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Vol.22044 最新版保健行政の在り方

医療ガバナンス学会 (2022年2月22日 06:00)


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保健師(匿名)

2022年2月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今年に入って、オミクロン株が、急速に拡大している。世間は、オミクロン株を非常におそれ、強い規制を求めつつある。毎朝のニュースでは、感染したらすぐにオミクロン株だと確定したように報道しているが、実際は、自治体によりゲノム解析の対応及び確定するスピードは異なる。

東京都では第5波までは都内保健所で採取した検体のみを東京都健康安全研究センターや国立感染研究所でゲノム解析を行っていた。令和3年12月に民間の検査会社にゲノム解析を受託し、医療機関で採取した検体のうちCt値30未満のものをゲノム解析するようになり自治体の中でも東京都は迅速に判定しているほうであろう。多くの自治体ではPCR検査を行った検体がL452R変異株(デルタ株)に当てはまるかスクリーニングを行い、L452R変異株に当てはまらない物のうち、いくつかの検体をサンプリングして衛生研究所等で検査を行っている(サンプリング数は自治体により異なる)。したがって、陽性者全ての検体をゲノム解析しているわけではない。

現状ではオミクロン株感染者で重症化するケースはほぼまれであるといえる。従って、オミクロン株に感染していたと判明する頃には、寛解し、患者は療養終了となっていることが多い。一方で、オミクロン株は感染速度が従来のものよりも格段に早い。以上のことを踏まえれば、オミクロン株に対する疫学調査は非常に無意味なものであり、保健所業務をただただ圧迫するものである。
実際、首都圏の保健所では、すでに疫学調査が手に負えなくなり、感染拡大の地域では調査を行っていないところがある。

しかし、保健所の業務が逼迫し出したのは、今に始まったことではない。令和2年10月、コロナの感染拡大に伴い、保健所のコロナ対応は逼迫し始めていた。その頃、いくつかの都道府県では、管轄内の市町村と地域連携協定し、管轄内の市町村保健師が保健所に応援職員として派遣された。私も派遣職員として保健所で疫学調査等コロナ対応を行った。
市町村での経験を踏まえ保健所業務を行って感じたことは、現状の仕組みでは、非常に無駄が多く、これらを改善して迅速な対応と住民サービスの効率化を図ることが必要だということだ。そのためにどうしたら良いか。本文では、一保健師の視点から今後の保健所業務の在り方について、今回のコロナ対応を交えながら述べたいと思う。

まずは、現在の保健所の役割について簡単に確認しよう。1937年(S12年)保健所法が制定され、「国民の健康指導と体力向上」のために保健所が設置された。その後、1947年(S22年)、戦後GHQの介入により保健所法が全面改訂され、地方庁に衛生部が設置された。その際、警察が担っていた食品衛生と急性感染症予防業務は保健所に移管された。現在の保健所業務を大まかにいうと(1)医療・医薬品、(2)感染症、(3)難病、(4)精神保健福祉、(5)食品衛星、食中毒の検査、(6)環境衛生、(7)生活衛生である。

保健所は地域保健法に基づき都道府県や政令指定都市や特別区に設置されており、保健医療や公衆衛生の役割を担っている。また、感染症法では、法定感染症が発生した場合、医師は保健所に届出をする決まりになっており、今回のコロナ対応も当然のごとく保健所が行い、患者の病状、濃厚接触者の確認、入院調整等、全て保健所が行った。
しかし、今回のコロナ対応でこれまでの保健所システムの限界が露呈してしまった。

今回のコロナ対応で感じた問題点は二つである。一つは、都道府県単位の保健所は地域情報を持っておらず、立ち位置が非常に中途半端であるということだ。
今回のコロナ対応を例にとって考えてみよう。PCR検査で陽性が判明すると、医師から保健所にHEY-SESを用いて患者発生届が送付される(FAXで報告する医師もいるが)。
発生届は職員に割り振られ、各担当が患者に電話し、状況(体調)及び濃厚接触者の特定を行う。職員は陽性者に電話をし、発症2日前~発症日~陽性確定日までの行動調査、職業、職場の環境状況、職場の住所地と連絡先、本人の身長、体重、家族構成を聞き取って内容を一人につき一枚ずつ手書きで所定の用紙に記入する。その後、医療機関に連絡し濃厚接触者の検査の調整を行ったり、自宅療養とするか、ホテル隔離、または入院とするかの検討を行うが、この事務的手続きでさえ、都道府県と市町村で、大きな差が生じてしまう。これが如実に現れた一例を紹介しよう。

PCR検査で陽性と判定されたAさん(45才)は、同居家族5人が濃厚接触者となったため、家族はPCR検査を行うこととなった。
現状での対応は以下のようになる。

電話のやり取りは「ご家族の名前を教えて下さい?はなこさんですね。漢字はどういう字ですか?”はな〟は中華の華ですね?”こ〟は子供の子ですね?」(便宜上Aさんの配偶者の名前を華子(はなこ)とした。)という具合だ。同居家族の名前を全て電話で確認するため、家族の名前の漢字の確認が非常に煩雑な作業となり、職員、陽性者共に疲労困憊してしまう。さらに最初に調査を受け持った担当は本庁にAさんのことを報告するため、先ほど手書きで書いた書類を元にパソコンにAさんの情報を入力し本庁に送信する。発生届受理から本庁へ送信する報告書作成までに30分以上はかかる。Aさんは家族以外に濃厚接触者がいなかったので家族のみの調査で終わったが、家族以外の濃厚接触者(Bさんとする)がいた場合、さらに追加で、Aさんと同様にBさんの情報、Bさんの家族構成の聞き取りを行う。濃厚接触者が多ければ芋づる式に電話連絡する人数が増えていく。家族以外の濃厚接触者がいた場合、調査報告に半日はかかることもある。

一方で、仮に市町村が行えたとしよう。市町村には「住民基本台帳」がある。これは住民サービスに必要な情報が入力されており、これを使用することで税務、保健福祉、生活衛生などの行政を速やかに行うことができる。Aさんの発生届を受理後、氏名、生年月日をもとに「住民基本台帳」にて、家族の構成・氏名・氏名の漢字・生年月日がすぐにわかる。また、Aさんは国民健康保険加入で特定健診を受けていたので肥満度や血糖値もわかり、隠れ糖尿病の把握も可能だ。不毛な電話のやり取りをする必要は全くない。これでかなり調査の時間を短縮ができると共に重症化リスクも把握できる。さらに今後、マイナンバーカードと健康保険証やワクチン接種履歴が紐づけされた場合、より効率化が図れることは明確だ。

感染者の少ない地域では疫学調査を継続的に行っているところもあるが、拡大した地域では、疫学調査が追い付かず、ある自治体では第5波の頃から疫学調査を大幅に縮小した。すなわち、濃厚接触者は家族のみとし、友人や同僚に対しては疫学調査を行わない自治体もあった。オミクロン株が拡がりつつある今、患者から濃厚接触者に該当する人に連絡してもらい、行政検査も自己申請になるなど、さらに検査を縮小しているところもあり、自治体ごとの対応はバラバラだ。このような場当たり的な対応を改善し、効率的、かつ迅速に調査を行うためには住民生活に身近な市町村レベルで対応することが必要だ。

もう一つの問題点は、感染した患者の処遇を全て保健所が行ったことで、患者への対応が遅れ、自宅待機時間が増えて患者の病状をさらに悪化させてしまったことだ。

第4波までは検査で陽性が確定すると自宅療養、ホテル療養、入院のうちどれにするかを医療機関から送られてきた発生届に記載されている医師の意見と、患者への聞き取りを元に保健所が検討する。ホテル療養と入院の場合は本庁に連絡し、本庁の入院調整担当課が県内の受け入れ施設を調整する。入院が必要な病状であっても調整がつくまで、患者は自宅待機を余儀なくされる。
保健所は自宅療養中の患者とPCR検査陰性で濃厚接触者になった人に対して、健康観察を行う。これは保健所から一日一回電話で状態を確認する。当初はアプリを使用し、患者に体温や体調を入力してもらっていたが、アプリでは患者の具体的な様子がわかりづらいため電話に戻した。
都道府県の保健所は一保健所に対し複数の市町村を所管しているため、これらの市町村の健康観察を一つの保健所が行う。私が出向した保健所は臨時採用した4~5名の看護師が陽性者の健康観察を、本庁から補助要員で来た事務職員3~4名が濃厚接触者の健康観察を行っていた。濃厚接触者の場合、メールでの報告でも可能としたため、電話とメールチェックで健康観察を行った。

その後感染者が増えるにつれ保健所機能のキャパシティを超えてしまい、濃厚接触者の健康観察は中止した。第5波から各自治体は、保健所以外で健康観察をする場所を設置した。例えば、東京都は「自宅療養フォローアップセンター」を、神奈川県は「神奈川療養サポート窓口」を、埼玉県は「宿泊自宅療養者支援センター」を設置した。東京都と神奈川県はLINEで、埼玉県は電話での健康観察を行っていた。
ここで2つのケースを紹介したい。

ひとつ目のケースは、自宅療養をしていたCさん(呼吸苦(+)、SpO₂91%)だ。Cさんは、咳嗽増加、倦怠感増強のため、健康観察を行う窓口に連絡したところ、住所管轄の保健所に連絡するように言われた。教えられた保健所に電話したがなかなか繋がらず、やっと保健所に繋がったところ、入院の空きがないため、自宅療養を継続するように言われた。状態が改善しないため救急車を呼び、救急車が自宅に来てくれたが、受け入れ先が見つからず救急車が出発できなかった。1時間近く経過した頃、やっと受け入れ先が見つかり、病院に救急搬送された。このようなケースは感染拡大地域の至るところで発生した。

もうひとつの例も、自宅療養をしていたDさんだ。Dさんは、自宅療養中に呼吸苦が出現したため保健所に電話をした。しかしなかなか繋がらず。ようやく繋がったため症状を伝えたところ、「診察できる病院を探して折り返し電話をします」と保健所職員にいわれて電話を切った。その後保健所から電話は来ず、体調が悪化したため、往診してくれる医師をネットで見つけ、往診してもらい入院に至った。その後、保健所から「なぜ、保健所に連絡なく医療を受けたのか?」と咎められたとのこと。

こうした例は、機能不全の保健所が実権を持った結果だ。このように患者が早期に医療にアクセスできる状況ができていないにもかかわらず、サポートセンター等の整備を整えても無駄なだけだ。地域住民の生活から遠い都道府県レベルで、自宅療養者の健康をサポートするのは無理があり、もはやそのキャパシティには限界があるのが、はっきりとわかる。

この問題も市町村が行うことで解決できる。各市町村が行えば受け持つ患者が細分化されるため、きめ細かい対応ができると共に職員一人割り当てられる患者の数も少ないため職員の負担も軽減できる。また、市町村は健診等で、地元の医師会に協力依頼することが多々あり、常に医師会と連絡調整を行っている。地元の開業医の情報も理解しており、医師との距離が近く連携もとりやすい。この距離の近さはコロナ対応でも生かすことができる。

具体的には次の通りだ。

PCR検査で陽性が判明した場合、検査した医師が処遇を検討する。医師が入院必要と判断した場合、ICTを活用して医師から都道府県庁に直接連絡し、保健所が介入することなく、都道府県庁が入院調整を行う。自宅療養の場合は市町村対応とし健康観察を行う。あらかじめ市町村内を地区分割して各地区ごとに受け持ち当番医を決めておき、健康観察の際、体調悪化を確認した場合は、市町村保健師から各地区の受け持ち当番医に診察を依頼し、患者が受診する。オンライン診察できればさらに医療にアクセスしやすいことから、市町村ホームページ等からオンライン診察が行えるように整備する。体調悪化した場合は救急搬送を提案する。消防には県内および近隣自治体の医療機関の患者受け入れ状況を把握できるようシステムを導入し、早期に搬送できる体制を整える。このようにすることで、保健所が入院調整するより格段に早くなるのみならず、市町村は高齢者、障がい者、子ども等福祉部門の情報も持っているため、病状だけでなく、生活面でのケアなど、きめ細かい対応が可能となる。

この流れをスムーズに遂行するために、感染症法を改正し、「発生届は自治体に届出る」とし、発生届は市町村が受理する。また、現在の感染症法による分類により偏見や差別を引き起こす現状が医師の診察控えを引き起こしている地域もあることから(地方に行くと偏見がより顕著)、分類の撤廃も行う。
「市町村への人材と予算の確保」と「法の見直し」を行うことで住民が早期に医療につながることができ安心して生活できるのではないか。

このように疫学調査にしても、医療提供にしても、もはや保健所が主導する時代は終焉を迎えつつあることが、コロナを通して如実に現れたのだ。これまでも、結核予防健診、乳幼児健診、予防接種、未熟児養育医療申請、狂犬病予防接種等の医療行為は、保健所から市町村へと移譲された。保健所の機能を見直して、国民の生活や健康を守るために保健行政の見直しを検討するべきであろう。

1月20日投稿

 

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