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Vol.22064 ウクライナの医学生は今…

医療ガバナンス学会 (2022年3月23日 06:00)


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北海道大学医学部医学科
金田侑大

2022年3月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

平素よりお世話になっています。北海道大学医学部医学科4年で、現在はスコットランドにあるエディンバラ大学で勉強させていただいております金田侑大です。今回は、ロシア・ウクライナ情勢を受けて、私が思うことを述べさせていただきます。

北海道はロシアとの結びつきが深いです。日本で最もロシアに近く、日本最北端の稚内、宗谷岬から、ロシアのサハリン州(樺太)まではわずか42kmという近さです。晴れた日には、宗谷海峡を隔てた向こう側に、サハリン島を見ることができます。稚内-サハリンの定期船も運航しており、コロナが流行する以前であれば、学生は往復3万円程度で、日本とロシアを行き来することができました。2018年に日本で在留外国人として登録しているロシア人は約9000人いましたが、そのうち北海道に登録しているのは530人で、これは関東の東京、神奈川、千葉に続く第4位の数字です。そのため、稚内の看板にはロシア語のキリル文字表記が刻まれ、公立の高等学校でもロシア語の授業を設けている学校もあります。

北海道とロシアの交流は、1792年、ラクスマンが日本との通商を求めて根室に来航した頃まで遡ります。その後、1858年の日露修好通商条約で函館が開港となり、ロシアとの対外窓口として機能するようになります。今でもその名残を、ハリストス正教会、旧ロシア領事館、ロシア人墓地などに見ることができます。他にも、ドライブスポットとして有名な猿払村にあるインディギルカ号慰霊碑や、旭川市のスタルヒン球場なども、ロシアとの関連が深い場所です。ちなみに旭川医科大学の大学と病院とを結ぶ廊下は、学生の間では“シベリア廊下”と呼ばれています。そして、北方領土の問題も避けては通れないテーマで、日本政府は日本固有の領土であると主張していますが、第二次世界大戦以降2022年現在に至るまで、この地域はロシアが実効支配を続けているのが現状です。日本政府は国民に対し、北方領土問題の解決まで、北方領土への訪問は行わないように要請しています。例外的に認められるのが北方墓参であり、これは、占領当時北方4島に暮らしており、退去を強いられた約1万7000人に及ぶ日本人が、旅券・査証なしの簡単な身分証明書により、先祖の眠る北方四島を訪れ、お墓参りすることを目的として実施しているものです。とはいえ、この方々の高齢化も問題となっており、北方領土問題を風化させないためにも、中標津や根室など、道東をドライブすると“返せ!北方領土!”という看板をいたるところで目にすることができます。

私が日本で学ばせていただいている北海道大学も、ロシアの学生・研究者とは頻繁に交流し、友好な関係を築いてきたと思います。コロナが流行する2019年以前では、モスクワ国立大学や、サンクトペテルブルグ大学に、学部交換留学生が長期で派遣されていたほか、北大のロシアモスクワオフィスは、日本留学海外推進拠点や、日露大学協会日本側代表部を兼任しています。他にも、私も1年生の頃に参加した、International Archeological Field School in Rebun Island  (国際フィールドスクール | 北方圏における人類生態史総合研究拠点 (hokudai.ac.jp)) では、3週間ほど礼文島に滞在し、ロシアやイギリス、アメリカからの学生・研究者たちと、島の北東部にある船泊遺跡の発掘調査を行いながら交流を深め、歴史文化遺産をどのように地域社会の資源として活用できるのか、先住民歴史文化遺産の保存と活用に関する国際的な課題をこと日本列島内に限ることなく、世界的な視野から議論していけるようなプログラムもあり、私が北海道大学の1年生に最もお勧めしたい科目の1つとなっています。(2年生以上も受講できるみたいです)

そんなロシアが、隣の国であるウクライナと現在“戦争”を行っていることは、日本に住む私たちにとっても他人事ではないと思います。日本とロシアと同じ“隣の国”であり、領土問題を抱えているという点で、アラートになることが必要です。

私が住むエディンバラから、ウクライナの首都キエフまでは、札幌-那覇程度の距離しか離れていません。しかしながら、何も変わらず平和な毎日を過ごせているため、ニュースで見る悲惨な現状に、本当にこれは世界で起こっていることなのかと、信じたくない気持ちがわいてきます。エディンバラには、ロシア人の友達も、ウクライナ人の友達もいます。ロシア人の友達の反応は、正直なところ、「プーチン大統領が勝手にやったことだから申し訳ない」という人、「NATOが悪いんだ」という人の二手に分かれています。どのような理由があれ、そこで暮らしている人の日常を武力で破壊し、命を奪う行為である“戦争”は、私の目指す命を救うことを目指す“医師”という職業の対極にある価値観であり、後者の意見はなかなか聞き入れられない、というのが正直な感情です。特に、ロシアは情報統制が厳しいと聞きます。情報戦という側面もあるため、私自身も何を信じたらいいのかは手探り状態です。しかし、はじめは「戦争をやめてほしい」と言っていたウクライナの友達が、ロシアの戦車が破壊される映像を見て、喜んでいる姿を見ると、あ、これは本当に起こっていることなのだと実感するとともに、悲しい気持ちになります。

ウクライナではもともと、約76,000人の留学生が学んでいました。教育の質の高さや、金銭的負担の少なさから、ウクライナで学ぶ医学生の留学生も多く、特にインドからの留学生は多いそうです。一部の授業は現在もオンラインで開講されているものの(本当に充分な授業ができているのか、その真偽はわかりません)、彼らの多くは現在、大学を追い出され、郊外の病院でのボランティア活動や、ヨーロッパ各地への避難を余儀なくされています。そのため、ウクライナの医学生の一部は、ヨーロッパ各国の医学部への編入を考えているそうです。現状、ルーマニア、ポーランド、ハンガリーなどのウクライナ近隣諸国の医学部が受け入れを開始しており、ドイツ、スペイン、イギリスなども、ウクライナからの医学部生を受け入れる方針を表明しています。特に、ウクライナ人であれば、ウクライナと同程度の学費での受け入れを表明しているハンガリーは人気が高いようで、日本人留学生の多いことでも有名なセンメルワイス大学には、既に200名以上の編入申し込みと、1000人以上からの問い合わせが届いているそうです。しかしながら、編入にむけた書類を準備できない、もしくはできずに非難した医学生も数多く存在しているみたいで、彼らは学んでいたことを証明できず、編入へのハードルも高くなってしまっています。ウクライナでは既に210以上の教育機関がロシアからの攻撃を受け、破壊されたと聞き、普段と何も変わらない平和な日常の中で、「テストやばいいいい」と快適な図書館で自分は勉強させていただいていることに、すごく申し訳なさを感じます。

私ができる活動は何があるかと考えた際、なんとなく悲しい気持ちを抱いたままサイレントマジョリティ―になるのではなく、まずはこの状況・考えを伝えることだと感じたため、筆を執らせていただきました。2022年2月24日から始まったロシアのウクライナ侵攻から、すでに19日が経っています。死者・負傷者の正確な数は分からないものの、ウクライナからヨーロッパ諸国への避難民は既に200万人を超えています。エディンバラの日本領事館は、ロシア大使館と同じ道路にあり、距離も100~200mしか離れていないのですが、連日100人規模の人たちが、戦争反対を呼びかけています。また、大学構内にもウクライナの旗が掲げられ、無料のドーナッツ配布といったチャリティー活動や寄付も行われています。それでも戦争が終わらないことに、人間の無力さを思い知らされるばかりですが、一医学生として、まずは自分の目の前にいる人たちを大切に、しっかり当事者である彼らの話しに耳を傾け、できるサポートをしていきたいと思います。

ここまで拙い文章をお読み下さり、ありがとうございます。

【金田侑大 略歴】
フラウエンフェルト(スイス)出身。母は日本人、父はドイツ人。私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、現在は北海道大学医学部医学科4年に在学中。2021年9月よりイギリスのエディンバラ大学に留学し、医療政策・国際保健を学んでいる。戦争とコロナが嫌いです。

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