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Vol.22057 頑張れ助産院3―飛騨市の実践・成功例

医療ガバナンス学会 (2022年3月11日 06:00)


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この原稿は月刊集中3月末日発売号掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2022年3月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 各地での実践とその成功例

「頑張れ助産院」の論稿も、第3弾となる。今回は、各地での実践例のうち、「飛騨市民→飛騨市長→高山赤十字病院」とその連携が続いた成功例を紹介したい。
現在、全国各地で、嘱託医や嘱託医療機関の契約打切りなどが頻発しており、そのため、開業助産院の開業・存続要件が充足できなくなって、開業助産院の分娩停止が相次いでいる。「頑張れ助産院」シリーズでは、助産院の開業・存続のための法的対策として、「地域住民の市区町村長への要望」、「市区町村長の公立病院・公的病院への指示又は依頼」というスキームを、昨年後半より提示していた。
そうしたところ、全国各地で地域住民がこのスキームに準拠して、諸々のバリエーションの要望が各地の市区町村長に提出されるに至っている。
今回は、そのうちの1つとして、飛騨市の実践・成功例を紹介しよう。
2 飛騨市・高山市在住母親からの飛騨市長への要望書

今年の新年早々、飛騨市・高山市在住の母親の有志から、岐阜県飛騨市の市長宛に、1つの要望書が提出されるに至る。その趣旨は、「令和4年3月末に飛騨地域で出産を取り扱っている助産院が、その協力病院の高山赤十字病院から契約をきられることを知りました。飛騨のこれから生まれてくる赤ちゃん達のために、妊娠・出産を選択できる場を無くさないようにどうか、市から高山赤十字病院やその他の医療機関へ助産院と協力を続けて頂くよう要望してくださいますようお願いします。」というものであった。
この要望書には、有志の母親の綴った文章が大量に添付されている。たとえば、適宜に抜粋すると、「私は長男が産まれてから助産院Aさん(注・原文は実名)に出会いました。お産についてのお話を聞いているうちに、もし2人目がお腹に来てくれたら私は絶対に自宅出産(自然なお産)をしたいと思っていました。2人目の妊娠が分かり、実際に自宅出産を経験した方のお話を聞き更に自宅出産をしたいという思いが強くなりました。妊婦健診も助産院Aさんに伴走して頂いたおかげで妊娠中の不安もとても軽減できました。…妊娠中の長男・次男それぞれ成長も違い不安な事もたくさんありましたが、近くで親身になって相談に乗って頂けたことにより、私の精神状態も安定していたのだと思います。1人目の出産では家族以外にはなかなか相談できる人がいなくて大変でした。…飛騨市には出産できる病院がないので、安心して産める場を残して頂きたいです!」
「今回妊娠期のケアが助産院でできなくなるかもしれないと聞き、私達母親に出産時できるだけ多くの選択肢と相談でき拠り所となる場を残していただきたいと思い、この要望書を出させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。」
「病院やクリニックのほかに自宅や助産院などで自然なお産ができる選択肢のある飛騨であってほしい。・・・私は二人目を妊娠したときに、自宅分娩をさせてくれる高山の助産師さんと健診などでフォローしていただいた高山日赤の産婦人科の先生のおかげで、妊娠中も安心して過ごすことができ自宅でのお産を選び行うことができました。・・・それまで飛騨で自宅分娩はできなかったので感謝してもしきれないくらいありがたく、夢のようでした。この経験は私の生き方が変わる機会となりました。」
「実家など頼りに出来るところがなく毎日ワンオペで頑張っているお母さん意外とみえます、助産師さんのサポートがあったら絶対ありがたいと思います。・・・飛騨市で産める場所があったり、助産師さんに妊娠中も診てもらえたりしたら移住してきた人は本当に安心して出産子育てができると思います。」
「自宅出産という選択肢がなくなってしまうのはとても悲しいです。」
など、まだまだ紹介し切れないが、これらの文章の数々が飛騨市長の心を動かしたのである。
3 飛騨市長から高山赤十字病院への要望

以上のように、この1月に要望を受けた飛騨市長(担当部署・飛騨市市民福祉部地域包括ケア課)は、2月早々に、高山赤十字病院の病院長宛に、「開業助産院との嘱託医療機関契約の継続について(要望)」という要望書を提出した。その内容は、次のとおりである。
「さて、この度、地域の開業助産院との嘱託医療機関契約について、今年度限りで契約を更新しないとのご意向をお示しになられた旨、その件についての市民からの要望書(別添ご参照)を機に承知をしたところです。
周産期医療におきましては、厳しい医師不足もある中で、貴院が飛騨地域の周産期母子・小児医療センターとして地域の安全なお産について全面的に寄与いただいており、本市市民につきましても、本市に分娩できる医療機関がない中で、大変お世話になっているところです。
本市でも、近年市内の妊産婦の支援環境の向上を図るため、産前産後ケアの体制充実に市の助産師会とも連携させていただき、努めてまいりました。これが大変好評を得ており、妊産婦さん方への従来の保健師のみでの支援では得られなかった本当に支えになる支援ができていることに助産師の力を再認識しています。地域の大切な医療資源として今後も助産師と連携を更に深め、妊産婦にやさしい体制づくりを進めていきたいと考えています。
そうした中、別添要望書にもございますように、少数ながらも助産院での分娩を熱く望まれる声があります。こうした声もしっかり受け止め環境整備をしていきたいと考えており、今般その体制が飛騨地域に残せるよう貴院に今一度助産院での分娩ができる体制の維持に格別のご配慮とご協力を飛騨市としてお願いさせていただくものです。
分娩できる医療機関のない自治体として、また、特に神岡町等産科医療機関まで距離のある地域での妊産婦さん方の不安や負担の大きさなどを感じている中でも、市民のお産における様々なニーズに対応できるよう尽力したいことと、今後開業助産師と様々な医療機関の連携等による市民の安心できるお産への体制づくりを模索していきたいと考えており、貴院のご協力やご指導を今後も切にお願いするものでございます。
まずは、開業助産院との嘱託医療機関契約の継続につきまして、何卒ご高配を賜りますようよろしくお願い申し上げます。」
以上のとおりの飛騨市からの要望であったが、「地域包括ケア課」が担当しただけのことがあって、地域全体を広く見渡す視点から、開業助産院を的確に位置付けた上で、地域住民の需要に応えようとしていることが、如実に感じられる文章であった。各地の市区町村長においても、大変に参考になる「要望書」の内容でありスタイルであると言いえよう。
4 高山赤十字病院の前向きな対応

このような地域住民の希望を受け入れた飛騨市長からの要望に接し、高山赤十字病院はいかにも公的病院らしく、これを前向きに受け止めた。確かに高山赤十字病院としても厳しい環境だったために嘱託医療機関契約を打ち切ろうと決めたところであったし、その厳しい環境は何も変わっていないのではあったけれども、飛騨市民・飛騨市長からの要望もまたもっともなものであったので、大所高所の見地から大胆に見直しをしたのである。本年3月末をもって打ち切るはずの嘱託医療機関契約を、継続することに改めたのであった。
実際、全国各地の嘱託医も嘱託医療機関も、高山赤十字病院と同じく、厳しい環境であろう。しかしながら、高山赤十字病院の対応を参考にして、今後の対処方針を何とか再検討していただきたいところである。

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