医療ガバナンス学会 (2022年2月28日 06:00)
ナビタスクリニック新宿
濱木珠惠
2022年2月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
当院では、発熱や急性上気道症状で受診した方にPCR検査や抗原検査による新型コロナウイルス感染症の診断を行っている。昨年10月以降、新型コロナウイルスの流行がやや落ち着いていた時期には、海外渡航の自費PCR希望者はちらほらといたが、発熱や上気道症状で来院される方は少なく、また検査をしても陽性が出ることはほとんどなかった。しかし、年明けからは明らかに違った。2022年の年明け早々から発熱患者や検査希望者の受診が圧倒的に増え、PCR検査が可能かどうかの問い合わせがくるようになった。診療の都合で発熱外来枠を制限している曜日もあるが、他院が休診の日祝には発熱外来の予約は朝からほぼ埋まった。発熱相談センターからの紹介に加え、友人知人から「日曜でも検査してくれる」と紹介されて来院される方も多く、問い合わせの電話がひっきりなしに続く1月だった。当院はウェブサイトから外来予約が取れるようにしてあるのだが、それもすぐに枠が埋まってしまい、問い合わせの電話がひっきりなしにくる状態で、事務はてんてこまいだった。
しかし2月になるとすぐ、発熱外来の予約枠に余裕が出るようになりはじめた。日本国内のCOVID-19新規患者数の推移をみると、2月8−10日をピークに徐々に減少してきている。( https://ourworldindata.org/covid-cases )。だが、私が外来で受けている印象では、もう少し早く、1月末で当院近辺ではピークアウトしてきたのではないかと感じられた。グラフに当院の検査患者数(移動平均)と陽性率を示す(グラフ1)。
http://expres.umin.jp/mric/mric_22048.pdf
移動平均は前後3日を合わせた7日間の平均値を使用した。当院の実検査人数は、前述したとおり1月から少しずつ増え始めたが、とくに8−10日の連休以降、急に受診者が増えてきた。一番多かった日は1月23日(日)が最大で56人、24日は43人、25日は41人だった。さすがにクリニックの検査診療体制のキャパオーバーなので検査予約の見直しが必要と感じた。移動平均でみても同様で、1月21-27日に患者数が集中しており、特に22-26日の移動平均は30人以上であった。ちなみに1月の検査陽性率は月の平均で48%、特に1月12日以降はほぼ50%以上の陽性率が続いた。
だが1月下旬から徐々に患者数は減り始めた。2月の陽性率は変わらず40−50%であるが、検査数は毎日10人程度となった。同時期に同居家族などの濃厚接触者のみなし陽性のシステムがはじまり、実際に検査目的で受診する方が減った影響はあるだろうが、その問い合わせを含めても新規に診断する患者数が減っていた。その一方で、以前から民間PCR検査で陽性になった方に対してオンライン診療での対応を行なっていたが、その件数はほとんど変わりがなかったのとは対照的である。
患者層でいえば、当院では1月初旬は、スキー旅行や年末年始の集会などで感染した方々の受診が多かった。また中旬くらいまでは、飲食店とくに接客の距離が近いお店や接待を伴う夜の飲食店などで働く方々も目立った。そして中旬以降は学生が少しずつ増え始め、会社員や家族、保育園や小学校での感染という患者層に推移してきた。もちろんこれは新宿駅という特殊な環境にある当院だからなのかもしれない。近隣に飲食店が多いという土地柄はあるだろう。推測でしかないが、1月前半は主に大勢で集まる会合をした人々や、接客業など不特定多数と接する方が感染し、そのうち一般企業や家庭などに感染の場が広がっていったのかもしれないと考えている。
また新宿駅からすぐということもあってか、近隣住民だけでなく、新宿で勤務している方、自宅近くで検査できる医療機関を見つけられなかった方なども来院される。当院から徒歩圏内の新宿区や渋谷区だけでなく、電車で何駅か移動して来院される方もいた。さすがに体調不良の方がわざわざ遠方から来るのはと思い「自宅から近いところで検査できそうなところはなかったですか」と尋ねると「近くに見つけられなかった」「紹介されたけど問い合わせしても混んでいて受け付けてもらえなかった」という。ちなみに民間PCR検査で陽性になった方々も遠方から受診する方少なくないが、やはり「近隣の医療機関よりも民間検査のほうが、早く検査の予約ができたから」とおっしゃる方が少なくなかった。
国内全体のピークに比べて当院のピークが先にきていた理由については、いくつか仮説を立てられる。まず、単純に当院に受診したい患者さんの数が減っただけかもしれない。当院が委託している検査会社の集荷担当者にきくと「全体に減っていると思うが、ずっと多い医療機関と減っている医療機関に分かれている印象がある」と言っていた。当院はPCR検査結果報告が翌日のため、当日に結果がでる医療機関が好まれる可能性はある。また検査までの手軽さから、症状があっても病院を受診せずに民間PCR検査を利用しているも少なくないだろう。企業などでは職員に陽性者が出たときに集団検査を行なっているところもある。医療機関の対応が悪く、かかりつけ医で検査できなかったり、発熱外来対応数が少なくて予約が2、3日先にされたりしたら、当然、手軽にできる民間検査を利用するだろう。民間検査は建前上「無症状の方」としているが、利用者のPCR検査のニーズがもっと高い。この点は、我々医療者も厚労省も肝に銘じる必要があるだろう。
一方で、私は、単純に新宿区近辺のピークが早かったという可能性を考えている。前述したように時期によって患者層の違いがあった。普通に考えると、接客業も含めて社交範囲が広い人達から感染は広まりやすい。新宿や23区といった社会活動が活発な地域、人の流動性が大きい地域で感染がひろがりはじめ、そこからさらに職場や学校、自宅などの生活範囲に感染が広がるのではないだろうか。それであれば、インフルエンザの定点観測で行われているように、キーポイントになる地域の複数の医療機関などでモニタリングを行なっていれば、流行の兆しを先読みすることができるかもしれない。もちろん2月下旬の今も感染対策を油断していいというわけではないが、どういうタイミングで感染者数が広がっていくのかを早期に簡便に把握できたほうがいい。
東京都内の新型コロナウイルスの新規感染者数はピークを超えたとはいえ、いまだに重症患者も続いている。今後、どのように収束、もしくは再拡大するのかはわからないが、もし都市部の流行が地方に飛び火していくのであれば、その傾向をつかむことで迅速に対策を練ることができるのではないか。新型コロナウイルスは、コロナウイルスであるために冬場と夏場に感染が広がる可能性がある。昨年一昨年の流行の特徴から考えて、今はいったん収束しても4月ないし7月頃に再流行すると予想される。社会活動を回復させつつ流行を抑えようとするならば、感染拡大の地域差をみながら動く必要性を感じている。