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Vol.22059 宇宙について京大生が自衛官から学んだこと

医療ガバナンス学会 (2022年3月15日 06:00)


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京都大学医学部4年
斉藤良佳

2022年3月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

初めまして、京都大学医学部4年の斉藤良佳と申します。ご厚意により寄稿の機会を頂いたので、最近の自分の経験について書かせていただきます。

私のこれまで
私は大阪府の北野高校から京大医学部に入った。幼い頃から京大に憧れがあり、合格者数が多い地元の北野高校を選んだ。苦労はしたものの京大に入学することができ、部活やバイトといったいわゆる普通の大学生活を送っていた。

宇宙医学との出会い
転機が訪れたのは2020年の3月。コロナが流行し始め、日本に閉塞感が漂い始めた頃に出会ったのが宇宙医学である。宇宙医学とは、無重力や放射線といった宇宙環境が健康に与える影響を研究しその対策を講じる学問だ。宇宙では、骨や筋肉の萎縮はもちろん、視力低下や尿路結石、血液循環の変化など、様々な臓器に短期的・長期的な問題が起こる。こうした宇宙医学の知見そのものの興味深さ、そこに携わる人たちの楽しそうな様子を見て、私もこの世界に魅入られた。学生団体で活動し、教科書の翻訳に取り組むなど、自分なりに進んでいる感覚があった。
しかし一方で、宇宙医学の領域で活躍するためにどういうキャリアを描けばいいのかわからない、そもそも今地上で困っている人のために他にやるべきことがあるのではないか、という地に足のつかない感覚があった。
そんなモヤモヤを抱えながら上昌広先生の元を訪れ、自分の夢について話したところ、なんと自衛隊の方を紹介してくださった。

自衛隊の方々とのお話
普段、京都で大学の人間としか交流せずのんびりと暮らしている大学生が、自衛官と、しかも中枢の方と突然話すことになったのである。どんな怖い人が来るのかと、緊張しきりであった。
お会いしたのは二人。一人は、海上自衛隊で国際関係を研究されている後瀉桂太郎さんであった。非常に気さくで、私の悩みを聞いてくださり、2時間以上も様々なことを話してくださった。宇宙開発を考える上で国というものの捉え方や各国の現状について知ることは重要であるが、第一人者から貴重な意見を頂けた。なかでも興味深かったのは、特に安全保障の世界では、宇宙領域は重要性を増しているが、とはいえそれは有人宇宙飛行を伴うケースはあまりない、ということだった。

もう1人は長く航空自衛隊で医官として航空医学に向き合い、災害医療でも活躍されていた山田憲彦さんである。航空医学は「宇宙航空環境医学会」という学会があるように、宇宙医学との繋がりが深く、初期のアメリカの宇宙飛行士はテストパイロット出身の者が多かったようである。そうした航空医学に関して最新の動向を伺えたのも有り難かったが、さらに有り難かったのは、なぜ宇宙に惹かれるのか、自分の無意識を言語化してくださったことである。曰く、「あなたが当たり前が通じない世界に興味を持つのは、それを通して今いる環境のありがたさを知りたいからだと思う」。自分が京大に惹かれ、宇宙に惹かれた理由は似ているのかもしれない。
お二人には宇宙医学の専門ではないから詳細はわからない、申し訳ない、と言われたが、宇宙医学の研究を聞くのとは異なる学びを得られ、大変感謝している。お二人の話に共通していたのは、この分野だけを追いかけていて良いのかということ、またNASAに留学することだけがキャリアパスではないということである。というのも、宇宙医学は発展途上だからである。現在の対象は心身頑健な宇宙飛行士が主である。重要とは言え、数百人程度の、健常な人のための医学の優先度は高いとは言えないし、データも集まらない。大学卒業後すぐに飛び込んでも、修行の機会は少ないだろう。また当然のことながら、地上の医学の上に成り立っている分野である。研究をするにしても、既存の研究のノウハウが土台にあるため、実際は30歳を過ぎてからこの分野に進んだ研究者も多い。従ってこの分野に本格的に参入する前に、医療において何かしらの専門性を持たねばならない。さらに、様々な国が宇宙開発を進めている中で、アメリカの一施設にこだわっていては視野が狭まってしまう。自分だけの強みは得られない。
そして何より、上先生の研究所で様々な人と会い、自分も宇宙医学について話すことで、どのような課題があるのかだけではなく、それが「どれくらいの人を」「どのように」起こっているのか、どの程度解決されているのかという現状を高い解像度で捉えること、まずは1人の医師として磨きをかけることの重要性を再認識させられた。

宇宙医学の可能性
宇宙医学は有益なのか。様々な意見があるが、私はやがて宇宙医学が宇宙旅行者のみならず、地上に大きな利益をもたらすようになると信じているし、自分もそこに関わりたいと思っている。漫画『宇宙兄弟』に登場する、宇宙でALSの研究に挑む伊東せりか宇宙飛行士のように。長い道のりではあるが、これからは宇宙医学との関わりは持ち続けながら、医療者としての専門性、自分の頭で考える能力、広い視野を獲得することに注力していこうと思う。やがて自分が、宇宙にも地上にも貢献できるようになりたいと強く願っている。

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