医療ガバナンス学会 (2022年7月6日 15:00)
北海道大学医学部
金田侑大
2022年7月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
A. Party.
昨年9月から今年の6月まで、英国エディンバラ大学に留学させていただいておりました、北海道大学医学部の金田侑大です。冒頭のQ&Aは半分冗談、半分本気ですが、留学先のエディンバラ大学では、非常に充実した時間を過ごすことができました。その理由として、コロナ禍においても、学生の学びに対するバックアップが大変充実していたことが挙げられます。その内容はこれまでMRICで紹介させていただいたような、校内でのワクチン接種や、抗原検査キットの無料配布、各所に設置されたブースでの無料PCR検査や、陽性が判明した際の隔離期間に対する補助金( http://medg.jp/mt/?p=10591 )、授業のオンデマンド配信( http://medg.jp/mt/?p=10774 )などにとどまりません。他のサポートとしては以下のようなものがありました。
(1)授業のキャンセル補償
コロナ感染やストライキなどを理由に授業が1度でもキャンセルされた場合に、1人300ポンド(≒5万円ほど)までの補填をしていただけます。例えば、留学生が英語の授業をとっていて、その授業が1コマ休講となったような場合、代わりにオンライン英会話を受講したことの証明書や領収書を提出すれば、大学がその分の費用を負担してくれる、といった感じです。私はデータアナリシスや公衆衛生の授業が休講となったのですが、その分野に関して買った本の費用(合計1万円程度)を大学に申請中です。
(2)論文の無料取り寄せサービス
基本的には、エディンバラ大学のサイト経由で多くの論文にアクセスすることができるのですが、中には閲覧できないものもあります。そのような場合に取り寄せ申請を行うことができ、2〜3日で無料閲覧できるようになります。私は15本程度申請して、全て取り寄せていただきました。エディンバラ大学は学習コンテンツに関しては本当にサポートが手厚く、例えばEndnoteやSTATAなども、無料でダウンロードすることができます。
(3)試験のオンライン実施
試験は基本的には対面での実施なのですが、コロナ対策としてオンライン形式での試験も準備されています。特に、デルタ株が流行していた前期(2021年9月~12月)は、殆ど全ての科目が試験をオンラインで実施していました。試験を受ける期間も、12月15日~22日の間、といった感じで余裕を持って設定されており、都合の良い日の好きなタイミングで受験することができます。また、問題はデータベースからのランダム出題となっているため、試験は上記の期間に2回受けて、高い方の点数を成績評価として採用できる、といった形式になっていました。
(4)Coursework ExtensionsとSpecial Circumstances
万が一、体調不良やパソコンのトラブル、部活の大会への参加などで、課題やテストの提出が間に合わない場合に使えるのがCoursework ExtensionsとSpecial Circumstancesです。
Coursework Extensionsは文字通り提出期間を延長してくれる措置であり、申請が認められると最大で1週間、課題の提出の猶予を与えられます。また、こちらの申請には特別な書類(医師の診断書や大会の参加証明)なども必要ありません。一方でSpecial Circumstancesの申請には、その状況を証明する書類の提出も必要となりますが、申請が認められた場合には、課題の提出期限を、担当教員との相談のもと、任意で伸ばすことができます。
特に驚いたエピソードが1つあるので紹介します。課題の提出が間に合わず、写真1のように書いて、ダメ元でCoursework Extensionsを申請したことがあります。(和訳:彼女が浮気をしていたことが発覚し、その整理に追われ、精神的に病んでいます。カウンセラーに相談しようと思っています。) すると、すぐに申請が通ったばかりでなく、証明書類等がないにも関わらず、”Special Circumstancesとしても認められるよ”との返事をいただきました。(写真2,3)
写真1,2,3
http://expres.umin.jp/mric/mric_22132.pdf
私は北大の2年生の1月頃に鬱病を罹ってしまい、受けるテストを左から右に落としてしまっていた時期がありました。北大では、普通の科目は再試験があるので、なんとかその時期までに心を回復させて単位は回収することができたのですが、ある科目の教授は、なぜか再試験をやってくださらない方でした。その際、診断書も提出しに行ったのですが、教務からは”成績を付けるのは各教授なので、直接相談しに行ってください”と伝えられ、直接相談しに行ったときに教授からかけられた言葉は、”個別に配慮することはできません”という一言のみでした。
この経験があったため、エディンバラ大学が真実かどうかは抜きにして、このたった3行で課題の提出期限の延長を認めてくれたことは、なかなか衝撃的でした。そして、北大に比べてエディンバラ大学は、学生のメンタル面の問題をはるかに重い問題として認識しており、それが学生生活に不利にならないような個人個人への配慮も行き届いているなと、より実感するに至りました。おそらく、日本の大学では、パートナーが浮気して辛い、と泣きついたところで、全く相手にしてくれないでしょう。
他にも、コロナ隔離期間中の食料提供や、留学生の課題提出サポートなどもあったようです。図書館1つをとっても、コロナを理由に日本の多くの大学が開館時間を短縮していたのに対し、エディンバラ大学では、外部の人の利用こそ中止されていたものの、学生は24時間、いつでも学べる環境が整っていました。以上のように、コロナ以前から、学生が主体的に学べる環境を目指した大学づくりが行われていたことが、コロナ禍においても、エディンバラ大学での質の高い学びに繋がっていたのだと思います。
しかしながら、日本では、学生を主体とした大学のあり方に関する議論は、どうやら後回しにされているようです。例えば、東京大学教養学部は本年6月6日、新型コロナウイルスの感染が疑われる場合などの前期教養課程における試験の代替措置を、本年度の試験では行わないことを発表しました。これにより、新型コロナウイルスへの感染が疑われ、試験を受けられない場合、成績評価が不可(もしくは欠席)の場合と同じ対応が取られる見込みのようです。追試験が受験できるのであればまだしも、科目によって申請できる科目とできない科目があるようです。
どれだけ注意していても感染のリスクは誰にでもあるわけで、東京大学が今回行った決定は、感染は自己責任だと学生を突き放しているように感じます。6月13日に東京大学教養学部学生自治会は学部宛てに措置継続を求める要望書を提出していますが、6月30日の段階では、まだ代替措置の再検討を行っていないことを教養学部は述べています。大学側はその理由として、審査の信頼性が担保できない状態にあるためだと述べています。すなわち、今回の代替措置廃止の決定は、本来、代替措置適用の可否は診断書などの根拠書類に基づき審査を行う想定でいたものの、感染拡大期の保健所機能のひっ迫などで、濃厚接触者の場合は根拠書類の提出などが難しく、実質的に学生の申し出のみによる決定となっていたことによるものとなっているということが、今回の決定の背景にある要因として挙げられています。
これは、書類がなくてもCoursework Extensionsを認めてくださったエディンバラ大学が行っていた対応とは真逆です。大学での学びの主役は学生だという意識が、日本の大学では足りていないのではないでしょうか。もっと学生が大学に求めている声を拾い上げ、コロナ感染が疑われた場合でも、学生が不利益を被らないようにサポートできる環境、コロナ禍においても主体性を持って学生が学べる環境を整えること。それこそが、今の日本の大学が世界の名門大学と肩を並べるために、まず行うべき改革ではないかと私は思うのです。
最後になりますが、今回の留学において、日本から送り出してくださった家族や友達、多くの先生方、北海道大学の皆様、エディンバラに行く前、行ってから関わってくださった全ての方々、私がコロナ禍においても、スコットランドの地で、自分らしく充実した毎日を送ることができたのは、皆様からの手厚いサポートの賜物です。本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
【金田侑大 略歴】
フラウエンフェルト(スイス)出身。母は日本人、父はドイツ人。私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、北海道大学医学部医学科4年に在学中(2年目)。2021年9月から2022年6月まで、イギリスのエディンバラ大学に留学し、医療政策や国際保健を学んでいた。日本に帰ってきて一番初めに食べたのはてんぷら蕎麦。フィッシュ&チップスでは決して見つけられない揚げ物の美味しさに感動しました。