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Vol. 300 院内感染対策:耐性菌患者の感染対策に要するコストに見合った診療報酬を

医療ガバナンス学会 (2010年9月20日 14:00)


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院内感染対策:耐性菌患者の感染対策に要するコストに見合った診療報酬を

森兼啓太
山形大学医学部附属病院 検査部

2010年9月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


帝京大学病院における多剤耐性アシネトバクターによる院内感染多発事例は大きな波紋を呼んでいる。様々なレベルの行政から「院内感染対策に遺漏なきよう」 といった論調の通達が流されている。通達を流すのは簡単であるが、「遺漏なき」を期するための費用についての議論は避けて通られているのが現実である。

多剤耐性菌への院内感染対策は多面的であるが、簡単に言えばすでに耐性菌に感染・保菌している患者への対策と、全患者に対する基本的な対策の二つに分けられる。

全患者への基本的対策は、いわゆる標準予防策と呼ばれるものであり、どの患者がどのような病原体を保菌しているかわからない(病原体は目に見えない)た め、すべての患者に対して最低限行うべき感染対策である。耐性菌に関して言えば、患者接触や処置の前後に手指衛生を行うことで、患者間の耐性菌伝播を防止 することが主になる。他にも日常の患者療養環境の整備、医療器具の洗浄消毒などがあげられる。また、検査室で得られる細菌などの分離状況を常に監視し、耐 性菌が検出された場合には当該患者に対してのちに述べる対応を速やかにとることもあげられよう。

これらは、患者の診断治療に直接関与するものではなく、病院の収入である診療報酬上は表面化しない。手指衛生を熱心に行ってたくさんの手指衛生剤を使用し ても、また感染対策専従者を配置してスタッフへの教育を行い、耐性菌分離の監視を行っても、その材料費や人件費は100%病院の負担であった。

2010年4月の診療報酬改定により、全患者に1入院あたり100点の感染防止対策加算が新設された。これによって、十分な人的資源を感染対策に投入し、 普段から耐性菌への基本的対策を行っている施設に対して、ある程度の資金的手当が行われるようになった。院内感染対策を後押しする大きな一歩であり、これ を実現に導いた関係諸方面には大いに感謝している。もっとも、当該患者に要する感染対策の費用は、入院日数に応じて増加するので、本来は1入院あたりでは なく1日あたり何点という加算がなされるべきであり、将来の再改定に期待したい。

次に、多剤耐性菌が検出されている患者への感染対策であるが、通常は「接触予防策」を講じる。すなわち、患者を個室または同じ耐性菌が検出されている者同 士を同じ部屋に収容し、スタッフは入室する際に手袋やエプロン・ガウンなどを着用して患者の診察・ケアに従事する。患者に使用する医療器具は患者専用とす る。これらの対策にはさらに多額の費用を要する。

現状では、従来の診療報酬も先ほど述べた診療報酬改定でもこれらの費用をカバーしない。すべて病院の負担である。感染症の診断のための検査や治療に要する 抗菌薬には、それらのコストに見合った点数(診療報酬)が発生する。しかし、接触予防策の費用が全くカバーされないとすれば、病院経営上どういう選択が合 理的か?そのような予防策が必要な患者をできるだけ自施設で受け入れない、また、感染症の検査をなるべくせず、多剤耐性菌の保菌や感染を明らかにしない、 というようなことを病院経営者が考えても仕方ないだろう。実際、急性期医療機関から慢性期医療機関への転院などに際して、MRSAなどの耐性菌の保菌患者 は断られることは日常茶飯事である。

エボラ出血熱や高病原性鳥インフルエンザなどのごくまれな疾患に対しては、患者を受け入れるごく少数の病院に対して感染症指定医療機関として行政から補助 金を受けている。しかし大多数の医療機関は、MRSAなどごくありふれた多剤耐性菌の感染症・保菌患者に対して、100%病院負担で他の患者への伝播防止 対策を行っている。「院内感染対策に遺漏なき」を期するためには、それに要する費用を診療報酬という形で手当しなければ、多剤耐性菌感染症・保菌患者は行 き場を失うであろう。両者を比較するのはあまり適切ではないかもしれないが、未知数の脅威よりも、目の前にある現実の脅威の方がよほど問題であると考える のは筆者だけではないだろう。

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