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Vol.22134 医学部地域枠制度は国家ぐるみの犯罪ではないのか(2)その2

医療ガバナンス学会 (2022年7月8日 06:00)


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50代勤務医
匿名希望

2022年7月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●国会議員の発言  庶民医師の人生にも想像力を

立憲民主党吉田統彦(医師)議員は、H30-7-11第 196回国会 厚生労働委員会 第35号で「(自治医大の勤務義務を達成できない人に対して医師の養成には多額の税金が投入されているのだから)違約金を2億円にしたらどうか」、別の日には、「私の勤務医時代の友人の娘さんがバレエ、スケートを習っていてお金がかかるから勤務医の給料を上げてもらいたい。」のようなことを発言されていた。身内に甘く他者(若者)には厳しい、利益誘導型政治家のようだ。庶民出身の若い医師の人生について思んばかることもないのだろう。ご自身が医師から転身して出馬される時には何かしらの違約金を支払われたのだろうか。自分ができないことを他者(若者)には押し付けているように見える。

一方、立憲民主党井坂信彦議員は令和4年5月20日厚生労働委員会で「医学部地域枠で奨学金を返しても離脱を認めない等は度を越してやりすぎ、以前は離脱要件は明確でなかったし、返せば離脱できると思い入学した人もいる。(お金を返しても辞めさせないのは)常軌を逸している。国会議員も選挙に当選したら任期いっぱい務めるべきだが、中にはやむを得ない事情で、知事選挙、市長選挙に鞍替えをすることもある。議員も医学生も人生には予想外のことが起こる」と当事者目線の発言されている。自分たちができないことは若い世代にも強要しないことは至極まっとうな考えに思える。
医学連の「学費・奨学金に関するアンケートの集計結果について」では、医学生が大学選択にあたって学費を判断基準とした学生は約78%であり、4割の学生が奨学金を利用していると回答している。(https://www.igakuren.jp/igakuseidata/2019/11/325.html)
政治家には庶民医学生の生活や人生にも想像力を働かせて頂きたい。

●公共の福祉を理由にした人権制約は日本だけ

小林よしのりコロナ論4で、横大道聡慶応大学法務研究科教授は「日本の「公共の福祉」を理由にした人権制約を世界が問題視している。国が人権を制約する時、日本では公共の福祉の一言で済ませている。日本は国連の規約人権委員会で人権条約を結んでいるのですが、それに基づいて国連から色んな指摘があって、その中でここ2回位連続して日本の公共の福祉という言葉がおかしいと指摘を受けているんです。」と述べている。
また、世界的に現在の奴隷法では、年季奉公でさえ奴隷労働であると定めている。(https://www.astellas.com/jp/sustainability/uk-modern-slavery-act 英国現代奴隷法への対応 アステラス)

●受験生へ  地域枠はとても勧められない

地域枠に入学することは18歳から約20年前後の間、公権力に直接介入され支配されるということだ。入学後に、聞いていた話と違うとか、ここにはこう書いてあった、○○先生はこう説明されていたと学生側が正しいことを主張しても、国家は嘘を付くこともできるし、責任も取らない。いわんや自治体をや。
医学連アンケート(2021年度)では、入学早々の説明会で「お前ら信用がないからお前らの世代からは(地域枠から)逃げられない。」と高圧的な口調で言われた事例も紹介されている。( https://www.igakuren.jp/cms/wp-content/uploads/2022/05/【完成版】地域枠・地域の医師確保に関する全国調査2021年度版%E3%80%80報告書.pdf )
以前は実態が知られていなかったため、地域枠にも優秀な学生が出願しており、競争率それなりに高かったが、現在はその頃の2~3割の出願しかない大学もある。厚労省分科会では、義務年限を終えた医師をどのようにして縛ろうかという議論が進行中である。自分の人生を守るためにはなるべく国家権力から遠ざかることをお勧めする。

●地域枠の定義と専門医認定について 良識の格差で対応が分かれる自治体

地域枠は、従来統一された定義がなく曖昧で、都道府県ごとに内容に差があったため、
第35回医師需給分科会(R2-8-31)から、全国の地域枠の定義が明確化され、離脱要件が受験生に明示されることとなった。離脱は死亡や退学の時と実質離脱は不可能な厳しい内容だが、以前は離脱要件を知らされずに入学することもあったため、明示は必要だと考える。( https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000665192.pdf )
その後、日本専門医機構(2021-2-22)「専門研修制度における地域枠等医師の取扱いと専門医の認定について:都道府県と同意されないまま、当該医師が地域枠として課せられた従事要件を履行せず専門研修を修了した場合、原則、専門医機構は当該医師を専門医として不認定とする。」という注意書きが機構HPに掲載されることになった。
( https://jmsb.or.jp/senkoi/#an16 )
本来、地域枠の運用を全国で統一するためのこれら新たな二つのルールの導入だったが、各自治体の解釈には良識の格差が表れた。たいていの自治体は法の不遡及の原則を鑑み、このルールが出来た年度以降に入学した学生から適用することとし、この年までに入学した在校生や卒業生には当てはめないこととした。現代日本では、権利義務の制限の遡及(=さかのぼり=後出しじゃんけん)は認められていないからである。

三重県では、「不同意離脱をした人が求めに応じ、義務要件の一部を履行した場合は、話し合いにより不同意離脱を解除することができる。」とされている。( https://www.mie-u.ac.jp/exam/19医学部医学科%E3%80%80地域枠における卒後の従事要件等の取扱いに関する要項(説明用).pdf )(三重県医療保健部 地域枠における従事要件等の取り扱いに関する要項R3-8-25)

高知県は道義的責任をいち早く取り入れた地域だが、「令和2年度末までに離脱した人には離脱時に全国的な対応や県の同意基準についての説明をしていないため県から国に対して不同意離脱者と報告はしません」と発表している。ここで言う離脱とは奨学金返済のことと考えられる。
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11722523/www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/131301/files/2021052700210/file_2021824295915_1.pdf

佐賀県は「県が離脱を認めない場合はペナルティー措置が課せられることから、大学入試を実施する前の時点で、入学後の従事要件及び離脱要件を受験者に明示することが望ましい。」と示している。(https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00380747/3_80747_209275_up_yns57niz.pdf)
一方で、良識のない自治体の中には、どんな手段を使ってもと白い巨塔顔負けの権力を使った運用を始める所も出てきた。下記のように、自治体が専門医認定の同意・不同意を行う権限を持つのは、本来嘘をついてまで県外で研修する人に対するものであったはずだ。ところが、一部の自治体はこれを恣意的に解釈し、このルールが出来る前に入学した若者に対しても専門医にしないぞと脅しながら地域貢献をさせているようだ。
2021.9.17.配信のGEMNET 記事には『2020年7月の専門研修部会では、「地域枠出身の専攻医が、都道府県の同意を得ずに(例えば虚偽申告などで)、別の都道府県の医療機関で研修を受ける」場合(いわゆる離脱)には、新専門医の資格を付与しない(資格付与には都道府県の同意が必要)という仕組みが設けらた。しかし、従前に地域枠として医学部に入学した医師・学生にとって、そうした仕組みは「寝耳に水」「不意打ち」であるとの見方もでてくる。なぜ、後からできた、自身が納得していないルールに縛られなければならないのかとの反論もあり得る』( https://gemmed.ghc-j.com/?p=43098 )とある。

●柔軟な運用をするほど離脱率は低い

令和2年度地域枠入学制度と地域医療支援センターの実情に関する調査報告
( https://ajmc.jp/wp/wp-content/themes/ajmc/documents/pdf/activities/area-committee/2020_chikiwaku-R02.pdf ) のP23

によると、令和2年度時点での制度総数(各大学の制度数の合計)は164枠あり定員総数は1542人であった。
令和元年度までの入学者全体11516人中、離脱者は337人で離脱率は2.9%である。平成20年から23年度入学生2440人中、離脱者は298人で 離脱率12.2%であった。
集計によると、離脱率が高いのは私立で奨学金のない地域枠であった。離脱率が低いのは奨学金がなく義務年限が比較的短い、また義務内容の自由度が高く大学が設定した専門医プログラムに参加などの柔軟なキャリア形成が可能のものであった。337人の離脱理由のうち、最も多いものは「その他個人的理由」52.5%、「県外への居住地変更」19.3%、専門医研修は5.3%であった。地域枠からの離脱の判定時期については、(奨学金を支給する地域枠)では「奨学金の返還をした時とし、(奨学金を支給しない地域枠)のそれは「指定の病院等に勤務しないか県外に転出などで所定の義務を履行しないことが明らかになった時」とした。
様々な名前や形態をとって募集する地域枠だが、その分実態もわかりにくく、義務年限が短く柔軟で魅力的な地域枠からは離脱が少ないことがわかる。
●最後に

真の意味で地域枠制度が成立するのは、学生と自治体にwin-win situationが成り立つ時である。地域枠制度の趣旨は、医師不足の解消と医師個人のキャリア形成の両立(全国医学部長病院長会議)とされている。しかし、医師の養成の段階で、騙し打ちをされたり愛情をかけて育ててもらえなければ、愛情を持って患者さんに医療を提供することはできないのではないか。高校生に対して抽象的な契約で勧誘して後から解釈変更をするのは女衒の手口であり、お金を返しても解除されない契約は契約奴隷そのものである。民間でこんなことをすれば罪に問われるだろう。当局は、早急にこれら官製詐欺のような実態をしっかり調査検証し、速やかに改善して頂きたい。

参考文献
月刊選択2022-6月号「日本のサンクチュアリ573 医学部地域枠制度 医師奴隷奉公のからくり」

週刊東洋経済2022-2-19 「病院サバイバル 高額違約金で年季奉公を強要 医学部入試地域枠の不条理」

医学連地域枠アンケート2019年度版 2021年度版

衆議院インターネット審議中継 厚生労働委員会(R4-5-20)https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54001&fbclid=IwAR21RQAW1VQmZmGViMVDbMDXmC9wmo3f6bSRhpJrbFTnv-p58Ctk14MTZn8

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