最新記事一覧

Vol.22149 PFOAが母子に影響、世界の研究で続々判明/摂津女性60人の高濃度曝露にダイキンは・・・(シリーズ「公害PFOA」第18回)

医療ガバナンス学会 (2022年7月27日 15:00)


■ 関連タグ

Tansaリポーター
中川七海

2022年7月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

大阪・摂津の女性60人の血中から高濃度のPFOAが検出されていた。60人の平均値は非汚染地域の6.5倍だ。京都大の研究チームが2008年に実施した調査で明らかになった。

原因は、ダイキン工業淀川製作所が大気中に排出したPFOAだ。製作所から出たPFOAは、季節によって風向きを変えながら周辺の府県を覆うように拡散していた。前回報じた通りだ。

工場の周りは住宅地が密集している。摂津市立味生(あじふ)小学校は、工場からわずか45メートルだ。

京大チームは警鐘を鳴らした。
「ダイキン工場の半径4.5キロメートル以内の住民を対象に、胎児および新生児の成長への悪影響を疫学的に評価する必要がある」

世界各国の研究で、PFOAによる女性と胎児への悪影響が次々に報告されていた。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22149.pdf
ダイキン工業淀川製作所の外壁=近隣の子どもたちが描いた

●デンマーク女性2600人の疫学調査
2007年、米国カリフォルニア大学の研究チームが、デンマークの女性を対象にした大規模な疫学調査の結果を発表した。

研究チームが調べたのは、母親のPFOA曝露と2500グラム未満の低体重児の出生との相関関係だ。動物実験でPFOAが胎児の成長を阻害することが判明し、ヒトの調査に乗り出したのだった。

この調査にデンマークの研究機関「Statens Serum Institut」の一部門である「The Danish National Birth Cohort」(DNBC) が協力した。DNBCは、幼い子どもの曝露と疾患の因果関係を調査するために設立された。1996年以降、国内の母子の血液サンプルやヒアリング結果などのあらゆるデータを保管し、子どもの疾病予防の研究に役立てている。

カリフォルニア大チームは1400人の女性とその乳児のデータを分析した。

その結果、母親がPFOAを多く曝露するほど低体重児を出産することが示された。調査結果は、米国国立環境健康科学研究所の支援で発行される学術誌『Environmental Health Perspectives』に掲載された。

カリフォルニア大チームは、PFOA曝露と妊娠するまでにかかった期間についても、デンマークの女性1240人を対象に調査した。血中のPFOA濃度が高い女性ほど、妊娠しにくくなることが分かった。2009年にオックスフォード大学出版局が発行する『Human Reproduction』に論文を発表した。

●2021年末に米国EPA発表「ヒトの胎児も影響を受ける」
PFOAによる女性と子どもへの悪影響は、年を追うごとに明らかになっていく。

2012年、米国の独立科学調査会が、大規模な疫学調査の結果を発表した。PFOA製造メーカー「デュポン」の工場近くに住む7万人を調査し、PFOAが引き起こす6つの疾患を突き止めたのだ。第11回で報じた。

6つの疾患の内の1つが、妊娠高血圧症だ。

妊娠高血圧症は、妊娠前は高血圧でなかった女性が、妊娠20週〜産後12週の間に高血圧になる症状だ。母親の出血や肝機能の悪化、胎児の発育不全などを引き起こし、最悪の場合は母子の死亡につながる。

2019年5月には、日本も批准する国際条約「ストックホルム条約」でPFOAの廃絶が決まった。

その後も、新たなデータはどんどん出てくる。

欧州環境庁は2019年12月、妊娠している女性がPFOAに曝露すると、低体重児を出生する可能性が高くなると発表した。

米国の環境保護庁(EPA)は2021年末、PFOAに関する新たな研究結果をまとめた834ページの資料を、諮問委員会に提出した。

PFOAが胎児に悪影響を与える証拠が綴られていた。「エビデンスの統合」と名付けられた章には、次の一文があった。
「動物実験のデータと、ヒトでの研究データが一致していることから、ヒトの胎児もPFOAの影響を受けることが示されている」

●PFOA曝露の母から生まれた息子、顔の手術40回
過酷な被害を受けた母子もいる。

その一例が、米国デュポンのPFOA製造工場で働いていたスー・ベイリーと息子のバッキーだ。

スーは第三子であるバッキーを妊娠中、工場でPFOAの廃棄物を扱う仕事をしていた。1981年に生まれたバッキーは、右目がゆがみ、鼻の穴は一つしかなかった。PFOAの動物実験でみられていた症状と同じ、先天性欠損症だった。

バッキーはその後、22歳までに40回以上の手術を受けた。8時間かけ、1度に120針を縫う大手術もあった。バッキーは、肋骨の軟骨を切ったり、皮膚を伸ばしたりする手術にも耐えた。今でも額には、ピンク色の手術痕が残っている。

バッキーは2019年、デュポンによるPFOA公害を描いた映画『ダーク・ウォーターズ』に本人役で出演した。映画の出演やインタビューに応じ、企業が汚染した環境を浄化するよう声を上げ続けている。

米国のアウトドア雑誌『Blue Ridge Outdoors』の取材に、バッキーは次のように語った。

「PFOAなどの有害な化学物質を製造し、環境中に排出した企業やメーカーが、浄化ときれいな飲料水のための費用を負担する責任を負うべきだと考えています」

「私には美しい息子と娘がいます。彼らはこの世界で生きていかなければならない。水を飲み、シャワーを浴びなければならないのです。子どもたちへの思いが、決してあきらめない原動力になっています」

★動画: https://youtu.be/xW-hU3xmLPc
「映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』予告編」=シネマトゥデイ公式YouTubeチャンネルより

●ダイキン「弊社の解釈とは異なるが、コメントは差し控える」
ダイキンのPFOA工場が立地する大阪・摂津では、女性60人の血中から、高濃度のPFOAが検出された。工場の周辺には住宅地が広がり、園児や児童たちの元気な声が聞こえてくる。味生小学校は、工場からわずか45メートルだ。

PFOAは残留性が高い。今は製造していなくても、一度曝露したPFOAは体に長年蓄積されてしまう。世界の研究で母子に様々な影響が出ることが明らかになっている。

Tansaはダイキンに対し、カリフォルニア大の科学論文を示した上で、PFOAの排出源としての責任を問うた。

ダイキンの回答。
「提示いただいたカリフォルニア大の論文の内容については、弊社の解釈とは異なりますが、コメントは差し控えさせていただきます」

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2022年3月25日時点のものです。

【Tansaについて】
Tokyo Investigative Newsroom Tansaは、探査報道(調査報道)を専門とするニューズルームです。暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じます。広告収入を受け取らず、独立した立場を守ります。誰もが探査報道にアクセスできるよう、購読料もとりません。NPO法人として運営し、寄付や助成金などで成り立っています。
公式ウェブサイト:https://tansajp.org/

●シリーズ「公害PFOA」:https://tansajp.org/investigativejournal_category/pfoa/

●取材費を寄付する:https://syncable.biz/campaign/2070

【YouTube番組で解説!】
PFOA汚染と母子(令和の「水俣」No.4)
https://www.youtube.com/watch?v=csXnooscrBk

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ