医療ガバナンス学会 (2010年9月24日 06:00)
情報工学の立場から「科学・技術関係予算に関するパブリック・コメント募集」によせて
東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 井元清哉
2010年9月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
●文部科学省「オーダーメイド医療の実現プログラム」
【意見】
次世代シークエンサーの登場により、個人ゲノム時代は現実のものとなりました。「オーダーメイド医療の実現プログラム」における個人ゲノム情報に基づい た個別化医療の推進は疑いようもないトップ・プライオリティの研究と考えます。しかしながら、本研究からゲノムコホートへの展開を考えると、個人ゲノムの データ解析を行う情報工学者、(遺伝)統計学者の養成も考慮に入れなければなりません。
【理由】
個人ゲノムのデータ解析を行っている、また行える研究者は、それほど多くはありません。また、ゲノムコホート研究においては、遺伝統計学が必須の学問で ありますが、日本の教育機関における遺伝統計学の人材養成キャパシティは驚くべき少なさです。個別化医療に向けて、個人ゲノムの膨大な情報を取り扱える ITインフラの整備と個人ゲノムの情報を解析しトランスレーショナルメディシンを推進できる情報工学者の育成は必要不可欠です。
●厚生労働省「感染症対策総合研究」
【意見】
感染症対策の重要性は、昨年の新型インフルエンザ、今年の口蹄疫など個々の事例からも明らかです。その予防や感染拡大を阻止する方策・社会基盤を確立す る重要性については、なんら異論はないと思います。しかしながら、これまでのような生物学的な感染症対策に加えて、情報マネージメントやシミュレーション などの情報工学的アプローチを合わせて考察することがこれからは必要であると考えます。
【理由】
日本の感染症対策においては、感染症の生物学的特性解明に重きが置かれ、欧米において研究が急速に進んでおり、実用されている感染症拡大の数理的研究や スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーションによる感染拡大防止策の有効性評価は十分に発展しているとは言えません。このようなアプローチは、感 染症対策の立案とその有効性に対して科学的エビデンスの一端を与えると考えます。感染症対策に情報工学を融合することは急務です。
いつの頃からかこのようなパブリック・コメントを各省庁が広く募集するようになりました。色々な意見を聞き判断するという姿勢は高く評価しています。パ ブリック・コメントが募集されると意見を言わないというのは許されないことだと思い、かなりの時間を使って意見することも多くなりました。今回のパブリッ ク・コメントは、公開資料ともなるようですが、意見を伝えた側としては、自分の出したコメントがどのようにその意見をまとめられ使用されたのかを知りたい という気持ちもあります。同じようなお気持ちの方も多いのではないでしょうか。多くの方々が貴重な時間を使い真剣に向き合ったコメントです。パブリック・ コメントを集めた側にも、どのように大量のコメントからそれぞれを代表する情報を抽出し、どのような意見として集約したのかを説明する義務もあるかと思い ます。