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Vol.22046 新型コロナ感染症2年間の政治と医療の解離

医療ガバナンス学会 (2022年2月24日 06:00)


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新型コロナ感染症2年間の政治と医療の解離

半田医院
半田伸夫

2022年2月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は兵庫県西宮市で内科医院を開業している。当初から発熱外来を開設し、現在までに150人を超える新型コロナ患者を診断し、自身も家族から感染し中等症IIとなり、入院、レムデシビル、デカドロン治療で生還した経験を持つ67歳の内科医である。様々な経験から感じたことをここにまとめようと思う。

COVID-19、新型コロナウイルス感染症の略語だ。この病気は2019年に同定されている。今年で3年目に突入した。当初感染力も毒性も強い恐ろしい感染症との印象が世界中を駆け巡り、感染予防が最重要課題となった。そのためuniversal masking:常時のマスク着用、social distance: ソーシャルディスタンス、さらにはlockdown:ロックダウン、などの新造語が造られるるほど、集中した防疫対策がなされた。

これらは一定の効果はあったものの、第6波を見る限り、現状ではこの効果は極めて限定的だと考えられる。すくなくとも社会活動を止めるぐらいしないと、効果はないのだろう。社会が死に絶えてもよいのなら、これを継続すればよいが、それは不可能だ。

感染予防としては、ワクチン接種がスタンダードである。確かに日本の第5波までは、現在のワクチンの予防効果は実感した。しかし、2022年初頭からの第6波では、当院で診断したCOVID-19の7割は2回のワクチン接種を終えた人であった。すくなくとも現状のオミクロン株とおもわれる亜型には、現有のコロナワクチンの予防効果はほとんどない様子だ。このことは欧米で採用されているワクチンパスポートの考えには大いに疑義を問いたい。

この2年間、新型コロナウイルスの病態を解明するため、膨大な論文が発表されている。感染症を、微生物の増殖と、組織の破壊による宿主のダメージが中心となるだけでなく、宿主の免疫過剰反応にて全身状態が加速度的に悪化することが浮き彫りとなった。そのため、治療法として、初期のウイルス活動期には、抗ウイルス薬や、抗体療法、その後の免疫過剰反応状態期には、デカドロンを中心とするステロイド療法と、オルミネント(JAK阻害薬の一つ)のような免疫抑制薬が重症化予防し、ARDSや多臓器不全に進行を抑えることが分かってきた。さらに昨年末から経口摂取できる抗ウイルス薬も使用可能となっている。

そこで発生した第6波である。当然我々は、感染防止を中心とした、予防医学で対応できない状態であることを十分自覚している。感染蔓延を今までの方策では阻止できないこと、法律で縛ることの無意味さをわかっているはずである。今大事なことは感染を蔓延させないことではなく、重症化させないことだということは周知されているし、メディアもさんざんアピールしている。

このためには重症化リスクのある人が感染した場合に、早く見つけて、発症から5日以内に効果のある抗ウイルス治療(レムデシビル、抗体療法、モルノプラビル)の投与を開始すること、免疫過剰反応となったときに、素早くデカドロンやオルミネントを投与する治療を開始することだろう。しかし、それは現状ではスムーズにはいっていない。

その原因のひとつは陰性証明という無意味な検査を奨励していること、二つは発熱外来のありかたにあると感じている。この病気を蔓延しているのが、無症候ウイルス保有者(Asymptomatic career)であろうとの概念がパンデミック初期からの定説である。それが正しいのかどうかは未だ確定していない。確実なことは病初期が軽症であるため、感染初期の患者が活動することにより病気が蔓延していることは明らかだ。また、濃厚接触者の調査でも病気の発病前にPCR陰性であっても、数日以内の発病時期に陽性となる例を数多く経験した。

つまり、無症状の大衆に広くPCR検査をすることに何を期待しているのだろうか?多くても数パーセント以内の陽性者を発見して、どうしたいのだろうか?また彼らをCOVID-19と診断し隔離したり、その周辺者を濃厚接触者として社会活動を止めたりすることが本当に必要なのだろうか。これは大きな問題だと私は考える。

発熱外来をしていて感じるのは、全例届出という、2類相当の対応の可否だろう。これを強いることにより、発熱外来医療機関は多大な労力を強いられる。保健所はされに過重労働を強いられている。全例届ける意味は、防疫で、感染者をコントロールすることだろうが、一日10万人の感染者がいる病気を防疫する意味はあるのだろうか。それよりは、重症化予防のために、高リスク患者に重点的にスムーズにモル?プラビルや抗体薬を投与する仕組みを作る必要がある。当院では、今までに悪性腫瘍や高度肥満者7名にモルノプラビルを投与した。全例副作用なく一定以上の症状緩和効果が見られている。

以前からMRICに投稿されている先生が述べておられるように、防疫を中心とした法律、政治指導の体制から、普通の病気として、医療者が患者の症状と、重症度に応じて治療にあたる通常医療へシフトすることが最も重要なことである。医療が普通に戻ることで、社会活動も普通に戻る。専門家も、日医もそのことを提言すべきだと私は思う。

 

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