・リリー社の第7準備書面
“血管平滑筋の廃用性萎縮とリストラ”という裁判において、誤誘導はホスホジエステラーゼ(PDE)の研究者と心理学の専門家、法律の専門家が仕掛けたものだったと思いますが、その後誤誘導サブリミナルも執拗に展開され、じつに巧みな誤誘導でした。
裁判の最終段階の第7準備書面において、イーライ・リリー社は誤誘導を白状した形になりましたが、このことが無ければイーライ・リリー社と日本新薬株式会社の裁判テクニックを明確に説明することは難しいことでした。

誤誘導されている裁判官に「あなたは誤誘導されています」と説明して理解してもらうことはなかなか困難でした。
「ホスホジエステラーゼ(PDE)という酵素は、細胞内情報伝達系の酵素であってタダラフィルによってPDE11が阻害されcAMPが増加するという細胞内の情報でPDE3が増加したcAMPを分解することは無い。イーライ・リリー社は細胞内と細胞外のことをごちゃまぜにしている。」と説明し、「PDE11にはPDE11の働きが有り、PDE3にはPDE3の働きが有って、PDE3がPDE11の機能を補完することは無い」と説明しましたが、イーライ・リリー社によって誤誘導されている裁判官には理解できないようでした。

しかし、イーライ・リリー社は第7準備書面において、「すなわち、PDE1ないしPDE11は、特定のPDEが欠乏・減少した場合や特定の作用効果が減殺された場合に、他のPDEが代替え的に機能を補完するような関係にはない。」自ら主張しました。
このことにより、「PDE11が阻害されてもPDE3が増加したcAMPを分解するので血管平滑筋の廃用性萎縮は起こらない」という話は裁判官を誤誘導するための「作り話」であったということが明確になりました。
「天網恢恢疎にして漏らさず」、イーライ・リリー社の第7準備書面は原告にとってまさに天祐でした。
イーライ・リリー社は、PDE11が発見されていない1995年にタダラフィルの「物質特許」を取得しています。
しかし、2000年にPDE11が発見されたときに、薬品メーカーとしてPDE11を阻害することの危険性を詳しく調べたはずです。
そして、イーライ・リリー社は8000人の研究者を擁する薬品メーカーです。タダラフィルがPDE11を阻害することの危険性に気付かないことはありません。
それにもかかわらず、言いがかり、嘘、目くらまし、すりかえ、詭弁、難癖、嘲笑という手段で裁判をかき回し、タダラフィルの副作用の隠蔽を図りました。
イーライ・リリー社と日本新薬株式会社との裁判は、言いがかり、嘘、目くらまし、すりかえ、詭弁、難癖、嘲笑との戦いでした。
イーライ・リリー社と日本新薬株式会社は裁判において誤誘導という手法をとったことで、かえってタダラフィルの副作用の隠蔽の実態をさらすことになりました。「人を呪わば穴二つ」、薬品メーカーとして副作用の隠蔽などは決して許されることではありません。

 

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