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Vol.22150 病院外での学びに飛躍の好機がある

医療ガバナンス学会 (2022年7月28日 06:00)


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自治医科大学医学部医学科6年
加藤直人

2022年7月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私の在籍する大学には、一定の基準を満たした学生を対象に6年時の国家試験対策講義と卒業試験を免除し、7ヶ月の間自由に実習先や実習内容を決めることを許可する制度があります。私はその制度を利用して、医療者に限らず様々な方と出会うことと、卒後臨床研究ができるよう論文を書くことなど、病院外での経験を求めてインターネットで「医学生 インターン」と検索しました。それで上位にヒットしたのが、医療ガバナンス研究所です。ネット上では褒められも叩かれもしていましたが、実際に見てみないと本当のところは分からないと考えて、勢いで1ヶ月のインターンを申し込みました。

医療ガバナンス研究所に来る前は、上先生に対して、なぜこれほど実績のある人がいわゆる「出世」の道に進まずにNPOなんてやってるんだろう、と疑問に思っていました。しかし初日に上先生とお話しさせていただいて気付きました。上昌広という個人として実力があるからこそ、組織に迎合することなく自身の意図に従った活動ができるのです。私は将来について漠然と、厚生労働省やWHOなどの保健機関で働くのもいいなと考えていました。そこに上先生のWhyの質問攻めに遭い、自分が何をしたいのかよく分からなくなってしまいました。今思えば、それらがどんなものかよく知らないのだから、ちゃんと考えるとよくわからなくなるのは当然かもしれませんが、当時はショックを受けました。「今の君に必要なのは、視野を拡げることです。一流の人材に会うことです。」という言葉をいただき、まずは先生方の仰る言葉を素直に受け取り、考える力を養うことを決意してインターンが始まりました。

医療ガバナンス研究所には、上先生独自の人脈で様々な一流の方がおいでになります。
「今日来た全員とLINE友達になって、君がグループを作りなさい。」と仰る上先生のおかげで、貴重なご縁をたくさんいただきました。例えば、東京大学剣道部OB会に同伴させていただいた際にお会いした小田知宏さんはNPO法人発達わんぱく会の設立者であり、理事長です。小田さんのお話に興味を持った私はすぐにアポを取り、浦安市の教室を訪れました。遊びの小道具はスタッフさんの手作りで、発達や障がいの程度によって同じ目的でも少しずつ変えるそうです。プレイルームの内装は、子どもに不必要な刺激を与えないようにあえてシンプルにしていました。こういった学びは、自分の目で見て初めて気づくことのできるものです。現場に足を運び、机上の空論ではなく実体験から学ぶ重要性を強く実感した経験でした。
その他、私の地元である山形県で土建業を営む前田直之さん、福島で原発事故後の健康影響調査を続ける坪倉正治先生など、たくさんのプロフェッショナルを訪れました。また上先生にご縁を繋いでいただき、これから訪問させていただく方もたくさんいらっしゃいます。まだまだ出会いが広がっていくことがとても楽しみです。
数あるインターン中の学びの中で、今後の人生に深く関わりそうだと考えたものをいくつかご紹介します。

【人との接し方】
・相手の「内在的価値観」を知っておくこと
内在的価値観とは、その人が生まれ育った環境、集団で歴史的に引き継がれている価値観のことです。自覚がなくても個人はその影響を受けているとされます。例えば戊辰戦争で勝利し、明治維新後日本の中心となった薩長土肥は、現代でも各業界に数々の著名人を輩出しています。山口県を例に挙げると、政界では先日演説中に銃撃され死亡した安倍晋三氏の生まれ故郷であり、選挙区です。憲政史上の首相在任日数の上位4名は、安倍晋三、桂太郎、佐藤栄作、伊藤博文であり、山口県出身者が独占しています。また総理候補として都度名前が挙がる林芳正氏の選挙区も山口県です。また医学会では、ノーベル賞受賞者の本庶佑氏、現日本医師会会長(2022年6月より)の松本吉郎氏が挙げられ、前述の坪倉先生も、ご両親は山口県の出身です。医療ガバナンス研究所では、山口高校から山口大学医学部に進みトップクラスの成績で卒業した瀧田盛仁先生と出会いました。一見すると堅実で真面目な印象を受けました。しかし上先生に「医療ガバナンス研究所で今1番力のある人」と評されるその実力を垣間見て、熱い思いで努力しており、実際に功績を残してきたことが分かりました。
このほか、重松清や金子みすゞといった文化人も育ちました。山口県はその人口規模(令和2年国勢調査によると134万人で全国第27位)に対して著名人輩出が明らかに突出しています。これには吉田松陰と松下村塾の門下生たちに由来する「いけいけどんどん」の内在的価値観があると上先生から教わりました。その価値観は、当時絶対的な権力を持っていた江戸幕府を相手に戦い、勝利した具体的な成功体験に基づくものです。つまり自分達は動けば偉業を成せるという成功イメージが育まれているのです。1842年創立の松下村塾で醸成された内在的価値観が、地域で脈々と受け継がれ、現代の若者にも影響を与えているというのは俄には信じ難いかもしれません。しかし大学で全国から集まった学生と関わる中で人柄の地域性には傾向があると感じていた私にとっては、ある意味で腑に落ちる話でありました。

【社会への働きかけ方】
・肩書きでなく、固有名詞を使うこと
実際に物事を動かしているのは、肩書きの奥にいる固有名詞の人間です。例えば、前述の東大剣道部OB会で吉添圭介さんという(当時)内閣府地方分権改革推進室の参事官(総括)を務められていた方とお会いしました。学生時代の泥臭い(酒臭い?)青春のお話をお聞きして、その人間性に惹かれました。アポを取り、内閣府を訪問させていただきました。霞が関に足を踏み入れたのは初めてでしたが、そこで働く人の顔がバラバラだったのは、当たり前ですがやけに印象深かったのを覚えています。職員食堂で「お財布応援企画」の500円ランチの看板を発見してさらに親近感が増しました。国家といえども、結局は固有名詞の人の集まりであることを実感しました。

【臨床研究について】
・流れを読むこと
引き出しを増やすこと:新聞や週刊誌を読むこと。歴史を知ること。今回The New England Journal of Medicineの、戦争から帰還した兵士の脳症に関する論文に対するLetterを投稿しました。上先生に初めに指示されたのは、ハート・ロッカー、ブラックホーク・ダウンといった戦争映画の鑑賞でした。オリジナリティを出すことより先に、自分に引き出しを作ることが重要であると知りました。
発信の機会を増やすこと:学生のうちはネタも出力もコネもないので、いきなり素晴らしい論文を仕上げて一流雑誌に載せようとは思ってはいけないと教わりました。まずFacebookのような身近なところで文章を書く。ひたすら書く。そうして着々と発信力を上げていくことが重要です。

・患者さんにとっての関心ごとを中心に据えること
検査結果でなく、症状や生活への影響に注目すること:上先生が論文や記事や論文をお書きになる一方で、患者さんをしっかり診ていることが意外でした。患者さんを診ている限り「ローリスク」で、患者さんを診なくなるほど本質から離れていってしまうということです。
最終的に患者さんに還元されること:自分がしたい研究だけすれば良いのではありません。プロの医療者としては、患者さんや社会が求めている研究をすることにより価値があるのです。

・論文に適した英語を使うこと
日本語の原稿ができてから、また別の勝負が始まりました。受験では満点をもらえる英訳をしても、「論文ではこんな言い方しない」とボツになるのが悔しかったです。一つ一つ調べて修正していく地道な作業でした。
私の大学は、全員が地域枠のような形で僻地医療に従事するという制度のもとで運営されており、学生同士や大学、都道府県庁との繋がりが非常に強いことが特徴です。これは僻地の医療水準を一定に保つためには有効ですが、一方で「長いものに巻かれる」のが吉という風潮に繋がり、個人としてのアイデンティティを育てにくい環境でもあると考えています。
上先生はもちろん、研究所に出入りしている他の学生さんたちも、製薬マネーやワクチンに関する研究、機械学習など何らかの強みを持った実力者が勢揃いしていました。良くも悪くもバランス型の私と比較した時、自身にもの足りなさを感じ悔しい思いをしたことを覚えています。僻地で総合診療をするにしても、自身のアイデンティティを確立していくことの重要性を実感しました。
「診療して、調べて、書く。」この繰り返しで医療者として上達していくと上先生はよく仰ります。インターン中は、インプットだけでなくFacebookの投稿やNEJMのレターなど、文章を書くことにも力を入れました。これからも発信を続けていき、診療と臨床研究の両輪で自身のアイデンティティを活かして専門家として生きていきたいと考えています。

最後に、上先生をはじめ本インターンでお世話になった全ての方々に心より感謝いたします。今後もご指導を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

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