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Vol.22135 京大小泉・原田調査にふたをするダイキン/高濃度PFOA検出の住民が心配しても(シリーズ「公害PFOA」第13回)

医療ガバナンス学会 (2022年7月8日 15:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2022年7月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2021年秋、ダイキン工業淀川製作所から1キロ圏内に住む男性9人が血液検査を受けたところ、全員から高濃度のPFOAが検出された。最も高い人は非汚染地域の70倍だった。

9人のうちの1人、吉井正人(仮名,69)は、製作所のすぐ近くで採れた農作物を日常的に食べていた。
「もう自分は年やから、あきらめますけどね。子どもや孫たちが心配です」

PFOAに被曝した住民たちの不安が募る中、2021年12月、大阪・摂津市議団が淀川製作所を訪問した。PFOA汚染への対応を質すためだ。

ところがダイキンの回答は、市議団が思いも寄らないものだった。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22135-1.pdf
ダイキン工業淀川製作所=2021年11月15日撮影

●ダイキン社員兼市議が視察団を出迎え

2021年12月9日朝9時半過ぎ、摂津市役所前に1台のマイクロバスが横付けされた。乗り込んだのは6人。摂津市議会で民生常任委員を務める超党派の議員たちだ。市議団はダイキンの淀川製作所へ視察に行くところだった。

前年の6月、環境省の調査で、摂津市の地下水が全国一のPFOA濃度であることが判明した。それ以降、京都大の名誉教授・小泉昭夫と准教授・原田浩二が住民の血液や農作物のPFOA濃度を調査し続けている。市内のPFOA汚染は、報道や議会での追及により、少しずつ市民が知るところになっていた。

6人を乗せたバスは、15分ほどで製作所に到着した。バスを降りた一行は驚いた。ダイキン職員に交じって、同じ摂津市議の三好義治が立っていたからだ。三好は「お〜う!」と手を挙げ、6人を出迎えた。

三好はダイキン労働組合が推薦する市議だ。1989年に初当選して以来、ダイキン社員としての籍を残しながら、9期連続で市議を務めている。社員と市議のどちらの立場で仕事をしているのかTansaが問うた時、「どれを選ぶというか、その時その時の判断基準があると思う」とお茶を濁した。本シリーズの『ダイキンさんはありがたい』で登場した。

●ダイキン「発がん性は漬け物程度」

朝10時、市議団は、テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)棟の会議室に通された。正面にはスクリーンが用意され、2列の長机が並ぶ。正面に向かって右側に市議団が、左側にダイキンの担当者たちが、向かい合うように座った。参加者は次の通り。

摂津市民生常任委員   香川良平(大阪維新・委員長)
水谷毅(公明・副委員長)
増永和起(共産)
南野直司(公明)
光好博幸(自民・市民の会)
森西正(無所属)
ダイキン労組推薦市議  三好義治(立憲民主・市民連合)
ダイキン工業      小原令久(淀川製作所副所長)
小松聡(化学事業部企画部・環境技術渉外専任部長)

まずは淀川製作所副所長の小原令久があいさつに立った。市議たちも自己紹介を済ませる。

10時10分、PFOAに関する説明が始まった。マイクを握ったのは、化学事業部企画部・環境技術渉外専任部長を務める小松聡だ。パワーポイントを使いながらPFOAについて、「発がん性は『あるかもしれない』程度」で「漬け物と同じ」などと説明した。

一通り説明を終えた後、質疑応答が始まった。

市議側は、すでに検査を受けた9人全員の血中から高濃度のPFOAが検出されていることを気にしていた。
「安全安心の観点から、近隣住民の健康調査を実施すべきだと考えますが、御社の対応は?」

ダイキンが答える。
「住民の方の血中から高濃度のPFOAが検出されたとのことですが、測定方法や分析精度が不明であり、また基準値もないため、当社からのコメントは差し控えさせていただきます」

血液検査を実施したのは、京都大名誉教授の小泉昭夫率いる調査チームだ。20年前から、PFOAによる全国の環境汚染や人体への曝露について調査を続けている。2004年には、淀川流域での世界最悪レベルのPFOA汚染を明らかにし、汚染源がダイキンであることを突き止めた。

ダイキンの見解について、小泉は語る。
「この分析は非常に精度が高く、世界標準のレベルです」

主に測定・分析を担った原田も同様だ。
「世界標準の血液試料『NIST SRM 1957』を分析して、正確な濃度を再現できています」

●ダイキン、「飲めるほどキレイなPFOA処理水」は撤回

他の質問にもダイキンは回答をはぐらかした。

Tansaの取材に、共産党市議の増永が語る。
「ダイキン敷地内のPFOA濃度を聞いても答えませんでした。『濃度は下がってきている』というふうに、抽象的に答えるんです。これでは汚染の実態はわかりません」

ダイキンの的を射ない回答に、増永は質問を重ねたが、時間切れを告げられた。残りの質問には、後日書面でダイキンが回答することになった。

一行はTIC棟を離れ、バスで製作所内を移動した。PFOAの処理タンクの前に到着すると、市議団はバスから降りるよう指示を受けた。PFOAの除去システムを説明するダイキンの担当者が言った。
「処理を終えた水は、飲めるほどキレイな水です」

11時半過ぎ、全ての行程が終了した。市議6人は、市役所へ戻るバスに乗り込んだ。三好は市議たちに、「おつかれ〜! 」と声をかけ、ダイキンに残った。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22135-2.pdf
三好義治議員=2021年12月7日撮影、摂津市役所にて

年が明けた2022年1月31日、市議団の元にダイキンから書類が届いた。

一つは、「民生常任委員現地視察における弊社不適切表現の撤回について」と題された文書だ。差出人は、執行役員兼淀川製作所長の村井哲だった。

PFOA処理タンクの前で担当者が言った「飲めるほどキレイな水」という表現が不適切だったとし、撤回した。

もう一つは、市議団からの視察当日と追加の質問への回答一覧だ。全33問に対するダイキンの主張が綴られていた。

そこには、驚くべきダイキンの今後の方針が記されていた。

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2022年2月18日時点のものです。

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●シリーズ「公害PFOA」:https://tansajp.org/investigativejournal_category/pfoa/

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【YouTube番組で解説!】
PFOA汚染と母子(令和の「水俣」No.4)
https://www.youtube.com/watch?v=csXnooscrBk

★ニュース!
2022年6月30日、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが主宰する「PEPジャーナリズム大賞2022」において、シリーズ「公害PFOA」が大賞を受賞しました。

本賞は、「インターネット空間の力強いジャーナリズムが、多様にして包容力と活力のある自由主義と民主主義を育てる上で重要な役割を果たす」という理念のもと、インターネット上で発表された報道を対象に選考しています。課題発見部門、検証部門、オピニオン部門の3つが設けられ、各部門から最も優れたものが大賞となります。今年は65作品の応募がありました。

シリーズ「公害PFOA」は、「審査員全員が調査報道として高く評価」。大賞と課題発見部門賞に選ばれました。

詳しくはこちら:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000045968.html

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