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Vol.22157 ポルトガル国のBA.5感染収束傾向に関する考察

医療ガバナンス学会 (2022年8月4日 06:00)


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帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2022年8月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

オミクロン派生型BA.5の感染例がヨーロッパでいち早く確認された国ポルトガル(約1,034万人; 2021年、ポルトガル国立統計院)が、行動制限もしないままにBA.5流行の収束に向かっています。テレ朝ニュースでは、この成果をワクチンの4回目接種の効果と伝えています。以下、HP記事からの引用です。

なぜ「BA.5」急拡大のポルトガル 行動制限なしで収束
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000262738.html

-以下、引用-
「ポルト大学公衆衛生研究所、エンリケ・バロス教授:「感染者数は過去最大となったが、重症者数や入院者数は過去最少。70歳より若ければ症状は軽すぎて感染に気が付かないくらい多くの感染者が無症状や軽症者であり、自宅療養で対応できたようです。」「ポルト大学公衆衛生研究所、エンリケ・バロス教授:「死亡者の95%以上は80歳以上の人で、かつ基礎疾患のある人。(感染が拡大した)5月はブースター接種をしてからかなりの月日が経っていた。すぐに高齢者に4回目のワクチンを提供したところ、瞬く間に重症例が減少した」とのことです。
-引用ここまで-

この報道には驚きました。本当にそうなのでしょうか?
Our World in Dataのデータから分析してみました。

1.日々の感染者数
まず、日々の感染者数を見ると、収束傾向は明らかのようです。2022年の1月31日に感染者数は6.2万人超えでピークでした。 しかしその後に急激に減少しています。これはおそらく、自然感染とワクチン免疫による集団免疫のおかげでしょう。

ポルトガルの感染者数(7日平均:Our World in Data)
https://assets.st-note.com/img/1659148906992-Bc2LNgQ9nK.jpg

2. 死亡者数:
一方で、死亡者数を見てみると、たしかに低いままです。しかも直近では減少傾向が顕著です。これは、上述のバロス教授の発言に基づけば、高齢者への4回目接種が奏功したということでしょう。
ポルトガルのCOVID-19 死者数(7日平均:Our World in Data)

https://assets.st-note.com/img/1659148935988-urIY6AZgGK.png

これを致死率(死亡者数/感染者数)で見てみると、たしかに感染者に占める死亡者の割合は減少傾向が顕著です。これは、ワクチンによる重症化予防の効果でしょう。
ポルトガルのCOVID-19 致死率:Our World in Data
https://assets.st-note.com/img/1659148957529-u19bPLraFh.png

3.ポルトガルで承認されているワクチン
ポルトガルで承認されているワクチンは、6種類あるようです。https://covid19.trackvaccines.org/country/portugal/

どのワクチンが主流で使われているのかは調べきれなかったのですが、以下の論文”mRNA vaccine effectiveness against COVID-19-related hospitalisations and deaths in older adults: a cohort study based on data linkage of national health registries in Portugal, February to August 2021”、によるとmRNAワクチンが主流であったようにも読めす。
https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.38.2100833

ここで、ポルトガルのワクチン接種率を見ると、ワクチン接種に関しては間違いなくトップランナーの一国に入ります。完全接種率はキューバの方が抜きん出ていますが、ポルトガルの方も部分接種を入れると人口の95%をカバーしています。

COVID-19の国別ワクチン接種率
https://assets.st-note.com/img/1659149000095-iurc8eQGDn.png

4.これらの知見を、東京財団政策研究所/福島県相馬市予防接種センター長の渋谷健司先生のグループが作成した日本の現状分析から引用すると、以下の記述が目に止まります。

“こうした状況を踏まえれば、現在の第7波の流行のピークは8月中であり、今後急速に収束するものと考える。”
“第7波の流行の被害を抑える上で有効なことは、発症したハイリスク者への迅速な検査と陽性者に対する迅速な治療薬の投与に加えて、3・4回目のワクチンの未接種者に対する接種をできるだけ進めることである。”

東京財団政策研究所:第7波初頭での国内のCOVID-19の集団免疫割合の推計 ~パンデミック期からエンデミック期への転換に向けて~
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4036

上記の内容を鑑みると、8月中のピークアウトも決して楽観視ではないように考えられます。

5.結論
以上から、ポルトガルの事例を参考にして日本があるべき方向性についてまとめると、今後は、ワクチン接種と自然感染を繰り返すことで免疫獲得をしながら、ウイズ・コロナの時代を生き抜くことが大切です。
自然感染した場合でも、非常に効果的な治療薬もさらに広くつかわれるべきです。一方で、積極的なワクチン接種も重症化予防には重要です。
感染者数に一喜一憂せず、また、パニックになる必要はありません。
一律の行動制限は科学的にも社会経済的にも合理的ではありません。
パンデミックの終わりを見据えて、賢く情報を得ながら、自分で自分のリスクを管理しつつ日常生活を過ごしていくことが、何よりも大切ではないでしょうか。

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