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Vol.22170 相馬野馬追が示す一律の行動制限からの脱却:パンデミックの終焉に向けて

医療ガバナンス学会 (2022年8月18日 06:00)


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帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2022年8月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2022年7月23日(土)から25日(月)にかけて福島県南相馬市で行われた夏の風物詩、相馬野馬追は、1千年以上もの歴史を持ち戦国時代を彷彿とさせる壮大な歴史絵巻のようであり、現在では国の重要無形民俗文化財となっている。今年は、コロナ禍で3年ぶりの開催となり、旧相馬中村藩主・相馬家嫡子が14歳で元服し、野馬追の総大将となり初陣を飾った。
https://www.minyu-net.com/news/news/FM20220723-718172.php

今回の相馬野馬追は、一律の行動制限のない3日間の述べ参加人数が10万人超の大規模集団イベントであり、これまでの新型コロナ対策の効果を知る上で非常に重要な機会となった。

福島民友新聞によると、24日の本祭りについては、騎馬武者行列で沿道に密集した観客が3万5000人、神旗争奪戦や甲冑競馬の舞台となる雲雀ケ原祭場地に2万人がそれぞれ訪れたとのことである。
https://www.minyu-net.com/news/news/FM20220803-720227.php

アウトドアとはいえ、これだけの人が集まれば、当然新型コロナの感染拡大が懸念される。しかし、その事態は生じなかった。ただでさえ、全国的には第7波の感染拡大傾向であった時期であったにも関わらずである。

具体的な数字をもって証明しよう。対象は、相馬野馬追との関連が深い相双地域の南相馬市(人口57,588人/2022年7月1日現在)、相馬市(人口33,529人/2022年7月1日現在)である。

両市の感染者数を合算して、人口あたり7日平均でみると、野馬追前(7/7―7/22)での最多感染者数は、7/12の74.3人が最多であった。一方で、野馬追後(7/27ー8/10)での最多感染者数は、8/8の82.5人が最多である。同時期に日本全体では感染者数は以下の図から見ても明らかなように漸増傾向(7/22 1023.5人,  8/10 1,727.2人)にあった。

図 相馬市、南相馬市のCOVID確定数(合算)と日本全体のCOVID-19確定数(7日平均、人口10万人あたり)
https://assets.st-note.com/img/1660643472938-dCgjON9oj1.png?width=800

更に、野馬追前後での感染者数を統計的検定でみると、相双地域では有意差がなく、増加傾向は見られなかった。つまり、相双地域において、野馬追前後でのCOVID-19患者の増加は認められなかったのである。その一方で、日本全体では野馬追前後の時期の増加傾向は明らかである。
また、重症例、死亡例に関しては、相馬市、南相馬市とも一例も発生してはいない。

この状況に寄与した大きな因子は3つあると考えられる。
第一の要因は、相馬市、南相馬市の高いワクチン接種率である。すでに4回目の接種を進めている両市では、野馬追開始の時点で3回目接種の完遂率は相馬市82.4 %(65歳以上88.3%)、南相馬市75.3%(65歳以上93.1%)あった。さらに、一部の集団においては、感染性の高いオミクロン株による自然感染による免疫獲得も寄与していると考えられる。

これは、東京財団政策研究所研究主幹の渋谷健司教授グループによる、「ワクチン接種と自然感染を繰り返すことで、一律の行動制限をせずとも、社会経済生活を維持することが可能となる」という説を裏付けている。
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4036

第二は、SARS-CoV-2ウイルス感染の主たる要因が空気感染であるという点である。3密と言われる中で、密集、密接の寄与は少ない。この点で、野外イベントである野馬追には利があった。常時換気が行き届いている環境だからである。かつての専門家会議や分科会等の専門家達、厚労省が主張するように密集、密接の寄与が大きいのであれば、野馬追見物のために密集した見物客たちに集団感染が生じてもおかしくはない。しかし、それは生じなかったのである。

主催者や騎馬行列の参加者の自律的なリスク管理も特筆すべきだ。騎馬に関与するスタッフなどは、事前に抗原検査等を行なって、感染を持ち込まないように留意したと聞いている。一方で、沿道の見物客などでは、マスクは外している方も多かった。これは適切な換気下においては、マスクは不要であるという科学的エビデンスに裏打ちされている。

最後に、相馬市では医療関係者の4回目のワクチン接種を積極的に進め、たとえ感染者が多数出ても、医療スタッフの感染による病床の逼迫を防ぐことのできる体制がとられていた。これは、相馬・南相馬両市が、科学的に妥当であると考えられる対策を、どこよりも早く実施したからだ。これは、4回目の接種が後手に回り、多くの医療機関が閉鎖されている現在の状況とは対照的である。科学的かつ合理的なコロナ対策を行えば、一律の行動制限をせずともに社会経済活動を維持することが可能である。

これらの要因が重なって、ウイズコロナとしての3年ぶりの行動制限のない一大集団イベント、相馬野馬追は成功したのである。

今年度は、全国的に「行動制限のないお盆」、「行動制限のない夏休み」という話題が懸念として広がっていたが、政府寄りの専門家は相変わらず一律の行動制限や人流の抑制を訴えていた。しかし、科学的な対策を講じていれば、これらは杞憂であるという事を相馬野馬追という1000年の伝統行事が証明したのである。

以前の投稿「相馬野馬追は日本のウイズコロナの試金石である」において、私は、「人流や接触の削減を目的とする一律の行動制限から脱却し、感染者数に一喜一憂することなく、科学的にウイズコロナのフェーズに移行することが必要だ。」と述べた。今回の事例によって、まさに相馬野馬追は日本の行く末を示す試金石としての役割を果たした。
http://medg.jp/mt/?p=11068

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