医療ガバナンス学会 (2022年2月14日 06:00)
兵庫県加古川市 渡辺歯科医院
院長 渡辺啓二
2022年2月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
そのときはやってきた
「ついに来た」
2020年4月7日、新型コロナウィルス感染症の拡大により東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都道府県に緊急事態宣言が発出された。
感染拡大の影響は間もなく、「田舎」にある当院にも訪れた。一日に何件も予約のキャンセルや延期の電話を受けるようになった。患者の間で、新型コロナウィルスの感染を恐れることによる受診控えが始まったのだ。また患者が診療中はマスクを着用できないため、スタッフ間では院内での感染リスクについて心配する声が聞こえ始めた。
さらに当院では一般診療に加えて、複数の高齢者施設への訪問診療も行っている。
そのため歯科医院や訪問先の高齢者施設、さらには自分たちの家庭にウィルスを持ち込まないよう、スタッフは戦々恐々としていた。
新型コロナウィルスが感染拡大するなか、「医療機関でクラスター発生」というニュースも報道されるようになり、先の見えない不安と得体のしれない恐怖と「どうすれば患者さんに安心して来院してもらえるだろうか」という思いが私の中を常に占領していた。
「紫外線装置ってどうかしら」
2020年の6月のある日、妻がインターネット上で見つけた記事の内容を知らせてくれた。
国内で新型コロナウィルスを不活性化させる紫外線照射装置Care222が開発され、アメリカの医療ジャーナル誌に掲載されたとのこと。人体に悪影響のない紫外線などあるはずがないと半信半疑であったが、すぐに装置を製造しているウシオ電機さんに問い合わせをした。翌日には営業担当の方が当院を訪れ、開発までの経緯や実験結果に熱心に説明してくれた。
波長の222nmの紫外線について詳しく説明を聞くうちに人体に悪影響を及ぼすことなく新型コロナウィルスなどの感染症対策として紫外線照射装置は有力な手段にはなるのではないかと大きな可能性を感じ、その場で装置の導入を決断した。
Care222は高さ2.5mの位置に設置した場合におよそ3.6㎡の広さに紫外線を照射可能とのことであり待合室に1台と6台あるすべての診療チェアーの上に設置するため計7台を先行予約し2020年10月には計画どおり7台各所に設置された。
その後NHKスペシャルで「AIに導き出された新型コロナウィルスの真実」でウシオ電機製造の紫外線照射装置Care222の222nmnの波長の紫外線は人体に悪影響を及ぼす230nm以上の波長をカットし、新型コロナウィルスを不活性化するのに効果があるとAIが導き出し、ボストン大学国立振興感染症研究所にて物体表面に付着した新型コロナウィルスの99%が6秒間で不活性化されたことが立証されたと紹介された。また新情報7daysニュースでもキャスターのビートたけしさんによりCare222が紹介された。その名が世に知られるようになったため、今では注文から設置まで時間がかかると聞いている。早期に導入できたことに安堵している。
2021年11月当時はワクチン接種率も向上し新型コロナウィルスとの付き合い方も随分世の中に浸透してきた。院内はこどもから高齢者まで幅広い患者さんで賑わっている。
早期にCare222を始め他の感染対策を施したこともあり、当院を訪れる患者さんの減少は最低限に止めることができた。まさに不幸中の幸いである。新規に受診される患者さんも増加傾向である。
当院を訪れた患者さんからCare222を指さし「この機械は何ですか?」と聞かれることがある。Care222を導入した理由や期待される効果について丁寧に説明すると患者さんは決まって安心して笑顔になる。そんな患者さんの笑顔を見ると心が弾む。時には聞かれてもいないのに患者さんにCare222の説明をすることがある。当院の感染症対策への取り組みをもっと多くの方々に知っていたきたく、院内の待合室には説明資料を掲示し、ホームページやインスタグラム等で随時情報発信するようにした。患者さんがスマホ等で待合室や診療室でCare222を撮影されている姿もよく見かけるので、患者さんの口コミでも評判が広がっているのかも知れない。
当院では感染症対策としてCare222導入前からあらゆる対策に取り組んできた。歯を削る際に強力な吸引力で削りカスやエアロゾル等の汚染物が飛び散らないようにセントラルバキュームシステムと、天井か除菌された空気を供給するエアロクリーンシステムを導入した。
院内の換気や消毒を定期的に行い、随所にプラズマ空気洗浄機を設置した。
スタッフはサージカルマスクに加えフェースシールドを装着、診療で使用するものは可能な限りディスポーザブルのものを使用している。受付窓口には飛沫感染や接触感染を防ぐためビニールのシールドを設置、診療所入り口には非接触の自動検温システムを設置した。
スタッフの日々の体温や体調等を記入する記録簿を作成し、スタッフ一人ひとりの健康管理も徹底した。さらにはユニットチェアーの間隔を保つため診療室を仕切っていた壁を撤去することで空間を確保し、各チェアーの間にはアルコール消毒が可能なパーテーションを設置した。
2020年10月にcare22が設置され院内感染対策が万全となって以降、私も含めスタッフ全員が安心して診療や治療に取り組めるようになった。スタッフから院内での感染リスクについて心配の声を聞くことはなくなった。まるで最後のパズルのピースが埋まったような感覚だ。この安心感を一人でも多くの方に体感して頂きたいと思う。
クリーンな環境で患者さんに診療、治療を受けて頂きたいとの想いから始めた当院での取り組みは結果的に患者さんだけではなくスタッフの安心にもつながった。
引き続き恵まれた環境で地域医療に貢献できることに心から感謝したい。
いま今年に入って瞬く間にオミクロン株が猛威を振るっているが、私はじめスタッフの全員が家庭内外での行動に細心の注意を払い、行動を律して感染を診療所に持ち込まない、また患者に感染させないことが我々医療に携わる者の責務であると心に銘記すべきである。
また医療逼迫、劣悪な環境でコロナに感染された患者さんの治療に命懸けで向き合われておられる医師や看護師さん、その他医療スタッフ方々に深く感謝し、また何かの機会にCare222が少しでも医療現場にお役に立てることがあることを心から願っております。
コロナ禍における当院で感染症対策への取り組みが本稿を読んでいただいた方に少しでも参考になればと願いつつ、最後にかって患者さんからいただいた私の座右の銘をご紹介して筆を置かせて頂きます。
「実ほど 頭を垂れる 名医かな」
ご拝読いただきありがとうございました。