医療ガバナンス学会 (2022年2月16日 06:00)
某保健所長
2022年2月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
「保健所主導から医療主導に変更すべき」と言われて久しいのに、とてもその方向性は見られない。むしろ、都道府県(以下県と略)の医療機関会議では、未だに国/県が「箸の上げ下げまで指示する」ままである。医療機関の方も、アビガン事件で指摘されたように何ヶ月も前の国の通知や事務連絡を守らなかったために糾弾されることを恐れてか、「病気は医療が」という本来の形に踏み切れない。会議では、医療現場では通常見られるはずの自主性や裁量が全く感じられず、ただ「お上に従う」といった受け身の非積極性が続いている。
一方、保健所はどうだろうか?オミクロン変異体の性質は既にわかっているのに、それに迅速に対応しようとする姿勢も見られない。オミクロン変異体の伝播性と病毒性は明らかなのにもかかわらず、まだ日本での確固たるエビデンスを集めなければ先に進めないという態度に固執している(エビデンスを固めてからでは遅過ぎる、フォン・クラウゼヴィッツの「戦場の霧」)。このオミクロン変異体の非常に高い伝播性では、今まで保健所がやってきた積極的疫学調査やクラスター対策は意味をなさないことは明白なのに、漫然とそれを続けさせようとする。一方積極的疫学調査やクラスター対策の元となる検査体制はいつまで経っても貧弱なまま。実際、保健所主導の対策は破綻し、全く対応できていない(今の保健所破綻の現実が確固としたエビデンス、皮肉にも)。保健所機能の強化と言われたが、信じられないことに国も具体像がなく、保健所に本庁から事務職員を派遣して取り繕う単なる頭数応援のみ!保健所が自宅・ホテル療養、入院のトリアージを行う、健康観察も行うという発想から抜け出せていないから先に進めない(注1)。
方向性のキモは予防接種と経口抗ウイルス薬?しかし、3回目の追加接種は必要なのにもかかわらず、遅々として進んでいない。保健所職員の優先接種も考えていない県(私の県)もあり、これが3回目の追加接種が進まないことを象徴している。この信じ難い県の方向性、一方では保健所主導を主張しながら、一方では、それと真逆なことを平気でやる。保健所職員やその家族に感染者が出た場合はどうするつもりか?遠方から公共交通機関を使って通勤する保健所職員に毎日検査?また、経口抗ウイルス薬も圧倒的に量が不足しており、抗インフルエンザ薬のように気軽に使える状況には程遠い。まあ、量が充足しても今の検査体制では?(注2)。
「何処に向かうのか」をはっきり国は示すべきた。高い伝播性と低い病毒性に合った方向性!このままでは全てが中途半端!社会機能不全も著しい。
基本は、保健所主導から医療主導に変更、いつまでも、保健所主導でいいはずがない。そのことを主軸にしてオミクロン変異体の特徴を考慮すれば、自ずから方向性と判断が出てくるのでは?重症者対策、いや、いかに重症化させないようにするか(どう予測し拾い上げるかと重症化予防の追加接種)、COVID-19自体は軽症(もしくは非感染)でも本来の持病で全身状態が悪化する患者にどう対処するのか、、、これこそ、国や県がPDCAサイクルをどんどん回して、先を読んで迅速に判断をすることが求められていることだ、もちろん経済を含めた社会機能の維持も。時間をいたずらに浪費してはいけない、常套文句である「スピード感を持って!」(注3)。
注1:保健所の来年度の組織内示が出たが、人員は増えない!案の定、専門職の増員を中心とした保健所の本質的な強化は無し!おそらく本庁には保健所の役割、公衆衛生の重要性がわかっている人間がいないのだろう、パンデミックを経験しても、、、
注2:今の医療機関の非積極性、全く不十分な検査体制、進まない追加接種、行き渡るには程遠い経口抗ウイルス薬の状況下、基礎疾患のない若めの世代を中心に予防接種の有無を確認せずに保健所の対策をすぐにやめてしまうのはリスクが大き過ぎる。やはり、子どもや若い世代から高齢者への感染、高齢者施設にウイルスが入り込むと重症・死亡例が増えるだろう、追加接種もまだなので。
注3:このような感染症のパンデミックでは、変異体が出現し流行するたびに、新しいウイルスとしての対策が求められる。COVID-19では、どの変異体も潜伏期や無症状病原体保有者でも感染性があり、保健所の積極的疫学調査やクラスター対策で完全に制圧できる疾患ではない。それこそ、日本版CDCを創設し対応の舵取りをすべきではないか!いや米国のCDCよりもより進んだ組織、最前線の保健所や医療現場(医療機関の非積極性を述べたが、それでも熱心な先生、ないとかしなければと思っている医師は少なくない)の状況や意見を吸い上げて迅速に対応できる組織、首相が以前提唱した危機管理庁ではないか?
県も本庁には医療の専門家も公衆衛生の専門家もいない貧弱な体制で、事務職員等の主導で、県下同一の対応を錦の御旗にして、上意下達する旧態然としたやり方。これは戦時には向いておらず(実は平時にも向いていない)、根本から改めなければならない。そう、このパンデミックは今までの体制を刷新しなければならないことを教えてくれている。