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Vol. 290 多剤耐性菌感染症の集団発生(いわゆる、アウトブレイク)問題に関する全国医師連盟の見解

医療ガバナンス学会 (2010年9月12日 06:00)


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全国医師連盟 代表 黒川衛
2010年9月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


全国医師連盟は、多剤耐性菌感染症の集団発生(いわゆる、アウトブレイク)に関して、監督官庁の慎重な対応、特に捜査当局の謙抑的な行動と、メディア各社の冷静な報道を期待します。

2010年9月6日、メディア各社の報道は、帝京大学医学部附属病院(森田茂穂院長)での多剤耐性アシネトバクターのアウトブレイク問題に関して厚労省 と東京都担当部局が立ち入り調査をし、さらに、警視庁が業務上過失致死罪の立件を念頭に任意捜査に着手したことを伝えています。

近年、医療技術の発達により、高齢者をはじめ、癌などの多くの重篤な疾患が医療の対象となっています。これは、免疫力が低下した多数の患者さんが病院内 で治療を受けていることを意味します。一方、免疫力が低下した患者さんは感染症に容易にかかるため、病院内では感染症と闘うことが日常となってい
ます。

今回問題となった、アシネトバクター感染は、現時点では感染症法に規定された届出の対象に指定されておらず、その治療薬も未承認のまま放置されていまし た。また、アシネトバクターは、カーテンや診療情報端末のキーボードやマウスなどの通常の環境表面でも、数週間以上にわたって生存することが知ら
れています。したがって、その対策には膨大な環境調査が必要となります。また細菌は、手指などを介して環境中を移動することから、アシネトバクターは、複 数回の環境調査が必要となる可能性が高く、対策が難しい細菌であるとされています。今回の同病院の感染対策に問題があったかどうかを判断するには高度に専 門的な知識が必要であり、まずは、その分野の専門家によるピアレビューが必要でした。

今回の帝京大学医学部附属病院における多剤耐性アシネトバクター感染症のアウトブレイク問題は、複数の患者の死亡原因が院内感染である可能性から、セン セーショナルに報道されました。しかしながら、当初報道されていた内容のみからは、同病院の感染症対策上の瑕疵を特定することは困難でした。その後、9月 8日に公表された、「帝京大学医学部附属病院多剤耐性アシネトバクター調査委員会外部委員報告書(平成22年8月17日)

http://www.teikyo-u.ac.jp/hospital/newsandtopics/20100908.html

では、同病院の感染対策の問題点や解決策が具体的に提示されていました。

制圧が難しい細菌のアウトブレイクへの対応策構築には、正確な情報収集と専門的な分析による真相解明が必要となります。
その際に、所轄官庁が医療現場の状況を十分認識せずに不十分な情報をメディアにリークすること、司法当局が加罰を目的とした捜査を始めること、メディア各社が責任追及を優先して関係者に取材することは不適切な対応と考えます。

個々の医療従事者は、医療に関連した感染症の予防と制圧をつねに心掛けています。
しかし、実際は、医療に関連した感染症を根絶することは、現代の医学をもってしても不可能です。更に、診療報酬抑制政策が長期に及んだことから、経済的 な制約や人材不足が生じ、医療機関における感染症対策構築の足かせとなりました。多くの医療機関では、質の高い感染対策専門職は充足されず、専門職として の十分な時間と権限をもって活動できるための支援もなされていません。

故意ではなく、医療の結果が望ましくなかったという理由で捜査当局が調査に介入すれば、医療の現場は萎縮し、積極的な、侵襲的な医療を妨げる結果になり かねないことは、福島県立大野病院事件などの刑事事件をみても、明らかです。このような対応を繰り返すことは、今後、リスクの高い患者さん、重症の患者さ んや耐性菌を保菌している患者さんを受け入れる医療機関が消滅するという結果を招く危険性があります。

現在、国際的には、医療事故や航空機事故などの高度なシステムの中で生じた事故においては、個人の責任に帰す刑事責任の追及は真相解明にはかえって不向 きであると認識されています。加罰を前提に”医療事故”に臨むことは、真実を見失う可能性が高く、再発防止の効果も上がりにくいのです。それは社会全体の 利益を損ない、ひいては”医療崩壊”を加速させる結果ともなりかねません。

多剤耐性菌感染症のアウトブレイクを予防するためには、各病院での院内感染防止システムの確立と、最新知識のアップデートが重要であることは論を待ちま せん。その上で、所轄官庁の役割は、各病院をサポートするために、病院が感染症対策エキスパートの助言を受けられる体制を作り、治療薬を必要に応じて迅速 に承認して調達し、感染症対策予算を確保し、関係法令の更新を怠らず、関係省庁の連携をとるなど、国の制度や行政システムを改善することです。

闇雲に通達を連発して無意味な報告書を徴取することや、患者の救命に努めた現場の医療従事者の中から「犯人探し」をして、処罰に汲々とすることは、官僚 の保身と責任転嫁に他なりません。所轄官庁、捜査当局、メディアの関係者の方々には、今一度、WHOのガイドライン WORLD ALLIANCE FOR PATIENT SAFETY / WHO DRAFT GUIDELINES FOR ADVERSE EVENT REPORTING AND LEARNING SYSTEMS(患者安全のための世界協調 / 有害事象の報告とそれに学ぶシステムについてのWHOガイドライン草案)を熟読された上、慎重な対応をとっていただくことを切望します。

また、医療事故での真実を明らかにするためには、適切なピアレビューの仕組みを構築し、そして医療事故に遭われた患者さんの被害の救済を同時に行うこと が 必要です。全国医師連盟では、「医療の安全確保と診療の継続に向けた医療関連死および健康被害の原因究明・再発防止等に関する試案

http://www.doctor2007.com/taian1.html を提案しています。

全国医師連盟 2010年9月10日

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