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vol 11 「米国南カリフォルニア大学留学体験記その5」

医療ガバナンス学会 (2006年6月10日 09:31)


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2006年6月10日発行
~米国南カリフォルニア大学留学体験記その5~
南カリフォルニア大学に学んで(
日本で翻訳出版したいヘルスコミュニケーション書籍の紹介)
別府文隆
南カリフォルニア大学(USC)
医学部附属健康増進・疾病予防学際研究所(IPR)客員研究員
ならびにHollywood, Health & Societyリサーチインターン

はじめに
初回の予告で触れましたように、今回は日本で翻訳出版する価値があると筆者が信じるヘルスコミュニケーション関連書籍(教科書その他)を紹介したいと思います。これらの書籍が伝えるのは、コミュニケーションに関する情報ですから、日本人にとっては英語原文ではなく日本語で読むことに大きな意味があると感じています。
1.背景と翻訳に対する筆者の思い

マスメディアを活用したヘルスコミュニケーション関連の書籍や大学院レベルの教育に使える日本語の教科書は日本にはほぼありません。九州大学出版会から信友浩一・萩原明人両先生の翻訳によって出版されている「ヘルスコミュニケーション これからの医療者の必須技術」(原著名HEALTH COMMUNICATION :Strategies for Health Professional,ノートハウス,ピーター・ノートハウス,ローレル・L.著)は米国でも定評のある大変良い教科書ですが、医療場面におけるinterpersonal(医療者-患者関係など、直接の人と人の)コミュニケーションに特化した内容です。メディアやコミュニティーレベルのコミュニケーション・デザインに関する記述は希薄なので、そういう意味では米国で発展しつつあるヘルスコミュニケーション研究/実践の「半分」しかこの本では扱っていないことになります。

米国で学び、教科書や参考文献の膨大な量に驚くと共に、 日本でどうしてこういう取り組みが大学(または民間)の人間の視点で書籍になっていないのか不思議に思って来ました。単にマーケットが無いから、というだけでは無い気がします。メッセージデザインやマーケティングのノウハウはある程度製薬企業・広告代理店業界・大学・公官庁等に蓄積しているはずです。製薬・広告代理店業界の体質の問題なのか、大学や公官庁側の問題なのか原因はわかりませんが、私自身は以下に紹介する書籍を是非1冊でも多く翻訳して出版したいと考えています。
2.現在までの経緯

日ごろお付き合いのある医薬系出版社の方々にアドバイスを求めると、複数の出版社の方々が異口同音に「ビジネスとしての難しさ」「日本でのマーケットの無さ」を挙げられます。日本の医薬系出版業界の保守的にならざるを得ない厳しい現状も、これらの指摘も、以下の書籍で紹介されているノウハウがそのまま日本で通用しないかもしれないこともよくわかりますが、オリジナルで作り上げるよりも低コストで一定の質をもった情報源を普及させることができます(日本の現状を反映させたオリジナル記事や脚注を追加してもいいでしょう)。ヘルスコミュニケーション分野のノウハウの日本での活用可能性を探索するためには、まず取り組むべき作業と思っています。

それに「日本でマーケットが無い」、といっても実は潜在的な読者やニーズを持った方は結構いるのではないでしょうか?患者団体・予防医学・公衆衛生・医療関係者のみならず、公官庁などpolicy makerの方や保健行政の方、製薬企業の方や広告代理店の方、いかがでしょうか?これらの教科書は理念よりも実践を重視した内容になっており、業務や実際のプロジェクトに活用できるようになっているものばかりです。

出版社側の懸念する初期リスクを抑えるためには、資金調達をするしかありません。この1年ほど各方面の方に相談に乗っていただき自分なりに努力しているのですが、難航しております。NPOや公的な事業の支援をしている団体などからの出版支援という方法や、出版ファンドの活用も模索しておりますが、ブレークスルーは得られておりません。というわけで、MRIC読者の方々の中で、以下に紹介する書籍の日本での翻訳出版事業に興味を持ってくださる方がいらっしゃれば、ご一報頂ければ幸いです(e-mail: fbeppu-tky@umin.net)。
3.書籍紹介

①Handbook of Health Communication, T.L.Thompson, A.M.Dorsey,K.I.Miller, R.Parrott(編) (Lawrence Erlbaum Associates Publishers 2003)

700ページほどの大きく分厚い本で、今回紹介する中で最も体系的網羅的な教科書です。筆者はこの分野でトップの人ばかりです。以前NACSISで検索したら日本の大学の図書館には全国で11図書館にしか置いてありませんでした。そのうち医学・看護・保健系の図書館は沖縄県立看護大・関西福祉大学・新潟県立看護大の3つのみ。とても勿体無く感じます(日本語の翻訳本が出たら所蔵図書館の数
と分布がどう変化するか非常に興味があります)。

②Public Communication Campaigns (third edition), R.E.Rice, C.K.Atkin(Sage Publications, Inc, 2001)

公的キャンペーンの背景理論から設計・評価方法、実践事例まで詳細に書かれた教科書です。事例はほとんど医療健康関連なのでヘルスコミュニケーションの教科書としても活用できます。上のHandbook of Health Communicationに比べるとコンパクトで400ページ程度です。版を重ねるごとに各章を担当している著者が入れ替わっており、USCの講義では第2版も重視され、章によってはよく講義で
使われています。

③News for a Change: An Advocate’s Guide to Working With the Media, Wallack,L., et al. (Sage Publications, Inc 1999)

Cruzの講義でもっとも重要な教科書の一つでした。150ページ程度と非常に薄い本ですが、Media advocacyのバイブルとされています。Media advocacyはこの原稿の初回にもご紹介したヘルスコミュニケーション研究/事業の重要な支柱の一つです。ヘルスコミュニケーションに興味のある学生・研究者・行政・医療関係者だけでなく、メディアに興味のある人・患者団体のような市民活動や社会的なPR活動をしている方も、ジャンルに関わらず読んで損はない本です。ガイドブックのような平易な言葉遣い、豊富な事例(実体験)、 実践的なHow toなどで構成されています。薄いので翻訳作業の敷居(コスト)も低いでしょう。
Media advocacyの概念は重要なので初回に続き、今回も重ねて紹介しておきます。「Media Advocacyとは、医療健康福祉に関連した公共政策を改善するために、自治体や団体レベルの活動と連動したマスメディアの戦略的な活用のことである。 第一の目標はニュースメディアを動かすことであり、第二の目標は自費の広告媒体を効果的に活用することである。」と定義されています(本書より引用)。また前述したPublic Communication Campaignsでは、「メディア・アドボカシーは、社会のあり様を改善するために必要な「声」の量と質を向上させることを目指している。公衆衛生の観点から社会的に正しいと信じられる価値を社会に向けて共鳴させるために、その「声」をどのように設計するかを注意深く検討することでもある。」とも記述されています。

④Hands-on Social Marketing, A Step-by-Step Guide, Weinreich N.K.,(Sage Publications, Inc 1999)

ソーシャル・マーケティングもこの連載の初回に紹介しました。前述したメディア・アドボカシーと並んだヘルスコミュニケーション研究・活動の基本2大ツールの一つです。定義を見てみると、「ソーシャル・マーケティングとは企業マーケティングのテクニックを、対象である一般市民や社会全体に、それぞれの健康度や快適な暮らしを促進する行動(生活)習慣を広めるために活用することである」と表現されています。 さらに、「自分たちの問題解決のため、目標達成のためにメディアをどう活用できるのか、という戦略を練るために、まずメディア情報の内容分析を行います」という記述もあります。「その内容分析は『メディアを 批判するため』ではなく、どのメディアにどうアプローチすれば有効にメディアを活用できるのか、という情報を吟味し慎重に準備する際の重要な基礎資料として活用することが重要です」などの部分は筆者が非常に感銘を受けた部分で、前述したmedia advocacyとも重複する重要な考え方です。
⑤Making Health Communication Programs Works. – A Planner’s Guide -. ,National Cancer Institute

米国がん研究所が出している医療機関がヘルスコミュニケーション活動を行う際のデザイン・実践・評価のためのマニュアル本です。非常によく出来た本で、病院内・病院広報・県市町村レベルのヘルスコミュニケーション活動の支援に活用できます。ピンク色の特徴的な装丁なので、通称Pinkbookと呼ばれています。著作権が放棄されており、希望者に何冊でも無料で配布されています(太っ腹ですね)。http://www.cancer.gov/pinkbookで本文を読むこともできるし、PDFを無料で入手することも出来ます。

https://cissecure.nci.nih.gov/ncipubs/details.asp?pid=209から申し込むと送料無料で印刷した書籍を一人何冊でも送ってもらえます。関係者に聞くと翻訳に当たっても翻訳権を取得する必要がないらしいので、翻訳コストも他の書籍に比べて低いと思います。(がん治療領域の先生方、いかがでしょうか?)分量は200ページ程度です。

⑥Designing Health Messages, E.Maibach, R.L.Parrott(編)(SagePublications, Inc, 1995)

メディアキャンペーンを含め、医療健康に関するメッセージ開発の方法論に特化した興味深い本です。遺伝子組み換え食品その他、ヘルスコミュニケーションだけでなく、その基礎にある科学コミュニケーションの視点からも実践的テキストとして活用できます。背景理論の概論や具体的な各論があり、分量は270ページ程度です。前述した3冊に比べて小さくてコンパクトです。
⑦Designing Health Communication Campaigns: What Works?, T.Backer,E.M.Rogers, R. Sopory(著)(Sage Publications, Inc, 1992)

本文170ページ程度と薄く少し古い本ですが、内容は濃いです。 メディアキャンペーンやヘルスコミュニケーションの研究者や実践者を対象としたインタビュー集をメインに、著者らの「どうやれば効果的で効率の良いキャンペーンができるか?」 という問いを追求した本となっています。ヘルスコミュニケーション領域の著名な研究者や今回の原稿で紹介している書籍のほとんどの著者にインタビューしています。入門書やサブテキストとして有用です。
⑧Health Writer’s Handbook, Barbara Gastel(Iowa State Press1998)

米国における医療健康業界のライター(コミュニケーター:ジャーナリスト・ライター・広報担当者含む)のバイブルと呼ばれている本です。基礎的なことから職業訓練場の情報まで実践的な情報を網羅しています。
⑨Evaluating Health Promotion Programs, Thomas W. Valente(Oxford university press 2002)

予防医学や健康啓発のためのプログラム(メディア展開も含めて)の設計・評価方法に特化した教科書。著者は筆者が今最もお世話になっている先生のひとりTom Valente。USCの助教授ですが公衆衛生学専攻(USCは米国では珍しく独立した公衆衛生大学院ではありません)の専攻長で、40代で若手ですがこの分野では第一人者の有名人です。John’s Hopkins大学にいたころに、発展途上国での家族計画・エイズ予防普及などのプログラムでキャリアを積みました。この本はそのころの講義をもとに執筆され、現在も彼の講義で教科書として活用されています。Solomon Four Group をはじめ、メディアキャンペーンの効果を評価するうえで必須の研究デザインが実事例のデータと合わせて実践的に詳しく紹介されています。評価方法について悩んでいる院生・研究者の方には参考になると思います。Valenteは自身のウェブサイトでリソースを公開しています。
<a href=”http://www-hsc.usc.edu/~tvalente/”>http://www-hsc.usc.edu/~tvalente/</a>
英語の書評はこちら。
<a href=”http://jech.bmjjournals.com/cgi/reprint/57/8/639-a”>http://jech.bmjjournals.com/cgi/reprint/57/8/639-a</a>
Entertainment Educationについて

テレビドラマを使って一般市民に重要な医療健康情報を 普及させる手法の一つがEntertainment Educationです。トピックは医療健康に限定されないのですが、ヘルスコミュニケーション上も重要な学際的な方法論であり、こういう体系や方法論自体が日本により紹介されるべきと思います。発展途上国における清潔観念や感染予防など新規の概念・生活習慣を導入する際に大いに役立っている方
法論です。
⑩Entertainment-Education, A.Singhal, E.M.Rogers(Lawrence Erlbaum Associates Publishers 1999)

Entertainment Educationに関する最初の体系的な教科書です。この分野では必須の書といえでしょう。故Rogersはイノベーション普及学(Diffusion of Innovation)を創設した有名人で、HH&S主催のSentinel for Health Awards(優れた医療ドラマ・エピソードに贈られる賞)でも彼の名前を冠した賞があります。
日本ではRogers自身の知名度は今ひとつな印象ですが、このDiffusion of Innovationをもとにしたビジネス理論が多々発展し、ビジネス書でも引用され「イノベーション」は一般的な語彙になっていますね。(日本語翻訳の「イノベーション普及学」は絶版になっていて図書館等で借りるか中古で見つける必要があります。原著はRogersが亡くなる直前まで改定され、第5版まで出ています。)このイノベーション普及学の観点を活用して、テレビドラマ、ラジオをいかに設計して放送し、一般市民への望ましい知識普及や行動変容の促進に活用するか、という具体的な実際のケースレポートと方法論が理論的背景も合わせて記載されています。
⑪Entertainment-Education and Social Change, A.Singhal, M.J.Cody, E.M.Rogers, M.Sabido
(Lawrence Erlbaum Associates Publishers 2004)

前掲書の発展版で、内容は前掲書に似たスタイルなのですが、中身は最新のメジャーなドラマや映画も取り上げられています。Codyも私がお世話になっている先生の一人で、テレビドラマ業界にも影響力の強いUSCコミュニケーション学科の教授です。彼の講義も聴講しました。刺激的でかなり面白い本です。これもUSCのヘルスコミュニケーション専攻で教科書になっています。
4.まとめに代えて

今回、計11冊の書籍を紹介しました。ページ数も内容の難易度もそれぞれですが、全てが実践的な書であり専門書でありながら、マスメディアとの共同事業や現実のキャンペーン設計やその他のヘルスコミュニケーションプログラムのデザイン/評価に活用できるものばかりです。米国におけるヘルスコミュニケーションは実践志向の学問分野(実際に機能して初めて意味を持つ方法論)なので、この点は教科書や関連書籍にも明確に表現されています。

以上の書籍は、組織化や実践活動のノウハウも含めて、文化背景の異なる日本でも十分に参考になる質の良い書籍だと思います。何よりもコミュニケーションに関する内容は補足説明とともに日本語で読むことが重要です。むこうの事情や文化的背景を抜きに英語原文で読むだけでは、表層的な理解で終わってしまう可能性が高いからです。

「日本語なら読むけどなあ」という読者のために、筆者としてもあきらめずに日本での翻訳出版の実現に向けて精進したいと思います。

重ねて申し上げますが、MRIC読者の方々の中で、以上の書籍の日本での翻訳出版事業に興味を持ってくださる方、筆者の取り組みにご賛同いただける方がいらっしゃれば、是非ご一報ください(e-mail: fbeppu-tky@umin.net)。

次回はヘルスコミュニケーションツールの1つとして筆者が期待しているシリアスゲームについて紹介します。

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