医療ガバナンス学会 (2022年3月16日 06:00)
某保健所長
2022年3月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
このCOVID-19への対応ほど「都道府県(以下県と略)の実力が明らかになったことはない」ということだ。国の悪策・無策、場所や時間軸による大きな違い、変異株の出現等もあって、県により様々な工夫がなされてCOVID-19対策が行われてきた。その過程や成果に対しては今後の詳細な検証が必須だが、紙面の都合上、以下代表的な例を紹介したい。
県のトップは知事だが、COVID-19は感染症のためサブトップが辣腕を振るった場合が多い。このサブトップは元々内部にいたそれなりのポジションの人が担当したり(内部サブトップとしよう)、外から統括官とかいう形で任命されたり(外部サブトップとしよう)というものであったが、このサブトップの力量が最も大きかったといえる。もちろんトップがサブトップを任命するので最終的にはトップの力量とも言えるが、、、
内部のサブトップの長所は、既に顔馴染みのためトップや周りの幹部との関係も良く、県下の現状理解も出来ていて意見が通りやすい。ある県では、第一波の時からサブトップの説明に対して、トップが「これは災害だ」と宣言し、保健所への人的な応援を約束した。「いつから?」との問いに対し「明日からだ」という具合に。この県は、この例からも分かるように、保健所の状況や要望の把握、県下の医療機関との関係等他も非常にスムーズだった。ある意味理想的であったとも言える。
外部のサブトップの長所は、上に知事・副知事しかいない場合、外からの任用なので県庁の行政特有の面倒臭さやしがらみをある程度スルーできることだ。県庁内も外部からの医療関係者には気を使うことが多い。このやり方でうまく体制を構築した県は、クルーズ船の逆境をむしろ好機として目覚ましい活躍であった。災害の専門家がサブトップであれば、災害時の指揮命令系統、情報共有、役割分担の考え方が徹底され、トップダウンで行うべき対策と現場のボトムアップ主導をうまく使い分けていた(注1)。最前線の保健所や医療機関の状況、要望を的確に把握して、情報共有のもと県の総力戦として対応する、新たな医療介護連携、地域包括ケアをCOVID-19を梃子にして構築していった(注2)。こちらも理想的であった。サブトップに県医師会長がなった場合も特記すべきだ。元々COVID-19は、最終的には保健所ではなく医療主導で診なければならないため、医師会長がリーダーシップを取り、医療機関で積極的にCOVID-19を診よう、対応しようとした意義は大きい。
前述したが、サブトップはトップが選んだものであり、その思い切った抜擢こそが、最も大きいと言うことが出来る。また、トップが積極的に情報発信する県、トップが現場の保健所長を集めて頻回に情報収集する県、今こそ保健所の重要性に気が付いて定年延長等好条件で行政医師の募集を始めた県、、、トップの差は非常に際立った。
一方、内部サブトップが凡庸でうまく機能しなかった県もあった。元々内部の人間のため、それが災いして周りに気を使いすぎ、しかも権限が不明確。これでは、国の通知・事務連絡をただ県下に流すだけで、ほとんど工夫が見られなかった。そして、医療機関様様の態度、保健所は使い放題の身内で「意見は言わせない」の考え方が浸透し、保健所機能が麻痺、麻痺することがわかっているにもかかわらず、保健所によるトリアージ(自宅・ホテル療養、入院)と健康観察にこだわっていた。内部のため、たとえサブトップが凡庸でも代えることが出来ない状況、これは悲惨だった。
更に保健所も県によって随分対応が違っていた。保健所長会が県にどんどん意見を言って、現状を変えていった県。データを集めて、疫学的に解析しエビデンスを構築して国に訴えていった県。地域包括ケアの総力戦を目指し、自治体、医療機関を中心に多職種と連携を図った保健所。逆に、ただ国の通知・事務連絡を本庁主導の保健所説明会で聞くだけの保健所長会、、、
以上思いつくままに、今までの現状を述べたが、保健所主導は限界である、それは明らかなのに何故それを続けさせようとするのか。長いトンネルの先の明かり、つまり医療主導となるための対策の明かりは国には見えない。未だに通知・事務連絡を連発して箸の上げ下げまで、、、もう通知・事務連絡には数が多すぎてついて行けない。今更県の好事例をあげて説明してもらっても、上記のように県の力量によるところが大きいし、、、
このままでは辞めたいと思う保健所職員は私だけではないだろう。実際休職・退職(予定も含む)の職員も少なくない。
私自身も良い職があれば、すぐにでも辞めてその職に就きたい。
「いつから?」との問いに対し「明日からだ」という具合に。
注1:感染症のパンデミックは本来災害である。よって、災害対応の専門家であるDMATが介入した県はその効果が際立っていた。
注2:医療介護連携・地域連携を中心とした地域包括ケア、地域医療構想、これは今まで十分に進展してきたとは言い難い面があった。しかし、図らずも、COVID-19でグンと進んだ、地域の連携体制が出来上がった形となった県も見受けられた。