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Vol.22045 専門家も騙された添付文書のからくり

医療ガバナンス学会 (2022年2月23日 06:00)


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鹿児島県 井手小児科
井手節雄

2022年2月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

イーライ・リリー社は裁判を通じて、タダラフィルのPDE5阻害作用はPDE11阻害作用の14倍であって、タダラフィルのPDE11阻害作用は小さいものでありタダラフィルのPDE11阻害の危険性は少ないと主張を繰り返しました。
しかし、タダラフィルのPDE5阻害作用はPDE11阻害作用の5.5倍程度であって、タダラフィルのPDE11阻害作用はかなり強いものです。

選択性と阻害作用を混同させて、タダラフィルのPDE11阻害作用はPDE5阻害作用の1/14であると錯覚させることを仕組みました。
ことも有ろうか、タダラフィルの阻害作用を小さく見せるために選択性と阻害作用について、タダラフィル製品の製造販売承認申請の段階から添付文書にもからくりがなされていました。

1、選択性とは
選択性とは阻害剤がどの酵素と結びつきやすいかということを調べたものです。
下記の表は日本で発売されているPDE5阻害剤のタダラフィル、シルデナフィル、バルデナフィルのPDEファミリーに対する選択性を示したものです。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22045-1.pdf

この表はタダラフィル、シルデナフィル、バルデナフィルのヒトPDEアイソザイムの選択性についての表ですがイーライ・リリー社が乙43号証として裁判資料として提出した表です。
赤線部分の但し書きには、ヒト組替えPDEを反応溶液中で、放射性同位元素でラベルしたPO4を結合させたcAMP、cGMPと30℃で12分間インキュベートして、その後、蛇毒のヌクレオチダーゼを反応させた後、遠心分離した上清中のリン酸の放射能を測定して選択性を決定したと書いてあります。
上記のように選択性は放射性同位元素を用いて、酵素と阻害剤の結合率を測定することにより決定します。
ホスホジエステラーゼという酵素はPDE1からPDE11まで11のファミリーから成り立っています。
ホスホジエステラーゼ阻害剤という薬は、ホスホジエステラーゼという酵素の働きを阻害して生体のバランスを調節して薬として利用されます。
ホスホジエステラーゼ(PDE)は11のファミリーからなっていますがPDE1からPDE11の働きはそれぞれ違います。どの酵素を阻害するかで人体に与える影響は大きく変わってきます。
こういうことで阻害剤が「どの酵素を阻害するかという選択性」を明らかにすることは大事なことになります。
選択性は逆数を用いて表記しますので、700とか9000とか数字が大きくなるほど選択性は低いということを意味します。
700という表記は選択性1の酵素と比較して選択性が1/700であるということです。選択性が9000ということは選択性1の酵素と比較して1/9000の選択性しかないという意味です。
タダラフィルのPDE11に対する選択性は14と表記されていますので、このことはタダラフィルのPDE11に結合する割合はタダラフィルがPDE5と結合する割合に比べて1/14であるということです。

乙43号証の表の問題点
選択性についての表の左片隅に「PDE5阻害作用に対する比」と記載されています。乙43号証の表は「PDE5選択性に対する比」であって「阻害作用に対する比」ではありません。
この記載もタダラフィルの阻害作用と選択性を混同させるためのからくりです。裁判においてイーライ・リリー社は目くらまし、すり替えということを繰り返しました。
2、阻害作用とは
阻害作用とは阻害剤が酵素の働きをどのくらい阻害する力があるかということです。
阻害作用はIC50を測定して阻害作用の強さを決めます。1nMの酵素(ここではPDE5とPDE11)の50%を、阻害剤(ここではタダラフィル)が阻害するのに要する量により阻害作用の強さを決めます。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22045-2.pdf

上記の表のように、PDE5の50%を阻害するのに要するタダラフィルの量は6,7nMで、PDE11の50%を阻害するのに要するタダラフィルの量は37nMです。
PDE5とPDE11の阻害作用の強さの比はPDE5:PDE11=6.7nM:37nM≒1:5.5です。
タダラフィルのPDE11阻害作用の強さはPDE5の阻害作用の強さのおよそ1/5.5ということになります。タダラフィルのPDE11阻害作用はかなり強いものと言えます。
イーライ・リリー社はタダラフィルのPDE11阻害作用の強さはPDE5阻害の強さの1/14に過ぎないと繰り返しましたが、14という数字は阻害作用を表す数字ではなくて選択性を表す数字です。
イーライ・リリー社はシルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィルのホスホジエステラーゼ(PDE)に対する選択性を記載した乙43号証の表の左片隅に「PDE5阻害作用に対する比」などとさりげなく記載していますが、これも阻害作用と選択性を混同させるためのイーライ・リリー社のからくりです。

乙43号証は裁判資料ですが、製造販売の承認申請書の資料の一部として提出されています。製造販売の承認申請の段階から、すでに選択性と阻害作用を混同させるような資料を作成するなど、じつに周到なPDE11阻害の危険性の隠蔽です。

タダラフィルのPDE11阻害作用はイーライ・リリー社がいうように1/14などという小さいものではありません。私は、ザルティア5㎎錠を服用して94/56mmHgという低血圧が起こりました。肺動脈性肺高血圧症治療薬アドシルカの1日の用量はザルティアの8倍の40mgです。恐ろしいことだと思います。
3、添付文書のからくり
ここで、ザルティアの添付文書の薬効薬理の項を紹介します。

上記の、添付文書の薬効薬理の「1、PDE5阻害作用(in vitro)」の記載において、「PDE6及びPDE11と比較するとそれぞれ700及び14倍、その他のPDEサブタイプと比較すると9000倍以上の選択性を示した」と記されています。
PDE5の阻害作用を説明する薬効薬理において、なぜ、選択性を示す数字である700、14、9000という数字を提示したかということですが「タダラフィルのPDE5阻害作用はPDE11阻害作用の14倍である」と錯覚させ、タダラフィルのPDE11阻害作用はPDE5阻害作用の1/14と小さいものであると思わせるためのイーライ・リリー社お得意の誤誘導のテクニックでした。

阻害作用の説明と思わせながら、何食わぬ顔で「PDE6及びPDE11と比較すると700及び14倍、その他のサブタイプと比較すると9000倍以上の選択性を示した」などと選択性を示す数字を示して、あたかもPDE5の阻害作用がPDE11阻害作用の14倍であると錯覚させるような表現にしています。
このことは、タダラフィルのPDE11阻害作用は低いものだと錯覚させるための、イーライ・リリー社らしい悪質で手の込んだ巧妙な誤誘導のテクニックです。
そして、添付文書のからくりのもう1つの目的は、阻害作用100以下を阻害剤と言う取り決めが有りますので、選択性14という数字を示すことでタダラフィルがPDE11阻害剤であるということは記載していると主張するためのからくりかもしれません。

添付文書のからくりと副作用の隠蔽
添付文書は薬の害から患者を守るための公文書です。この公文書の作成に当たり、タダラフィルによるPDE11阻害の危険性について記載することなく、誤誘導ととれる手法で、PDE11阻害の危険性をうやむやにするなど、厚労省をも愚弄する不埒な行為と言えるものではないでしょうか。
公文書において作為的なからくりがなされるなどそういうことが有っていいものでしょうか。
薬の製造販売承認の審査において、厚労省により文書内容の変更なども指示されそれにのっとって添付文書は作成され、薬の製造販売の許可は下ります。
タダラフィルによるPDE11阻害の危険性を隠蔽するために誤誘導などという手法を用いて添付文書を作成するなどまさに前代未聞のことではないでしょうか。あまりにも計算された副作用の隠蔽です。
厚労省は国民の安全のために厳然たる態度で臨むべきではないでしょうか。
【まとめ】
添付文書の薬効薬理の記載として正しい書き方は、「タダラフィルのIC50はPDE5については6.7nMであり、PDE11についてのIC50は37nMであってタダラフィルのPDE11阻害作用はPDE5阻害作用の1/5.5とかなり強いということが言える」
とすべきところを、タダラフィルのPDE5阻害作用はPDE11阻害作用の14倍(つまり、タダラフィルのPDE11阻害作用はPDE5阻害作用の1/14)と錯覚させるような誤誘導を仕掛けています。
イーライ・リリー社の薬効薬理の記載は添付文書を見る医師、薬剤師、患者を騙そうとするものであり、タダラフィルの承認申請の見直しが必要と思われます。
イーライ・リリー社はさりげなく巧妙に誤誘導を図る会社であり、「審査員も神様でなく、まさか承認申請において誤誘導という手法を講じるなど疑うこともできなかった」ということは審査員が責められることではありません。
私は、イーライ・リリー社が第7準備書面で「種明かし」をしたためにイーライ・リリー社の誤誘導の手口を読めるようになりました。とにかくイーライ・リリー社は薬品メーカーとして信頼できる会社ではないようです。2019年より日本におけるタダラフィルの製造販売は日本新薬株式会社が行っています。裁判においてイーライ・リリー社と日本新薬株式会社の副作用対応は全く同じでした。

【イーライ・リリー社の誤誘導の証明】
タダラフィル事件の裁判の争点整理案において、イーライ・リリー社は下記のように主張しています。
この主張は「阻害作用と選択性について混乱させ、タダラフィルのPDE5阻害作用はPDE11阻害作用の14倍である」ということを刷り込むための誤誘導サブリミナルとも言えるものです。

イーライ・リリー社の嘘
(1)イーライ・リリー社は、タダラフィルのPDE5に対する阻害作用はPDE11に対する阻害作用の14倍強いと記載しています
しかし、実際は『元東邦大学医学部教授佐治勉氏の論文でも5.5倍ほどであって、タダラフィルのPDE11阻害作用は小さいものではありません。そして、選択性を示す14という数字を持ち出して阻害作用と偽っています。何でもありの副作用隠蔽です。』

(2)なおタダラフィルのPDE11とPDE5の選択比が14倍であるという数字は、IC50による測定結果を示したものである。(甲1・4頁)
と記載していますが、イーライ・リリー社の乙43号証の表における但し書きには「ヒト組替えPDEを反応溶液中で、放射性同位元素でラベルしたPO4を結合させたcAMP、cGMPと30℃で12分間インキュベートして、その後、蛇毒のヌクレオチダーゼを反応させた後、遠心分離した上清中のリン酸の放射能を測定して選択性を決定した」と書いてあります。

『選択性はIC50によって測定するものではなく、放射性同位元素を用いて測定します。イーライ・リリー社が選択比をIC50によって測定するなどと間違うことは無く、選択性と阻害作用をかく乱させるための争点整理案の記載ということになります。』
「甲1・4頁」とは添付文書の「薬効薬理」の記載のことです。

(3)PDE5とPDE11との選択比は、タダラフィルの製造販売承認審査時に被告イーライ・リリー社が提出した実験データに基づくものであり、最終的に製造販売承認がなされていることからも信用性の高い実験結果である。
と書かれています。
『空々しいというか、盗人猛々しいというか、添付文書にからくりを仕掛け厚労省を愚弄しながら「最終的に製造販売承認がなされていることからも信用性の高い実験結果である」などとは、ただ唖然とするイーライ・リリー社の実態でした。』

(1)、(2)、(3)を読むと
(1) タダラフィルのPDE5阻害作用はPDE11阻害作用の14倍強いと嘘を言い。(実際は5.5倍です。)選択性を示す14という数字を阻害作用と偽っています。
(2) PDE11とPDE5の選択比はIC50を測定した結果であると嘘を述べ、このデータは製造販売承認において厚労省が認めたものであると念を押しています。
(3) 承認申請のために提出した選択比のデータは製造販売承認がなされていることからも信用性の高いデータである。と結んでいます。

イーライ・リリー社の争点整理案の文章は「阻害作用と選択性の混同を図り、タダラフィルのPDE11阻害作用は小さいものであると錯覚させるための」文章でした。この争点整理案の文章と、添付文書の「薬効薬理」の記載を合わせて見ると、「薬効薬理」の記載が誤誘導であるということがはっきりします。
とにかく誤誘導は心理学の専門家が仕掛けるものであり、種明かしが無い限り誤誘導を見抜くことは難しいのです。

添付文書の薬効薬理の記載は、医師も薬剤師も患者もそれを読む人は、タダラフィルのPDE5阻害作用が強いということを認識して、タダラフィルのPDE11阻害作用は小さいと錯覚すると思います。
しかし、添付文書に引用された700、14、9000という数字は阻害作用を表す数字ではなく、選択性を表す数字です。

専門家と言われる人の論文に「タダラフィルのPDE11阻害作用は小さなものであって特に問題は無い」と有りましたが、これらの専門家もイーライ・リリー社の誤誘導により騙されたものだと思われます。

 

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