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Vol. 292 厚労省はどこまで「Gメン」を強化すれば気が済むのか

医療ガバナンス学会 (2010年9月14日 06:00)


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厚労省はどこまで「Gメン」を強化すれば気が済むのか

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

2010年9月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


7月22日 厚生労働省は長妻厚生労働大臣の出席のもと、「政策コンテスト」の第2次(最終)審査を行ないました。
政策コンテストとは、2011年度の新施策のアイデアを全国の厚労省職員から募集し、優秀なアイデアは施策として実現しようというものです。

審査の結果、医療関係では2つの政策が最終候補に残りました。1つが「対医療機関等に対する指導監査部門の統合等」、そしてもう1つが「保険医療指導監査部門の充実強化」です。このうち、前者が優秀賞を獲得しました。

■「医療機関の指導監査をもっと強化しよう」という意思表明か?

奇しくも、2つとも医療機関に対する指導監査部門を強化しようという内容です。
この指導監査部門とは、以前、コラム「悪意の『不正請求』を行っている医師なんていない」(http://medg.jp/mt/2010/05 /vol-184.html#more)で取り上げた、社会保険支払い基金や国保連合会による医療機関に対する毎月のレセプト審査とはまた別の部門です。

医療業界では俗に「Gメン」とも呼ばれる仕事で、医療機関の指導・監査、および場合によっては保険医療機関の指定取り消しなどを行う部門のことです。

前者の政策「対医療機関等に対する指導監査部門の統合等」が問題としていたのは、現在、指導監査を行う際に、特定機能病院は地方厚生局、それ以外は都道府県などが実施するなど縦割りで行っているため、横の連携がうまくとれず、情報共有が不十分という点でした。

また、後者の政策「保険医療指導監査部門の充実強化」は、捜査のプロである警視庁あるいは警察庁の人員を厚労省に出向という形で受け入れようというものです。捜査のプロが指導監査を行えば、不正請求の告発が円滑化されるという提案でした。

私はこれらの政策に意味がないと否定したいわけではありません。

しかし、厚労省全職員が参加した政策コンテストにおいて、医療関係で最終選考に残ったのはこの2つだけだったのです。

厚労省は来年度の医療政策において、他の何を差し置いても「医療機関の指導監査をもっと厳しく改革したい」という意思を示したのではないか──。こう感じてしまうのは私だけでしょうか?

■指導監査の理由は明らかにせず、第三者の立ち会いも原則禁止

指導監査される側にしてみると、縦割りでそれぞれの部署が指導監督に来ては、確かに負担となります。その指摘はもっともらしく聞こえるかもしれません。

しかし、指導監査を受ける医療機関にとって一番問題なのは、各部署が別々に指導にくることではありません。

指導監査に至った理由(選定理由)が開示されないことが、一番のストレスなのです。

「指導対象(医療機関)に選定理由を言わないのが基本」とされているのです。それだけではありません。指導を受ける医師が自院のスタッフ以外の人、例えば知り合いの医師や弁護士などに個別指導の場に同行してもらうことも原則的に禁止されています。
つまり、指導監査、そして告発する側に権限がありすぎるのです。

現在も、問題のない多くの医療機関と医師が「不正請求」の疑いをかけられて指導監査を受け続けています。この指導監査は、過去には自殺者を出しています。その前段階の「うつ」状態になってしまった医師がその数百倍いるのは間違いないでしょう。

■「指導権限の強化で不正請求がもっと見つかる」というまやかし

現在、支払い基金による査定に加えて、厚労省はこのような「Gメン」による個別指導を年間に合計4000件近く行なっています。その上で厚労省は、「現在見つかっている不正請求は氷山の一角に過ぎない。さらなる指導監査の強化が必要である」と主張しています。

では、政策コンテストで示されたように、医療機関への指導監査の権限を強化して、警察の人員を加えた査察チームを編成すれば、これまで以上の不正請求を見つけることができるのでしょうか?

私はそうは思いません。

ここで言う「不正請求」とは、診療していない人たちの保険請求を行なう「架空請求」および診察内容の水増し「付増請求」(2回の診察を3回にするなど)のことです。
いくら指導監査の権限を強化しても、チェックするのはカルテおよびレセプトのみです。カルテとレセプトが一致しているかを詳細にチェックするだけで、架空請求や付増請求を見抜くことは不可能です。

本当に不正請求をチェックするためには、実際に診療を受けた利用者(患者)への調査が必要不可欠なのです。

利用者への聞き取り調査なしで、カルテとレセプトだけのチェックを強化することは、「不正請求」ではなく、悪意のない「不当な診療」を行なっている医療機関と医者に対する告発を量産するだけでしょう。

「不当な診療」とは、保険ルールをきっちりと守っていない診療を指します。しかし、保険点数表は1000ページ以上にも及び、あまりにも複雑すぎるため、この「不当な診療」に当てはまらないようにするためには、とてつもない労力が必要になります。

一例を挙げてみましょう。ピロリ菌が退治できたかどうかを調べる検査(除菌判定検査)を行った際に、患者さんがピロリ菌除菌治療薬を飲み終わった 日をうっかり記載し忘れてしまったとします。すると、実際にしっかり診断した上で検査を行っているにも関わらず「不当な診療」となってしまうのです。

実際には指導監査で引っかかっているのは、「不当な診療」がほとんどです。保険診療のルールが十分に解釈できていなかった医療機関が「不正請求」の疑いのもとに指導監査の対象となり、実際に行った診療の自主返還を強いられているのです。

■そもそも指導監査は何のために行うものなのか?

本来、厚労省の指導監査は、適正な診療報酬の請求を徹底させるために行なわれるべきものです。決して、医療機関と医師の告発を主目的にしたものではないはずです。

ですから、「選定理由を開示すると対策を立てられてしまうから、開示できない」という理屈は、あまりにも指導監査の真の目的からかけ離れてしまっている気がしてなりません。

「悪い点がなければ堂々と指導監査を受けろ」と言われても、悪意はまったくないけれどミスをしたという「不当な診療」まで、自主返還という形で診療報酬の請求権放棄をさせる指導がまかり通っているのが現実なのです。

指導監査は告発や自主返金させるために利用されるものではなく、問題点の收集に重きを置くべきだと思います。

だから、指導の場で不適当な部分があった場合には、なぜ問題が起きるのかを分析することが大切なはずです。そして、現場が動きやすい方向に医療制度を変えていく。

厚労省はそのための努力をするべきだと私は思うのでした。

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