医療ガバナンス学会 (2022年2月15日 06:00)
バイオニクス株式会社
須下幸三
2022年2月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2021年6月後半から第5波が始まり、政府の大号令の下、実に9割近くの国民が2回目のワクチン接種を終え、9月には感染状況がかなり改善されるに至りました。それに伴い一気に規制緩和が発動され、2回のワクチン接種を終えた大人たちは久しぶりの交遊の場を大いに楽しむという行動に走りました。偶然かどうか、それとも元々デザインされたものかはさておき、衆議院解散総選挙という一大国政選挙とも重なり、政権与党は経済回復を大きく前面に出し、絶対安定多数を維持するに至りました。
この規制緩和の真っ最中、当社は世の中の動きとは真逆の動きをしていました。色んな伝手を頼りに地方自治体の教育委員会を訪問し、第6波は子ども達を直撃すると説明に回っていたのです。その根拠は単純で、ワクチンは感染を防ぐものでなく、あくまでも重症化を回避し、死亡リスクを低減させるものであり、経済活動に従事し、夜遊び回った大人たちが軽症若しくは無症状で感染し、家に帰ってワクチンを打っていない子どもを直撃するというものでした。しかし、予想された事態とは言え、ほぼ誰にも耳を貸して頂けませんでした。我々の提言は感染が落ち着いている間に、受験シーズンや卒業式それに入学式等の人生の重要なイベントの多い、しかも感染リスクが高まる冬場に備えてスクリーニング検査体制を強化しませんか?というものでした。目的は一つです。クラスター発生を抑え込む為にです。残念ながら予想は的中してしまいました。そして今年に入り、驚異的な検査依頼数となり、ついには検査キットも枯渇する状態が続いております。
そんな危機的な状況の中、このPCR検査を通してもう一つのある真実が見えてきたのです。それはこの国の真の姿であるとも思えるのです。冒頭申し上げましたと通り当社は未就学児や小中学校から送られてくる検体を検査しています。この大量の検査を依頼される状況では結果を出すまでどうしても一定の時間を要します。それでも教育機関側は結果の報告をかなり急いでいる場合が多いのです。それは休園や休校、学級閉鎖などの判断が絡むということと同時に、その背後にある園児や児童のご家庭の事情があるのです。結果報告を急がれる理由として、保護者の方々は子ども達の健康上の心配とは別に検査結果が陽性ならば仕事を休まなければいけないという切実な実情があるのです。なかには、陽性の結果を陰性にしてもらえないかという懇請もありました。勿論仕事への責任感ということもありますが、経済的な理由も多分に含まれています。それは本当に切実な問題として園や学校に大きなプレッシャーとなり、そして我々の様な検査会社にも波及しています。
昨年末に国民への一律給付問題で国会が揺れに揺れました。確かに一時的なカンフル剤にはなったのかも知れません。しかし、国民にとっては毎日の生活がかかっており、それを継続的に支援出来るのは国だけだと私は考えます。学級閉鎖や休校により仕事に出られないご家庭に対し、例えば日給見合いの8割、せめて半額を支援してあげるだけでも保護者の心配は大きく低減出来るのではないでしょうか?特に様々な事情で父母のどちらかしかいないご家庭にはこの支援は必要不可欠ではないでしょうか?99%以上が中小企業で占められる我が国においては、公務員や大企業で勤務ししっかりとした福利厚生で守られている国民の割合はいかほどでしょうか?検査の充実とともに、陽性の結果仕事を休まなくてはならないひとり親家庭支援のことも同時に一体として政策を打ち出そうという政治家、官僚はいないのでしょうか。
今回の第6波が過ぎ去り、感染者が下火になった後は第7波への万全の備えが必要であると考える政治家、官僚はどれほどいるでしょうか?早期発見の為の検査体制の構築、早期治療の為の医療体制の構築、供給量のコントロールが効き易い国産経口薬の承認、等やるべきことは沢山あります。インフルエンザと同じ対応にするという協議を行うことも大切かも知れませんが、私は、変異株が出現する可能性が高く、その毒性が強弱のどちらに向かうのか、それが判明しない段階では、同時並行的に検査、医療、治療、の一貫体制をもっと高いレベルに引き上げる事はとても重要であると思っています。そして生活支援体制をもっと国民目線レベルで構築していくことは「国民の命と財産を守る」使命を持った政治家、官僚にとっては何よりも優先すべき課題だと考えます。
私はPCR検査という事業を通して、我国に欠けているもの、そしてそれが今の著しい政治と行政の劣化を表す一つの事実であること、それらを痛切に実感致しました。