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Vol.22041 製薬マネー調査の現状と展望

医療ガバナンス学会 (2022年2月17日 06:00)


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この原稿は医薬経済2021年1月15日号からの転載です。

医療ガバナンス研究所、ときわ会常磐病院
尾崎章彦

2022年2月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

21年は、医療ガバナンス研究所の製薬マネー調査チームにとって、飛躍の1年だった。最大の進歩は、製薬マネーが臨床現場に与えている影響を明らかにするための方法論を確立したことだ。17年に製薬マネー調査を開始して以来、筆者らは合計で34本の論文を発表してきた。そして、その大部分は、指導的地位にある医療者の謝金や寄付金の受け取りの多寡を主たる評価項目として実施してきたものだ。

例えば、日本の主要医学学会19の理事が16年に受け取った謝金を調べ、『米国医師会雑誌内科版』に19年に掲載された論文では、405人の学会理事のうち86.9%に当たる352人が製薬企業からの謝金を受け取っており、その中央値が84万円だったことを明らかにした。この調査が有力な医学雑誌に掲載されたことからも、医療界にとって金銭的利益相反の主たるソースである製薬企業との金銭関係を調べることが、学術的に重要と見做されていることがわかる。

一方で、過去、医療者が受け取った製薬マネーが、臨床現場にどのように影響を及ぼしているかまでは評価できずにいた。このような観点から広く世界で実施されているのは、製薬マネーの受け取りと処方の関連を調べることだ。米国においては、この2つのデータが医療者レベルで公開されており、それらを突合することで、関連性を明らかにする調査が数多く発表されている。

例えば、最も有名な調査は、製薬企業が主催し、医師を対象とした講演会・勉強会において、2000円程度の飲食のもてなしを受けることが、そのようなイベントを主催した製薬企業が販売する抗コレステロール薬や降圧薬の処方増に関連することを示し、16年に『米国医師会雑誌内科版』に掲載されたものである。しかし、日本では医師レベルの処方データが公開されておらず、同様のデザインで調査を実施することが難しかった。

ではどうするか。筆者らが注目したのが、診療ガイドラインだ。診療ガイドラインは、ある疾病に 関する診断や治療について最新のエビデンスを要約し、現時点での推奨を示したもので、広く診療現場で利用されている。その著者が受け取った謝金は、診療ガイドラインの内容に影響する可能性があり、我われのチームも、数多く調査を実施してきた。

そして、21年には、謝金のみならず、そのエビデンスレベルや推奨の内容にまで踏み込んだ調査を初めて実施した。16年度版と20年度版の「鼻アレルギーガイドライン」を調査した論文では、製薬マネーのみならず、引用された文献の質や実際の推奨についても分析した。

その結果、診療ガイドラインの著者が、診療ガイドラインに引用された文献の著者として名前を連ねているケースは、16年度版では47.6%、20年度版においては27.9%と非常に高かった。また、引用された大部分は日本語の文献であり、全体として適切な文献が引用されているか疑わしかった。

さらに、「推奨」のすべてが、基本的には 剤の使用を勧める方向で執筆されており、他の海外のガイドラインにおいては掲載されていないロイコトリエン阻害剤の使用も推奨されていた。そして、27人の著者のうち96.3%に当たる26人が、製薬企業から16〜17年にかけて何らかの謝金を受け取っており、その中央値は約200万円だった。

ここまで調べれば、これらの診療ガイドラインが客観的な基準に基づいて公平につくられているのか議論の余地があることが伝わるだろう。

このように、筆者らは製薬マネーをアウトカムそのものではなく、アウトカムに影響を与える因子として捉えることで、より臨床的に意義あるかたちで製薬マネー調査を発展していけると考えている。

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