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Vol.22133 医学部地域枠制度は国家ぐるみの犯罪ではないのか(2)その1

医療ガバナンス学会 (2022年7月7日 06:00)


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50代勤務医
匿名希望

2022年7月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●新専門医制度の影響で地域枠制度の改悪が進んだ

地域枠の学生募集要項には、たいてい「卒後12年から18年のうち、奨学金が貸与された年数あるいはその1.5倍の期間(6~9年間)指定地域病院に勤務すること、そのうちの3~4年間は過疎地で勤務すること」などの義務要件が記載されている。受験生はそれらを理解し出願していたつもりだった。しかし、2018年に新専門医制度が始まると、いくつかの大学では、この年以前に入学した学生の義務年限に、新専門医プログラムの必要年数(3~5年間)が加わることより、齟齬が生じることとなった。多くの大学では、後期研修は県外でできないとされているが、一部の大学では指定地域の病院勤務と後期研修を要件にしていたため、義務履行と専門医取得を両立させるには実質的に義務年限(拘束期間)を増やすしか手段がなくなってしまったためだ。また指定地域の病院の中には規模が小さく専門医プログラムが充分用意されない所もある。
義務年限が卒後12年のうち6年間の勤務だと聞いて入学した学生たちも、暗黙のうちに『初期研修2年間+後期研修3~5年間+過疎地3~4年間=合計8~11年間の勤務義務』とされ、当初の約束の6年間で義務(拘束期間)が終わることは不可能となったことを悟った。そこで、大学や県は義務要件について解釈変更や後出しなどをするようになった。これに気づいた学生の中には、当然奨学金を返済して離脱を考える者が出てきた。すると、それを阻止するため厚労省は、地域枠制度を離脱した学生の研修を受け入れた臨床研修病院に対して、補助金の減額や指定の取り消しの可能性を通達し、地域枠制度の学生名簿を各研修病院に配布した。日本専門医機構は、都道府県の同意を得ていない離脱者を研修に参加させず、専門医としても認定しない方針を打ち出した。このように新たな後出しルールで、専門医にしないぞと脅すことができる仕組みができていった。

●医学連公開質問状 山梨回答書と島根回答書の比較

一般社会と違い、地域枠では10%の利息で貸し付けることは珍しいことではないが、山梨県の回答によると、それに加えて高額な違約金を勤務年数に応じて設定している。例えば、卒後1年目に返済する場合は748万円+貸与した奨学金全額に10%の利息を含めたもの、卒後2年目では655万円+貸与した奨学金全額に10%利息を含めたものを一括返済するというものだ。( https://www.igakuren.jp/cms/wp-content/uploads/2020/12/回答書.pdf )
しかも、県の担当者と話したことがある学生によると、たとえ高額な違約金を支払ったとしても、今後は離脱は認められず義務は残るとして運用される予定だという。しかし、かろうじて救いなのはこのルールを適用されるのが願書で予め予告し設定された年度の入学者からであり、遡っての在校生や卒業生に影響がない点だ。

一方、島根県の違約金は利息10%であるが、島根県と島根大学への公開質問状への回答を見ると、「これまでの制度改正により、入学枠毎、奨学金の貸与開始年度毎に義務の内容が異なる」 と毎年、義務の内容が変更されている。驚くのは、新しくできた決まりを設定された年度の入学者だけでなく、在校生や卒業生にまで当てはめていることだ。例えば、学生募集要項に予め記載がなくても診療科制限を設けていたり、離脱を認めない等だ。また、難解な記述がされ、様々な大学の地域枠について深く勉強している医学連の学生たちでさえ「令和 4 年度の学生募集要項の出願資格の欄に従事要件の記載がありますが、県の医学生地域医療奨学金が返還免除になる要件と微妙に異なっており、理解しづらい部分の一つです。」と質問状に記載している。( https://www.igakuren.jp/cms/wp-content/uploads/2022/05/ ★【送付用】島根大学医学部地域枠に関する公開質問状-回答-コピー.pdf)

●学生募集要項をしっかり確認するようにというが 無理

山陰地方の鳥取大学と島根大学は、偏差値や受験科目等共通点が多い。一般入試前期試験地域枠の学生募集要項に記載されている選抜方法も共通で、『医学科で「地域枠」と「一般枠」を併願する者の合否判定は、「地域枠」を優先して行います。「地域枠」で合格者とならなかった場合、「一般枠」として選抜の対象となります。』のように 選抜基準はまったく同じである。
両大学の「奨学金の返還について」を一部抜粋すると、「鳥取県医師確保学生奨学金の手引き」には、「返還免除となる条件を満たせなかったとき又は満たすことができないと認められるとき」「県内病院等における従事期間が、奨学金の返還が免除される条件に相当する期間以上 通算して従事しなかったとき、又は従事する見込みがなくなったとき」に奨学金を一括返済することとの記載がある。
他方、H29以前の「島根県医学生奨学金の手引き」では、「指定医療機関に勤務する意思がなくなったことにより、奨学金の貸与を辞退したとき」「医学生地域医療奨学金の免除の要件を達成できない見込みとなったとき」に奨学金を一括返済をすること とほぼ同様のことが記載されている。
どちらも義務が果たせなくなれば奨学金を返済する旨が書かれているが、実は、制度の運用はまったく対照的で、鳥取県はお金を返せば義務はなくなる=離脱可能であるが、島根県はお金を返しても義務がなくならない=離脱不可能 として運用されている。お金を返しても解除されない契約は奴隷年季奉公と言える。どちらの大学を選択するかで将来がまったく変わってしまうことになるが、似たような記載でもそれがどのように解釈され運用されるのか、高校生には知る由もないだろう。

● 和歌山医大産科枠  前の学長は「卒業させないこともあるのでは」

和歌山医大の地域枠の中に産科枠が作られた。和歌山医大地域枠の募集要項R4年度には、義務が履行できない時には奨学金を返済することと書かれている。しかし、上記のような自治体の運用が容認されている現状であるので実際のことはわからないかもしれない。月刊選択6月号p112には、和歌山医大の前の学長が、他大学のお金を返して離脱する学生に対して、「卒業させないこともあるのでは」と発言された旨が載っていた。現在の和歌山県や大学関係者が、学生本位の善良な考えを持たれていても、長期契約の途中でトップが変わり、方針転換をすることも有るかもしれないと受験生は考えておく必要があるのではなかろうか。

●後出しとあいまいな要件を押し付ける旭川医大の不誠実な対応

6月に配信されたabema TV primeの「医学部の地域枠とは」では、制度を良く知らない人達でさえ、入学後の後出しや変更は許されないのではないかという意見であった。定員の約半数が地域枠の「旭川医大医学科・看護学科生対象「これからの旭川医大に関するアンケート」結果について」(https://amu-normalization.com/wp-content/uploads/2021/07/questionnaire-survey-results-01.pdf)
(2021-7-12) を見ると、後出しの条件変更や元々の契約のあいまいさを利用し、大学側が学生に無理やり暗黙のルールを押し付けようとしていることが分かる。以下に学生達のコメントを要約し掲載する。

「地域枠制度の説明が入学前、入学後、卒業前と時期によって変化してゆき、大学や医局にとって都合がいいように解釈されていると感じます。入学時の宣誓書には入局の必要性については言及されておらず、地域枠の義務年限も明記されておりません。部活の先輩や実習中に情報を集めて、どのようなキャリアプランを描けるのか独自に理解するしかなく、解釈の余地が多い宣誓書はトラブルの原因となっていると思います。」 「地域枠の学生にキャリアプランをしっかり示して、暗黙のルールで学生に制限を課すのはやめるべきだと強く感じます。」【医6】
「条件を破る先輩が出たことを批判する先生方もいるようですが、そもそも大学側が提示していた条件が違うこともその一因ではないでしょうか。暗黙の了解的にルールを作るのではなく、はっきりとルールを作ってください【医6】
(大学からの)支離滅裂な回答で、暗に一生縛り付けることを伝えてくる。こういう話をあちこちから聞くため、本当に学生・医師を大切にしているのだろうかと疑問に思う。」「それぞれで解釈が分かれるような制度ではなく、期間・離脱条件等をもっとクリアなものにしてほしい。」 「(ある)教員などは、離脱する学生に対して怒りをあらわにしていたが、はなから離脱するつもりで入学した人はほとんどいないと思う。むしろ、入学後に上記のような脅迫をされることで、大学への信頼がなくなり、そこに軋轢が生じているような気がする。」【医4】
「地域枠制度の不透明さ。契約書類と強要されることの相違がある」【医6】
「卒業後の進路を入学時点で縛る制度を見直す必要と詳細の記載がないことが問題である。後期研修終了とはどの時点を示すのか?どのような待遇なのか?など将来職場を限定する効力を持たせているにもかかわらず十分な説明が、入試資料にも、入学後にも説明がない。非常に無責任な対応だと感じる。」【医2】

●奨学金と勤務義務についての国の考え 地域枠・自治医大・産業医大

H30.7.26医道審で、厚生労働省櫻本医師臨床研修専門官は、学生募集要項に載せている地域枠の従事要件と奨学金の関係について以下のように発言している。
(https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000452370.pdf )
「これは、県によって返答の仕方はそれぞれ違うかと思うのですが、代表的な意見を少し載せさせていただいた資料2の最後のページ、14枚目にございますように、もともと地域医療の従事義務のかけ方が、例えば9年間働いたら返還が免除になりますよというようなかけ方になっている場合、返還すると、逆に、地域枠の従事はしなくてもいいのではないかというような解釈になるようで、これ自体が民事上の契約ですので、お金を返すという意思があった場合にはなかなか断れないというような意見をいただいております。」
これを受けると厚労省は奨学金を返還すれば従事要件は外れると考えているようだ。

自治医大の奨学金については、第204回国会 厚生労働委員会 第9号(令和3年4月7日)で以下のように担当者は述べている。渡邊政府参考人「お答え申し上げます。自治医科大学は、僻地等の医療を担う医師の養成を図るために、私立学校法に基づき、全都道府県が共同で設置した私立大学でございます。この大学の学生は修学資金の貸与を受けて学ぶことになりますが、この修学資金につきましては、卒業後、原則九年間、僻地等の医療機関で勤務することによりまして返済が免除されることとなっていると承知してございます。そして、この期間中に勤務を離れた場合には、修学資金に加えまして、この資金に一〇%を乗じた額を大学に返済することとされてございます。」と自治医大の奨学金についても、勤務義務の中途で辞める時には利息をつけたお金を返済する決まりになっているようだ。

産業医大については、前の加藤厚労大臣が国会で以下のように説明している。(196回国会 厚生労働委員会 第35号(平成30年7月11日)加藤国務大臣 「今委員がおっしゃった、百五人に対して三十何人という数字ですから、三割ですよね。私どもの手元では、義務年限を果たした卒業生全体で見ると、八三・三%の人は産業医あるいは産業医科大学の教員、労災病院の医師等として、産業保健分野で中心的な役割を果たしているというふうに認識をしておりますので。まあ、まだ一七%ぐらい、されていない方もいらっしゃいます。そうした産業医として従事する意思がない場合には、貸与期間の一・五倍に相当する期間を産業医として従事した場合には返還が免除されるということですから、逆に言えば、その分お返しをいただくということになるわけであります。」と産業医大についても、途中で辞める人はお金を返すしくみであると説明している。

地域枠については最近でも、前の田村厚労大臣がR3.4.7第204回国会厚生労働委員会で、「地域枠の奨学金について(地域に)残らなければお返しいただくという運用をしている」と発言されている。

つづく

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