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Vol. 268 プロフェッショナル・オートノミー:日本医師会の情報操作と医療界のガラパゴス化(その2/5)

医療ガバナンス学会 (2010年8月23日 06:00)


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健保連 大阪中央病院 顧問 平岡 諦
2010年8月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


(その1)では「世界の常識」とその背景を見てきた。
本稿では、「世界の常識」の成立過程を見てみよう。

【1】医療倫理観の「世界の常識」の例;アメリカ医師会(AMA)の場合。

医療の考え方、すなわち医療倫理観についての「世界の常識」はどのようなものであろうか。その具体的な例として、日本医師会も参照しているという、アメリカ医師会の倫理綱領を以下に示す。

Principles of medical ethics.

I. A physician shall be dedicated to providing competent medical care, with compassion and respect for human dignity and rights.

II. A physician shall uphold the standards of professionalism, be honest in all professional interactions, and strive to report physicians deficient in character or competence, or engaging in fraud or deception, to appropriate entities.

III. A physician shall respect the law and also recognize a responsibility to seek changes in those requirements which are contrary to the best interests of the patient.

第一項は、医療倫理の第一は「患者の人権擁護」であると言っているのである。第二項は、医師による患者の人権侵害を擁護するためには医師間の相互評価による自浄機能(self-regulation)のシステムが重要であると言っているのである。第三項は、「時の権力」による患者の人権侵害を擁護するためには医師集団として「時の権力」から自律(autonomy)していること、それを宣言(profess)しているのである。アメリカ医師会の倫理綱領をこのように読まなければならない理由は、次に述べる世界の医療倫理観の成立過程を知ると明らかになる。

【2】医療倫理観の「世界の常識」の成立過程。

戦後の世界の医療倫理観は、ナチス政権下のホロコースト(組織的な大量虐殺)において多数の医師が犯した人権侵害への反省に始まる。第一の反省は、「時の権力」による人権侵害、そして医師による人権侵害が起こったことに対する反省である。そこから出てきたのが「患者の人権擁護」を医療倫理の第一とする考えである。第二の反省は、医療倫理の遵守を「個人の努力まかせ」にしていて起こった「医師による人権侵害」反省である。そこから出てきたのが「個人の努力だけでなく、システムで補完」しようという考えである。
医師集団にこれらの反省を促したのがご存じのニュルンベルク裁判であり、綱領である。その考えを受けて戦後の「世界の常識」を各国に広げてきたのが世界医師会である。世界医師会はその考えを宣言や綱領として発表してきた。

(1)「患者の人権擁護が医療倫理の第一」

「患者の人権擁護を医療倫理の第一」とすることを最初に示したのが、ジュネーブ宣言(1948年)の以下の部分である。
The health of my patient will be my first consideration.
I will not use my medical knowledge to violate human rights and civil liberties, even under threat.

ジュネーブ宣言につづいて採択されたWMA International Code of Medical Ethics(WMA医の国際倫理綱領、1949年)では次のように表現されている。
A physician shall respect a competent patient’s right to accept or refuse treatment.

有名なヘルシンキ宣言(1964年)では、人体実験において「患者の人権擁護」が第一であること、そしてリスボン宣言(「患者の権利宣言」、1981年)では擁護されるべき「患者の人権」の具体的な内容が示されたのである。

(2)professional autonomy

「時の権力」による患者の人権侵害を擁護するために、professional autonomyの重要さを最初に述べたのはやはりジュネーブ宣言(1948年)の次の部分である。

I will practice my profession with conscience and dignity.
I will not use my medical knowledge to violate human rights and civil liberties, even under threat.

ナチス政権下のように、たとえ「時の権力」の強迫があっても、professional autonomyを貫くことが「患者の人権擁護」のために不可欠であると言っているのである。このことは「患者の人権擁護」という医療倫理を遵守するために、個人としてはprofessional autonomyを貫くことが重要であると言っているのである。ここで注意すべきは、ジュネーブ宣言が医師になる時の各個人の宣誓文として書かれていることである。(3)という流れに逆らっているわけではない。のちにマドリッド宣言のところで述べる。

ジュネーブ宣言(1948年)に引き続き採択された、WMA International Code of Medical Ethics(WMA医の国際倫理綱領、1949年)には、つぎのように述べられている。

A physician shall always exercise his/her independent professional judgment and maintain the highest standards of professional conduct.
A physician shall be dedicated to providing competent medical service in full professional and moral independence, with compassion and respect for human dignity.

(3)self-regulation

医師による患者の人権侵害を擁護するために、すなわち医師による医療倫理違反を排除するために、self-regulationの重要さを最初に述べたのはWMA医の国際倫理綱領(1949年)の次の部分である。

A physician shall deal honestly with patients and colleagues, and report to the appropriate authorities those physicians who practice unethically or incompetently or who engage in fraud or deception.

(4)「個人の努力だけでなく、システムで補完」

1987年に採択された「Professional autonomy and self-regulation」に関するマドリッド宣言では、professional autonomyを医療倫理の本質的原則と捉え(以下に示した2.の部分)、さらにprofessional autonomyとself-regulationとがコインの裏表のように結び付いていることを示し(同、3.)、これらが「患者の人権擁護のためのシステム」であると捉え、各国の医師集団が集団内部にそのようなシステムを作ることを勧めたのである(同、4.)。

2. The WMA therefore re-dedicates itself to maintaining and assuring the continuation of professional autonomy in the care of patients, which is an essential principle of medical ethics.

3. As a corollary to the right of professional autonomy, the medical profession has a continuing responsibility to be self-regulating. In addition to any other source of regulation that may be applied to individual physicians, the medical profession itself must be responsible for regulating the professional conduct and activities of individual physicians.

4. The WMA urges physicians in each country to establish, maintain and actively participate in a system of self-regulation. It is this dedication to effective self-regulation that will ultimately assure professional autonomy in patient care decisions.

以上の流れを整理すると、まずジュネーブ宣言では「時の権力」からの「患者の人権侵害」を擁護するためにはprofessional autonomyが不可欠であることを述べている。WMA医の国際倫理綱領ではprofessional autonomyの重要さとともに、医師の倫理違反に対するself-regulationのシステムの重要性を述べている。そして、マドリッド宣言では professional autonomyと self-regulationがコインの表裏の関係にあり、「患者の人権擁護のためのシステム」であり、そのようなシステムを各国の医師集団が組織することを勧めているのである。「患者の人権擁護のためのシステム」とはすなわち「医療倫理の遵守のためのシステム」である。医療倫理の遵守を「個人の努力だけでなく、システムで補完」しようと言っているのである。

マドリッド宣言の勧めを各国は受け入れて、世界医師会の考え方が「世界の常識」となっているのである。その例が最初に述べたアメリカ医師会の倫理綱領である。

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