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Vol.22176 二度と”コロナ留年”を出さないために ~署名活動の現状と展望~

医療ガバナンス学会 (2022年8月24日 06:00)


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北海道大学医学部
金田侑大

2022年8月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

北海道大学医学部の金田侑大です。東京大学教養学部2年、杉浦蒼大さんのコロナ留年問題を契機に、発起人の一人としてスタートさせていただきました署名活動ですが、現時点で1000人を越える方々よりご賛同をいただいております。本当にありがとうございます。

今月19日に杉浦さんの成績が発表され、現時点ではコロナ感染時の補講対応などが認められていないまま、争点となっていた科目の単位が認められず、進級不可という判定が出ております。この結果を受け、杉浦さんは同日、東京地裁に留年処分の撤回を求め、東京大学を提訴しております。しかし、法廷や記者会見を通してでなければ、大学と学生の対話ができていないという現状は、とても悲しく感じます。

加えて、教養学部は成績取り違えに関して、今月16日に東京大学新聞社の追加取材に回答し、成績評価に疑義があっても単位が認定された学生は訂正の機会が与えられない現行の制度について、見直す余地はない、などと回答したことが報じられています。さらに、同記事の中で、自身の成績にも同様のミスがないか不安に思う東京大学の学生への対応については、「成績評価は教員による十分な確認のうえで付与され、誤りがないことが前提となっています」という回答があったとも書かれております。しかし、今回の杉浦さんの事例はまさにその反例であり、既存の体制のままでは、杉浦さんと同じようにやるせない思いを抱く学生がこの先も出てきてしまうのではないか、それは国家としての損失なのではないかと考えずにはいられません。

どうしてここまで、両者はすれ違ってしまったのでしょうか。

例えば、今回杉浦さんが、当該科目である生命科学実験において提出していたレポート課題の中には、“0点“だったものがあると伺っています。私は杉浦さんが提出したレポートを実際に見たわけではないので、確実なことは何も言えないのですが、期限内に提出したレポートが”0点”と言うことは果たしてあり得るのでしょうか。私が所属する北海道大学でも、1年生の教養の授業で、科学実験という毎週レポートを提出しなければならない必修科目がありました。あまり大きい声で言っていいのか分かりませんが、そのレポート課題では、「表紙で1点が貰えるので、必ず表紙だけは出せ!」と、言われているような科目でした。実際に課題の提出が間に合わず、表紙だけを提出しているような学生も、1回ぐらいであれば、なんだかんだ、ちゃんとパスしているといった科目でした。自身の経験を鑑みると、杉浦さんが自分の提出したレポートに“0点”をつけられたことを、採点した人による恣意的な評価だと考えてしまうことも、無理のないことかなと思います。

その評価が適正かどうかを判断するには、第三者からチェックを受けることが最適かと思います。この点に関して東大側は、”16人の教員が協働でチェックしている”としていますが、学生目線でその言葉を、”はい、そうですか”、と無条件に信じるにはあまりにもブラックボックスであり、加えて今回の事例では、説明のない成績の入力ミスなどもあったことから、学生と教員間の信頼関係が破綻してしまっている、というのが現在の状況だと思います。このほかにも、東京大学側が“適正”としている一連の対応ですが、コロナに感染した学生への対応を画一的に当てはめた結果、たどり着いてしまったのが現在の状況であり、“コロナ留年”に陥ってしまった学生と大学側が、今後の対応を協同で話し合っていく場を設けることができなければ、コロナに感染してしまった学生の教育の機会を守ることは、極めて難しくなってしまうのではないでしょうか。

以上のような状況を鑑み、署名活動の宛先に、東京大学教養学部のみならず、文部科学省を加えることとさせていただきました。文部科学省は各大学で、実習などのコロナ代替措置として、オンラインで実施できる体制を整えるよう以前から通達を出しておりましたが、包括的な議論が行われず、その対応の詳細を各大学に一任してしまったために、いわゆる”コロナ留年”と呼ばれる状況に追い込まれている学生が、東京大学以外の大学でもちらほら見受けられてしまっているのが現状です。今後、杉浦さんのような思いをする学生が増えぬよう、各大学のコロナ対応に関する議論・監督の強化を文部科学省に要請することも、この署名活動を行う目的の一つとして加えさせていただきます。

限られた情報で、外からどちらか一方を糾弾するのではなく、この先二度と”コロナ留年”に苦しむ学生を出さないための議論に繋げていくためにも、引き続き署名にご協力いただけますと幸いです。何卒よろしくお願いいたします。

https://chng.it/gBTDkXChdG

【金田侑大 略歴】
スイスはフラウエンフェルト出身。母は日本人、父はドイツ人というバックグラウンドで育つ。私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、現在は北海道大学医学部医学科4年に在学中。2021年9月から2022年7月まで、イギリスのエディンバラ大学で医療政策や国際保健といった分野を学んだ。医学部は4年生でCBTという試験(医者になるための仮免試験)があるのですが、当の本人はこの試験を目前に、コロナに関係のない未曾有の留年の危機に瀕しております。

 

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