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Vol.22063 感染研の予想が外れた小児のコロナ感染の遷延、その原因は?

医療ガバナンス学会 (2022年3月22日 06:00)


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わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2022年3月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.小児のコロナ感染が遷延している

1日の感染者数がピークを迎えた先月の2月4日、国立感染症研究所の脇田所長は、国会でコロナ感染の現状報告を行った。その中で「子供の感染は主要な拡大要因ではない」という考えを示したが、それから1か月以上経過した現在の感染状況はどうなっているだろうか。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9571c448e263d2749f0dfc2fabcfa5979e0644b3

国や都が発表する1日の新規感染者数は緩やかに減少しているように見えるが3日前の3月16日においてもまだ東京都の感染者数は10000人を超えていて、なかでも注目すべきことは世代別の感染者内訳でみた場合に10歳未満の感染者数が最多となっていて、全体の22%を占めている点だ。10歳代をも含めた19歳以下でみると全体の36%にも上る。そしてその次に多い世代が20歳代を飛び越えて30歳代(17%)となっている。これは何を意味しているのだろうか。

住宅街に位置する当院でのこのところの感染者の特徴は保育園や小学校低学年すなわち10歳未満の感染が目立ち、多くの場合その両親(30歳代)や兄弟・姉妹、さらには同居の祖父母にまで及ぶような家庭内感染が際立っていることだ。保育園に勤務する先生たちの感染もひときわ目立って多い。当院の近隣の小学校では学級閉鎖が繰り返し起きているが、近傍の埼玉県においても保育園の休園や小学校の学級閉鎖が相次いでいると報告されている。
https://www.saitama-np.co.jp/news/2022/03/19/02_.html

このような傾向は感染ピークと思われた2月当初から認められたのだろうか。脇田所長が現状報告を行った前日の2月3日のデータを見てみると、東京都全体の感染者数はちょうど2倍の20000人で、感染者数の割合を世代別でみると20歳代>30歳代>40歳代の順で多く、その次が10歳未満(全体の15%)>10歳代と続いており、この頃は明らかに働き盛りの若い世代を中心に感染が広がっていたことがわかる。その後感染者数が半減している現在(3月16日)の時点で、世代別の感染者実数をみると20歳代>30歳代>40歳代は半分以下にまで減少しているにも関わらず、10歳未満の世代ではまだ4分の3(約75%)までと減少率が低くてその結果感染数が最も多い世代となってしまった。

全体の感染者数が激減せずにコロナ感染が遷延しているのにはいくつかの原因が考えられるのだが、子供の感染者数がなかなか減らないこともその一因となっていることは明らかだ。子供の感染、その中でも特に10歳未満の感染がいまだに多いのはコロナワクチン接種の対象から外れたままであったからだろう。第6波の感染がピークを越えた今になってようやく5歳から11歳までのコロナワクチン接種が始まったのだが、今この世代のコロナワクチンが必要と考えるなら、どうしてもっと早い時点でこの結論が出せなかったのだろうか。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/165320

現在(3月17日時点)での東京都におけるコロナワクチン2回接種率は全体では78%であるのに対して12歳から19歳までの接種率も75%で全体と比べて遜色がない。ただし、18歳未満のブースター接種が始まるのには来月(4月)まで待たねばならず、18・19歳、20歳代、30歳代のブースター接種率もいまだに12~18%と低い。5歳から11歳に至ってはやっとこの3月に初回接種が始まったところだがその接種率は1%未満(3月11日の時点)というのが現状で、10歳未満の感染者数が全世代で最大となっているのもうなずける。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/coronavaccine/jisseki.html

このように子供の感染者数が多いという傾向は、実は現在1日の新規感染者数が世界一となっている韓国でも共通にみられる現象だ。今月の始めの3月3日、韓国の7日間の累計感染者数が160万人となって世界一となり(1日平均16万6000人、PCR検査を受けた半数の51%が陽性という状況)、これにドイツ>ロシア>ベトナム・・・と続き、日本も46万人でなんと世界で8番目に感染者数が多い国となっている(日本のPCR検査数が極端に少ないことを考慮するとその順位は限りなく韓国の状況に近いのかもしれない)。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2022/03/04/2022030480019.html
3月17日に至っては韓国の1日当たりの新規感染者数は62万人を記録し、人口当たり感染者数でも世界一となった(3月14日からは医療機関で実施した迅速抗原検査の陽性例も感染者数として集計に入れるようになったことも影響している)。また、新規感染者の3割がワクチン接種が遅れた18歳以下であると報告されている。
https://news.livedoor.com/article/detail/21849086/
このため韓国においてもようやく12歳から17歳までのブースター接種を3月21日から、5歳から11歳までの小児の1回目接種を3月31日から開始することを決めた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b53a48f211765080db85a0716b741a9df6f6eab6

2.小児におけるコロナワクチン接種の意義と必要性

米疾病対策センター(CDC)はファイザー製ワクチンを2回接種した5~11歳への入院予防効果が74%だったとする研究結果を発表した(調査対象のほとんどの感染がオミクロン株)。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/165320
ワクチンを接種することで重症化をかなりの頻度で抑制するので、特に先天性心疾患など重症化リスクの高い小児ではワクチン接種をした方がメリットが大きいし、同居の高齢者を守るためという目的もある。このように接種することの有効性はある程度実証されているものの、抗体価が長持ちしないという難点があるので、やみくもに接種を急ぐよりも来るべき感染拡大に備えて適切な時期に接種することが大切だ(たとえば来冬のインフルエンザワクチン接種時期などが考えられる)。現在のオミクロン株に続く新たな変異株(ステルスオミクロンすなわちBA.2)などに対するワクチン効果はまだわかっておらず、今後解明すべき課題として残されている。

3.世界の新規感染者数が再び増加に転じていること
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59244020Z10C22A3EA2000/

この2年間繰り返されてきたことなのだが、感染者数の増減は広い目で見ると世界がリンクしながら増減を繰り返しており、特定の国におけるコロナ対策の良し悪しが感染拡大時期に大きな影響を及ぼすものではないことがわかってきた(感染の時期を人為的にずらすことはほぼ不可能で、その代わりそれぞれの感染の波の高さを低く抑えることは可能だ)。規制を緩和したから次の感染拡大が起きるのではなく、期せずして訪れてしまった感染の再拡大に対してその影響を最小限に抑えるために規制することは意味がある。ただし、科学的な根拠に基づいた対策に限定すべきだし、感染のピークを過ぎたら速やかに規制を解除するというような迅速な対応が必要だ。決して根拠も効果もない非科学的な規制をだらだらと続けるべきではない。世界の新たな感染増加が毎年の季節変動によるものか、新たな変異株の置き換わりによるものかを的確に判断して対策を立てるとともに、無意味な飲食店などの規制を惰性的に続けていくことは慎むべきだ。すくなくとも今の感染の遷延が繁華街やオフィス街で起きているのではなく、(感染研の予想に反して)住宅街で起きていることは明らかなのだから。

 

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