医療ガバナンス学会 (2022年8月22日 06:00)
この原稿は、2022年8月17日に、医療タイムスに掲載されました。
公益財団法人ときわ会常磐病院 乳腺外科医
尾崎章彦
2022年8月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ときわ会常磐病院では2022年7月、新型コロナウイルス感染症に関する大規模なクラスターが発生しました。
7月12日に最初の感染者が発覚。最終的に、累積の感染者数は151人(患者62人、職員89人)まで増加しました。いわゆる第7波の早い段階で出現した全国的にも大規模なクラスターということで、7月22日には、報道ステーションでも数分間にわたって報道され、院長の新村浩明医師が病院の窮状を訴えました。
さて、今回の感染の広がりの主たる舞台となったのが、病棟です。中でも、療養病床においては、クラスター発生の早い段階で、スタッフ・入院患者の大部分が感染する事態となりました。そして、その後、一般床にも感染が広がっていきました。
とは言え、本稿の目的は、病棟における感染対策の不作為を追及することなどではありません。実際、同じ医療機関に勤務するスタッフの一人として、この数年間、どの病棟のスタッフも、感染対策を強く意識してきたことを、筆者はよく理解しています。
むしろ、筆者の意図は、第七波の中で、医療機関において、容易に大規模なクラスターが発生する可能性を、広く社会に周知することです。現在、全国的にも新型コロナウイルスの感染者の数は、過去に例を見ないレベルで推移しています。8月3日には24万9000人でピークを記録し、その後も高いレベルで、推移しています。当然、院内感染も無数に発生しており、当院の他にも、さまざまな医療機関において、クラスターの発生が報道されています。現状では、どんなに感染対策に気をつけても、院内クラスターの発生を防ぐことは難しいというのが率直な印象です。
■ワクチン未接種という人災の側面も
もう一点、筆者が伝えたいことは、相次ぐ院内クラスターの発生は、政府の不作為による人災の側面が大きいということです。そう考える理由は、日本政府が、当初、医療従事者に対してのワクチン接種を推奨していなかったことです。
少し過激な言い方になってしまいますが、これは極めて愚かな判断だったと考えています。感染の拡大を受けて、日本政府は7月22日に医療従事者を対象とした4回目接種を許可しました。この判断がもっと早い段階でなされていたら、多くの院内クラスターを防ぐことができた可能性があります。正直なところ機を逸したと言わざるを得ません。
なお、8月2日に米国医師会雑誌のオンライン版「JAMA Network Open」に掲載されたイスラエルでの調査において、ファイザーによるBNT162bワクチン「コミナティ」の4回目を接種した医療従事者のグループは、接種回数が3回だった医療従事者のグループと比較して、ブレイクスルー感染のリスクが半分程度に低下したことが明らかとなっています。
もちろん、当初、医療従事者の4回目接種にエビデンスが少なかったことは事実でしょう。ただ、対象から、あえて医療従事者を抜く必要はなかったように思われてなりません。
■「インフルエンザより辛かった」
当院において、院内クラスターがもたらした傷跡は小さくありません。感染したスタッフにおいては、数日にわたり38~39度の発熱が出て、隔離期間終了後も全身状態が回復していないという方もいらっしゃいます。そのような方々から聞かれるのは、「インフルエンザより辛かった」という声です。その点、オミクロン株だから感染しても問題ないとの考えは、極めて危険と考えています。
また、当院においては、診療も一部縮小せざるを得ず、地域住民や周囲の医療機関に多大なご迷惑をおかけすることとなりました。現場の努力だけでは限界があります。今後も長期的にコロナと付き合って行かざるを得ないことを考えると、医療従事者におけるワクチンの重要性は、強調してもし過ぎることはないと考えています。