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臨時vol 20 高久通信 「組織工学による人の膀胱の作成 」

医療ガバナンス学会 (2006年6月22日 02:55)


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2006年6月30日発行

組織工学という言葉になじみのある方は専門家でも少ないと思うが、この言葉は細胞を培養することによって特定の組織を作る技術を意味している。事実、人の場合でも皮膚、軟骨、骨の細胞を培養で増やすことによってこれらの組織を作り、それを臨床的に応用することが再生医療の一環として行われている。その良い例が皮膚で、表皮の細胞を培養で増やし人工の皮膚を作り、その人工皮膚がやけどの治療に用いられている。しかし、組織工学によって作られるのは、通常一種類の細胞によって構成される単純な組織で、数種類の細胞を含んでいる臓器を人工的に作るのは非常に困難であると考えられていた。
ところが2006年4月にアメリカの泌尿器科の専門家が、初めて人の人工膀胱の作成に成功、その人工膀胱を患者の膀胱とつなぎ合わせて、膀胱の機能を回復させたことを報告して大きな話題となった※。これは一部の新聞で科学トピックスとして報道されたが、膀胱という比較的単純な臓器とはいえ、人工臓器が作られ、その臓器が実際に人の体内で働いたという報告はこの研究が初めてで、将来、心臓などのより複雑な臓器の人工的な作成につながる技術の開発として注目されているので、もう少し詳しく紹介したい。
今回の人工膀胱移植の対象となったのは、4歳から19歳の7人、いずれも先天性の脊椎被裂のため膀胱が機能しなくなった患者たちである。実際の手技では、まず対象となった患者のお腹を小さく切開して、患者の膀胱から1~2cmの小切片を切り取る。その膀胱切片を膀胱の内面を覆っている内皮の細胞と外側の筋肉細胞とに分離して、各々の細胞を特定の培養条件下で増殖させる。次に膀胱の形をした骨組を作らなければならないが、その材料として用いられたのがコラーゲン繊維で、膀胱の形をした厚さ2mmのコラーゲン繊維の骨組の内側には内皮細胞を数多く含んだ培養液を振りかけ、一方、骨組の外側には筋肉細胞を多く含んだ細胞を振りかける。

これらの内皮細胞、筋肉細胞は各々膀胱の形をしたコラーゲン繊維の内側と外側に張り付き、その結果人工膀胱が完成したことになる。人工膀胱の患者への移植は当然手術的に行われ、麻酔下で開腹、患者の膀胱と人工膀胱とをつなぎ合わせる。なお、人工膀胱の骨格となったコラーゲン繊維は生体内で自然に溶けてしまい、内皮細胞と筋肉細胞による膀胱が出来上がる。7人の患者は以後22~61(平均46)ヵ月にわたって経過が観察され、その成功が確認されている。
今回手術の対象となったのは脊髄被裂という特殊な先天性疾患の患者であるが、当然、膀胱がんによる膀胱全摘出の患者も対象となるはずであり、この手技の応用範囲は今後さらに広がると期待される。

※Atala, A., et al. LANCET published on line April 4, 2006.
高久 史麿(たかく ふみまろ)
自治医科大学内科教授、東京大学医学部第三内科教授、国立病院医療センター院
長、国立国際医療センター総長を歴任後、平成7年5月東京大学名誉教授、平成
8年4月から現職(自治医科大学 学長、日本医学会 会長)

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