医療ガバナンス学会 (2022年8月8日 06:00)
北海道大学医学部
金田侑大
2022年8月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
はじめに結論を述べますが、東大側の、学生を後回しにする姿勢に驚いた、と言うのが正直なところです。以下に気になったポイントを整理して述べます。
1.他の学生との点数の入れ違いがあったとのことですが、その件に関してはこれまで一度も説明されていませんでした。杉浦さんは過去に数回にわたり、東京大学教養学部に対して、自身の成績処理に関する説明を求めています。しかしながら、初回の不可問い合わせには、まともな回答もなく杉浦さんは17点の下方修正を受けているのですが、その件に関してこの書面では全く触れていません。もし仮にほかの学生との点数の取り違いがあったのであれば、該当学生への連絡、および、他の学生の点数に関してもすべて確認するということが、杉浦さんが一か月半もの間、大学からのまともな回答を得られず、メディアに訴えなければいけない状況を作る前に、大学が行わなければならない措置だったのではないでしょうか。
2.杉浦さんが欠席した5/17(火)夕刻にアクセスがあった、とのことですが、多少でも症状が軽くなったら出席フォームを開いてみて、連絡や提出など、一応できないか確認をするのが、学生の感覚としては普通だと思います。その夕方時点でのアクセスを根拠に、11時までの所定の手続きが踏めなかったとは考えられない、と主張をすることは、あまりにも学生の状況に対する想像力が欠けているのではないでしょうか。そればかりか、医師の診断書を認めず、杉浦さんを不審者扱いしている点は、大学側の品位を問いたいところです。
3.なぜか大学側が、杉浦さんとの直接の面会と説明を拒否している点も不可解です。もし何も隠すようなことがなければ、杉浦さんが表に出て状況を説明している以上、東大側も弁護士などと相談して抗議するのではなく、教養学部長や担当された教員が表に出て、一言説明をすべきではないのかと思います。
4.今回の問題の本質は、杉浦さんがコロナに罹患し、授業を欠席したことで際に提出した診断書が、担当助教に認められず、代行措置を受けられなかったということだと思います。しかしながら、今回の一連の東大側の対応は、11時までに所定の連絡を行わなかった、診断書の提出が1週間遅れていたという手続き論に終始していることに、違和感を覚えます。そのような対応をしている限り、学生と教員との間で信頼関係を築くことは難しく、対応としていかがなものかと感じます。目の前の学生ではなく、既存の制度を重視する現在の体制では、コロナ下で、杉浦さんに限らず、多くの学生が不利益を被ることになってしまうと思います。
実は、私も以前、北大で似たような経験をしたことがあります。2年生の1月頃、鬱病を罹ってしまい、テストがまともに受けられない時期がありました。北大では普通の科目であれば再試験をやってくださるのですが、ある科目の教授は、今回の杉浦さんのケースと同様、”独自のルール”を盾に、なぜか再試験をやってくださらない方でした。その際、診断書も提出しに行ったのですが、教務からは”成績を付けるのは各教授なので、直接相談しに行ってください”と伝えられ、直接相談しに行ったときに教授からかけられた言葉は、”個別に配慮することはできません”という一言のみでした。北大では2科目まで落としても進級できるので、仮進級という形で私はなんとか進級ができ、友達のサポートもあってなんとか回復できましたが、もし留年していたら、より深刻な後遺症を引きずることになっていたかもしれません。
加えてですが、私が今年の7月まで留学させていただいていた英エディンバラ大学(QS世界大学ランキング16位)では、授業の欠席や、課題提出の延長申請に関して、診断書の提出を求められたことはありません。そればかりか、「彼女が浮気していたことが発覚して辛い。カウンセラーに相談したい。」と、課題の提出期限ぎりぎりに1週間の課題提出期限の延長を申請した際も、“それはSpecial Circumstancesが認められるよ”(詳しくはこちらの記事をご参照ください→ http://medg.jp/mt/?p=11033 )、と、課題の無期限、提出期限延長という、私が申請した以上の対応を行ってくださいました。大学側が学生を信頼し、学生ファーストの運営をしているからこそ、このような対応が可能なのだと思います。
おそらく、日本の大学であれば、問答無用で、“何を言っているんだ”、と、私の申請は却下されていたと思います。東京大学は、現在のところ、QS世界大学ランキングこそ23位ですが、このように学生を後回しに扱っているようでは、いくらグローバル化を謳ったところで、世界のエリートが集まる大学になるわけがないでしょう。
おかしいけど仕方ないよね、と、我慢して受け入れることが、本当に正しいことなのでしょうか?
世の中には理不尽なことが溢れていると言います。本当にそうだと思います。しかし、今回のケースのように、勇気を振り絞って声を上げた杉浦さんに、圧力をかけるようにも見えるこの抗議文を提示したことは、やはりおかしいのではないかと、私も声を上げずにはいられませんでした。そもそもの問題は、学生が主体的に学ぶことができる大学の体制づくりを怠った大学側にあるはずです。現に、文部科学省は各大学で、実習などのコロナ代替措置として、オンラインで実施できる体制を整えるように以前から通達を出していたはずです。そのため、これらの問題は分けて考えることはできないと思います。このような問題を他人事にすることなく、杉浦さんの声を枯らさず、より遠くに広げていくことが今の私たちには必要だと私は思うのです。
【金田侑大 略歴】
フラウエンフェルト(スイス)出身。母は日本人、父はドイツ人。私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、北海道大学医学部医学科4年に在学中(2年目)。2021年9月から2022年6月まで、イギリスのエディンバラ大学に留学していたが、その“コウイショウ”で最近漢字が全く書けません。皆さんも、コロナニュースでよく見かけるこの“コウイショウ”、受験生に戻ったつもりで、ぜひ手元で一度書いてみてください。答えは本文の中にあるので、是非この文章や引用した記事は、何度も読み返してくださいますと嬉しいです。